劉備に転生した俺、三国志が思ったより治安悪すぎる ~ニートになりたいだけなのに、関羽と張飛が俺を覇王にしようとしてくる~   作:ブンチョウ

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第22話:関羽の浮気(?)、赤ら顔の言い訳

「兵站最高総責任者(CEO)」

 

 袁紹(えんしょう)社長から直々に下されたその肩書きは、響きこそ華やかだが、要するに「一番矢が飛んでくる前線のド真ん中で、泥まみれになって兵糧の尻拭いをさせられるデスゲームの責任者」だった。

 

 完全にトカゲの尻尾切り要員である。

 

「誰が現場で泥水すするターゲットになるかよォォー!!」

 

 俺――劉備(りゅうび)は即座に荷物をまとめた。

 

 支給されたばかりの軍資金(前渡金)と、経理部からせしめた白紙の領収書をカバンに詰め込み、本陣の裏口から汝南(じょなん)の田舎へ夜逃げをキメる算段だ。

 

 先日から「先生」と呼んで妙に距離を詰めてくる袁家の才女・劉氏(りゅうし)の「深夜の密室補習(実質残業)」からも、曹操(そうそう)軍の放つガチの矢からも、同時に逃げ切ってやる。

 

 しかし、俺が裏口の門に手をかけたその瞬間――。

 

 地平線の向こうから「ブオォォォン!!」と、当時の馬とは思えないスポーツカーのような重低音のいななきが響き渡った。

 

 猛烈な砂埃を巻き上げて爆走してくる、真っ赤な流線型の巨体。

 

 最高級のハイパー名馬「赤兎馬(せきとば)」だ。

 

 そしてその背には、長い髭をなびかせ、見るからに特注品と分かる緑のシルクガウンをまとった関羽(かんう)が、これ以上ないほどのドヤ顔で乗っていた。

 

「兄者ーーーッ!! お迎えに参りましたぞ! 関雲長、これより我が玄徳(げんとく)ホールディングスに復職いたします!!」

 

 感動の涙を流しながら、赤兎馬から華麗に飛び降りる関羽。

 

 普通ならここでガシッと抱き合う名シーンなのだが、現代人サラリーマンの魂を持つ俺の鼻が、最悪なシグナルを察知した。

 

「……クンクン。おい待て。お前、なんかめちゃくちゃ良い匂いしない?」

 

 俺は感動のハグを拒否し、警察犬のように関羽の周りを嗅ぎ回った。

 

 この時代、一般の馬といえば泥と汗と馬糞で猛烈に臭いのがデフォルトである。

 

 しかし、この赤兎馬からは「最高級パフューム配合のプレミアム馬用シャンプー」のフローラルな香りが漂っている。

 

 さらに関羽の口元からは、貧乏な劉備陣営では一生拝めないレベルの「超高級ヴィンテージ老酒」と「特選霜降り肉」の贅沢な残り香がプンプンと漂っていた。

 

「お前……曹操の会社(魏ワークス)で、めちゃくちゃ『過剰接待』されてただろ! 漢の忠臣とか言いながら、完全に競合他社の手厚い福利厚生と高級パブに魂売ってたろ! 浮気か!? 浮気なのか!?」

 

「ち、違います兄者ァ! 誤解です!」

 

 関羽は自慢の「赤ら顔」をさらに真っ赤に染め上げ、冷や汗を滝のように流しながら必死の弁明を始めた。

 

「あれは曹操社長が強引に『三日に一度は小宴、五日に一度は大宴』を開催し、勝手に上等な役員室(偏将軍のポスト)を押し付けてきただけで……! 私の心は常に兄者と共にありました! 現に、貰った金銀財宝はすべて部屋に置いて、辞職書と一緒に置いてきました!」

 

「ほう、さすがは義の男、関羽。物欲に目が眩まなかったわけだな」

 

 俺が少し見直してホッとしたのも束の間、赤兎馬の臀部(でんぶ)(お尻)に目が留まった。

 

 そこには、ハッキリと焼き印が押されていた。

 

 ――『魏事業体:最高責任者・曹操 私有財産・通し番号一番』。

 

「名義変更してねえじゃねえか!!! 完全に高級社用車の無断横領だろこれ!!!」

 

「ち、ちがいます、曹公は確かに、『お前にこそ相応しい』と申されたので、もらったまでで……」

 

「総務の稟議通ってねえよ! 返してこいよそんなヤバい固定資産!!」

 

 劉備が頭を抱えて叫ぶ中、関羽はピュアな目で、歴史上の美談「千里行」のウラ事情を誇らしげに報告し始めた。

 

 しかし、その内容が現代のコンプライアンス意識を持つ俺には「広域強盗致死傷事件の供述」にしか聞こえなかった。

 

「辞職手続きの際、支店長(五関の守将)どもが『稟議書のない社用車の持ち出しは認めん、始末書を出せ』とゴネて門を閉めおったのです。ですので、行く手を阻む管理職たちを、全員物理的にクビ(斬殺)にして強行突破してまいりました!」

 

「グランド・セフト・オートじゃねえかァァァーーーー!!! 美談みたいに言ってるけど、ただの業務妨害と殺人暴走劇だよそれ!!!」

 

 ストーカー社長(曹操)の愛車を盗み、そのセキュリティを全員ぶち殺してきたという義弟の狂行に、俺の胃壁はハチの巣状態になり、その場に崩れ落ちた。

 

 そこへ、甄氏(しんし)の裏情報網から、密偵が血相を変えて走ってきた。

 

『劉備殿、大変です! 関羽殿が曹操の最高級車を盗み、支店長たちを皆殺しにした件が袁紹社長の耳に入りました! 社長は「我が袁家の客将が曹操の名馬を盗んだとなれば、四世三公の面子に関わる!」と大パニックで、こちらへ怒鳴り込んできています!』

 

「お前ーーーッ!! 袁紹社長にも速攻で捕捉されてんじゃねえか!! 早くそのお尻の焼き印に泥を塗れ! カモフラージュして型落ちの中古の駄馬に見せかけるんだよ!」

 

「えっ、手入れ(トリートメント)をしたばかりの毛並みが……」

 

「四の五の言うな! 捕まったら一族連帯責任で即死だぞ! よし、今すぐ全治三ヶ月の精神的ブレイク(緊急有給)の書類を偽造する! 袁紹社長に見つかる前に、汝南へ全速力でバックレるぞ!!」

 

 こうして、特大の爆弾(関羽&盗難車)を抱えたまま、袁紹のオフィスから全力で大脱走をキメた俺。

 

 俺は、盗難疑惑の赤兎馬と、赤ら顔で弁解する関羽を抱えたまま、汝南へ向かって全力で逃げ出すしかなかった。

 

 だがその先に、もう一人の脳筋義弟が「関羽が競合他社に就職した」とガチギレし、蛇矛(だぼう)を握って待っていることを、この時の俺はまだ知らなかった。

 

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