劉備に転生した俺、三国志が思ったより治安悪すぎる ~ニートになりたいだけなのに、関羽と張飛が俺を覇王にしようとしてくる~   作:ブンチョウ

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第9話:徐州の美魔女と老人介護

 ──事態は最悪、いや、破滅的な方向に進んでいた。

 

 あの曹操(そうそう)が「父親を徐州の者に殺された」という大義名分──実際はただの邪悪な領土欲──を掲げて徐州(じょしゅう)に攻め込み、各地で凄惨な大虐殺を行っているという。

 

 徐州の太守である陶謙(とうけん)から「どうかお救いください」と涙ながらに泣きつかれた俺たち三兄弟だったが、現代人である俺──劉備(りゅうび)の本音は完全に一つだった。

 

「あの呂布を力技で追い詰めるようなガチのシリアルキラー曹操と、絶対に戦いたくない! 頼むから関羽も張飛も大人しくしてて! あいつらの前線に出たら一瞬で肉片にされるって!」

 

 リアルな現実として、徐州のトップである陶謙はすでに病床にあり、余命いくばくもないヨボヨボの老人だった。

 

 徐州の役所は曹操の恐怖によってパニック状態に陥っている。

 

 そこで俺の脳裏に、天才的なひらめき──事なかれ主義の社畜サバイバル戦略が降臨した。

 

「そうだ! 前線に出て曹操軍の矢面に立つくらいなら、この病気のおじいちゃんの看病を理由にして『私は今、看護で忙しいので戦えませ〜ん』とアピールしよう! 前世のブラック企業で培った『高齢の取引先社長への徹底接待』と、介護福祉の基礎知識ならいくらでもある!」

 

 生き残るため、俺は即座に重い鎧を脱ぎ捨てた。

 

 代わりに粗末な麻布で作ったエプロンを腰に巻き、陶謙の寝室へと引きこもったのである。

 

 それからの俺は、前世の知識をフル活用した完璧な「終活・介護ケア」を開始した。

 

 まず、病室の衛生環境を整えるために徹底的なクリーンアップを行い、床ずれ(褥瘡(じょくそう))を防ぐために、定時ごとに陶謙の体を優しく寝返らせる──介護における基本技術『体位変換』である。

 

 さらに、喉に詰まらせて誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こさないよう、食材をドロドロにすり潰した栄養満点の「特製おじや」をスプーンで一口ずつ優しく口へ運ぶ。

 

 食後は、背中をリズミカルにトントンと叩いて、気管の痰を出させてあげた。

 

「陶謙さん、楽にしてくださいね。無理に起き上がっちゃダメですよ。遺言書──エンディングノートの書き方も、私がゆっくりサポートしますからね」

 

 その至れり尽くせりの光景を、寝室の外から盗み見ていた関羽(かんう)張飛(ちょうひ)は、ガタガタと震えていた。

 

「おい雲長(うんちょう)、兄貴はいつ曹操をぶっ殺す作戦を練るんだ? 毎日おじいちゃんの背中トントン叩いてるだけだぞ。戦の準備をしなくていいのか?」

 

 張飛の疑問に対し、インテリゴリラの関羽がハッと目を見開いて、恐怖に満ちた声を絞り出す。

 

「……違うぞ翼徳(よくとく)。兄者はあえて戦場へ出ず、徐州の最高権力者である陶謙の『最期』を完璧にプロデュースされているのだ。敵である曹操の暴虐とは対照的に、自らは見ず知らずの老人に『至高の慈悲』を尽くす姿を天下に提示し、徐州の領民の心を100%掌握するための精神戦争──高度なプロパガンダだ。なんて深謀遠慮、恐るべきお方だ……!」

 

 そんなゴリラたちの勘違いを余所に、俺の介護は続いていた。

 

 陶謙をお世話し、現代の「おむつ交換」に近いデリケートな布の処理まで手際よくこなす俺を、寝室の(とばり)の奥からじっと見つめる、妖艶な香りを漂わせた美女がいた。

 

 年の離れた陶謙の若い側室であり、宮廷の裏表を知り尽くした美魔女──鳳仙(ほうせん)である。

 

 彼女は、権力者の老人に囲われ、彼の死後は自分もどう処分されるか分からない乱世の歪みを生きる女性だった。

 

 それゆえ男たちのドス黒い下心を見飽き、冷徹で計算高い。

 

 最初は「あの劉備とかいう男、うちの旦那を誑かして徐州を乗っ取る気ね」と、袖の奥に暗殺用の毒針を隠し持っていた。

 

 一方の俺は、彼女の殺気に気づいて内面でガタガタと震えていた。

 

(うわ、なんかめっちゃ色っぽいお姉さんが、俺を毒殺するタイミングを狙ってる気がする! 目を付けられたら一発で消される、ヤバい!!)

 

 恐怖に駆られた俺は、前世で徹底的に叩き込まれた『現代のハラスメント対策』と『大人の女性への完璧なビジネスマナー』をフルスロットルで発動した。

 

 決して鳳仙の体に触れず、下心が露見して怒らせないよう、視線は彼女の「おでこ」か「地面」の二択に完全固定。

 

 徹底してジェントルマンに徹する。

 

「鳳仙様、陶謙様の容態は私が責任を持ってケアしますので、どうかご安心を。それより鳳仙様も、看病の心労で足元が冷えていそうですね。ほら、この温めた石を足元に置いてお使いください。私はただのボランティアですので、どうぞお構いなく!」

 

 ──その瞬間、鳳仙の背筋に、これまでにない激しい電流が走った。

 

 彼女の一番の武器である「色香」がこの男には1ミリも通用せず(ただ怯えているだけ)、それどころか、ただの権力利権の付属物として見られがちな自分を一人の「疲れ果てた女性」として扱い、冷え性の足元を優しく温めてくれた(ただの点数稼ぎ)。

 

(この男……天下の英雄と噂される劉備元徳でありながら、老人の糞尿を厭わず世話し、私の誘惑をストイックに無視し──なんて底知れぬ自制心、ストイックな絶倫の覇王だわ! それなのに私の心まで見透かして癒してくれた……。私、この人のためなら、徐州の利権をすべて差し出してもいい……!)

 

 彼女の冷酷な計算は一瞬で消し飛び、その瞳はトロンとしたガチ恋のメロメロ状態へと変貌した。

 

 数日後、俺の完璧な現代介護によるQOL(生活の質)の向上によって、奇跡的に少し元気を取り戻した陶謙が、涙を流しながら俺の手を強く握り締めた。

 

「劉備殿……あなたの『徳』には完全に平伏した。曹操の脅威が迫る中、私の汚物まで処理し、優しく看取ってくれるとは。鳳仙もあなたを神のように慕っておる。……徐州を、徐州のすべてをあなたに譲る! 鳳仙も、一緒に連れて行ってくれ!」

 

 満面の笑みの陶謙と、頬を赤らめて俺を見つめる鳳仙。

 

(嫌だよ!!! なんで老人介護を一生懸命やってただけなのに、総資産数千億のブラック地方企業──徐州の社長の椅子と、前社長の若い側室まで遺産相続の付属品みたいに付いてきてるんだよ!!! 曹操がこれ怒ってまた激怒して攻めてくるだろ!!! 誰か弁護士を呼んでくれ! 相続放棄の手続きを教えてくれええええ!!!)

 

 俺が心の中で大絶叫していると、裏で世論工作を完了していた張レンが、徐州の領民たちを大勢率いて役所の周りを埋め尽くした。

 

「見たか! 劉備様が徐州の新たなる主になってくださったぞ! 聖人万歳! 曹操なんか怖くないぞ!」

 

 地響きのような歓声が響き渡る中、関羽が満足げに頷く。

 

「おめでとうございます、兄者。これで天が我が軍に、最初の巨大な拠点を与えましたな」

 

「ちがう、違うんだ……俺はただ、前線に行きたくなくておじいちゃんのお尻を拭いていただけなんだ……(絶望)」

 

 俺の必死の弁明は、領民たちの歓声にかき消されていく。

 

 こうして劉備は、ただの「事なかれ主義の老人介護」をしただけなのに、曹操から最も憎まれる「徐州の若き最高権力者」へと大出世。

 

 妖艶な美魔女・鳳仙をマイハーレムの7人目に加え、地獄の徐州防衛編へと強制的にトコトコと進まされるのだった。

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