続くかも
俺は転生者、名はアズマ。
どういうわけか、あのHUNTER×HUNTERの世界に前世の記憶を持ったまま転生してしまったようだ。時代は主人公のゴンよりちょっと上の世代。行動次第では原作のキャラに逢うことも現実的にあり得るポジションだ。
そんな俺は今、NGL自治国に居る。
厳密には近郊を移動中に他ハンターからの救援信号を偶然受け取り、現場に急行したところだ。曰く、ヤバくてデカい虫が大量発生したからSOS、とのこと。となれば行くしかないでしょ。
本当は危ない話に首を突っ込む気はなかったのだが、俺の原作知識が虫食い状態なせいで救援要請を受けたときに漸くキメラアントのことを思い出した。なぜ忘れたし。忘却していた事実を棚上げして誰かのせいにしたいが自分の顔しか浮かんでこない。ガッデム。
そんなこんなで、俺は蟻共の真っ只中で孤立していたハンター4人組を保護して彼らと一緒に絶賛逃走中である。ちなみに4人の内訳は、帽子を被った若い男女が一人ずつと、被っていない男が二人。見た感じボウシーズの二人は念をそれなりに使えるようだが、残る二人は……はっきり言ってシロウトに毛の生えたようなモンだ。男二人も一応武装はしているが、凶暴な人喰い蟻にビビって完全に戦意を喪失している。こいつらは足手纏いだ。見捨てて逃げたほうが残る二人の生存率は上がるだろうが、それをしなかったため今のピンチがあると見た。
ではどうするか。足手纏いの野郎二人を捨ててずらかるか。
答えはノー。俺は見捨てない。何故ならその必要がないから。
根拠は別に俺が腕自慢だからではなく、俺が持つ『発』の特性のせいだ。
『厩所の安息処(ボクマダネムイヨ)』
これが俺の念能力。
「おい、囲まれてるぞ! もっと速くならないのか!?」
保護したハンターの一人が叫ぶ。確かに部屋の周りは蟻の兵達がぐるりと取り囲んでいる。念空間の移動には操作系の念を使うが、速度は大して速くない。短時間なら俺が自分の足で走ったほうが速いだろう。
「それじゃ、ちょっと飛ばすぞ。燃費が悪くなるからあまりやりたくねえけど」
俺は速度を少しばかり上げる。すると徐々に追いかけてくる蟻の数が減るが、素早い羽虫だけは追い縋ってきた。意外としつこいな。
……仕方がない。
俺は軽く気合いを込め、大幅に速度をアップさせた。具体的には、放出系の念を使う。後方に向かってオーラを噴出することで、推進力を劇的に高めるのだ。これで時速は100キロを優に超える。羽虫の中には継続して時速70~80キロを出せる種もいるが、これなら流石に追いつけない。
「おお……! スゲーぜ、ヤツら見えなくなった! このまま国境まで避難しようぜ!」
ぐんぐんと加速して虫を置き去りにする光景にさっきの男も大喜びしているが、操縦している俺はなかなか大変だ。鍛錬の成果でオーラ総量は並以上にあるが、三種類の系統を同時に行使し、それを長時間維持するのは大変なのだ。一度具現化して定着した物だから維持コストはだいぶマシといえるが。
「追手が来ないのを確認したら、一旦速度を落とすぞ。越境までだいぶあるが今の速度を維持するのは無理」
期待しているところ申し訳ないが、人間だもの、限界はある。ハンター達は俺の言葉に多少落胆していたが、追手の姿が見えないことで先ほどまでの強い緊張からは解放されたようで、僅かにだが笑顔も見える。俺はそんな彼らを尻目に目の前の作業に意識を集中させる。
この地区一帯は機械類の持ち込みは全面的に禁止されており、現地民は自然と共生している。世界中にはこういった場所が点在しており、そこでは自動車以上の移動性能を誇り、耐久性にも優れる俺の『発』はまあまあ有用である。
保護した4人組もここでのルールに則り徒歩で赴いたようだ。或いは何らかの鳥獣に騎乗するなりしたのか。ま、俺の『発』に搭乗している今となっては意味のない話だ。
「アンタ達も災難だったな。NGLはあんな化物が闊歩してるのか? 世も末だな」
「…ヤツらはある時を境に突然現れた。最初は少数が目撃されたが短期間で勢力を急激に拡大している。性質は凶暴で残忍。何より! ヤツらは食糧として人間を特に好む! 何組かに分かれて調査を行っていたが、仲間との連絡も途絶えた。オレ達もアンタが来なければ全滅していた……! 一刻も早く協会に窮状を伝えないと……」
窮地を脱したところで俺が軽口を叩くと、グループを代表して帽子の男から真に迫った返答が来た。…あんま軽々しく振る話題じゃなかったね。
「仲間殺られてんのか」
「プロハンターは少ないが、調査チームの規模はそこそこだ。だが思った以上に事態は逼迫していた。中規模以上の村や集落も既に襲撃された後……完全にミスだ。こちらの見積もりが甘かった……!」
今喋っている帽子の男、この4人じゃ多分こいつが一番出来る。で、一番敵勢力の怖さを理解しているのもこいつ。
「蟻は駆除…だよな」
「当然だ、話し合いが通じるヤツらに見えたか? あれはオレ達を餌としか見ていない」
「口から涎垂らしながらガンガン攻撃してきたからな。……協会への連絡手段は?」
「私の蜂が近くにいたハンター、あなたにメッセージを届けたけど、協会へはまだ……こうなったら国境まで戻ったほうが早いかもね」
「ま、俺に届いただけ御の字だな」
一つずつ確認を取ると、女性ハンターが話を繋げた。この女は虫使いか。コイツが蜂を飛ばして他の安全圏にいるハンターに便りが届くか否か。腕にもよるが彼女はまだ若いし、距離が離れるほど虫に頼るより自分で直接連絡を取ったほうが確実だ。
NGLは電化製品全面禁止。インターネットどころか電話やFAXも一切なし。
仮に電話を持っていても広範囲に亘って電波が入っていないんだよね。
こういう非常事態には弱いね。外部への注意喚起、初動の遅れは致命的になるよ。
ここは俺が連絡を―――
そう思い、次の行動に移ろうとした瞬間、
あまりにも悍ましい気配がした。
「ニャニャ? ニンゲンがこんなところで何しているのかニャ?」
そいつは信じられない速度で、音もなく俺達の横に現れた。
ぱっちりと開いた、好奇心が強そうな眼。
短めの頭髪と、その上には猫のような耳。
指先には尖った鋭い爪。
明らかに純然たる人間ではない特徴的な容姿。
それでいて二足歩行し、人語を解する知能。
考えるまでもない、こいつもキメラアントだ。
しかし、そんなのは些末な問題だ。
何だこいつ。今どこから現れた?
警戒はしていたのに、どの方向から来たのかすら分からなかったぞ!?
視界外から、いきなり目の前に現れた。
こいつ時速何キロ出せる? 200キロ? もっと? 分からない!
「狩りをしてたら逃げたエサがいるって聞いたからさー、来てみたんだよネ。その空飛ぶ透明な箱ナニ? この前戦ったニンゲンは変な武器幾つも出してたし、キミ達も彼のお仲間かな?」
思い、出した……!
こいつ……!
確か護衛軍、ネフェルピトー……!
俺の記憶、もっと仕事してくれませんかねえ。
ネフェルピトーを思い出すと同時に紐づいた原作知識が断片的に頭に浮かぶ。ピトーの言う変な武器を出す人間は、原作に倣えばカイトだろう。彼はもう殺されてしまったのだろうか。カイトが腕を切断され、ゴンとキルアが逃げて……他のハンターが襲われたタイミングってその後だっけ? その辺の正確な時系列は思い出せない。またこの世界では違う可能性もある。
「ありゃ、返事なし? じゃあ
俺達が黙っていると、ピトーが体を縮こませ総身に力を込め始めた。それと同時にヤツの体から溢れる爆発的なオーラ! 背後から小さく悲鳴が上がる。どうやら後ろの誰かが失神したようだ。禍々しく暴力的なオーラの圧に俺だって倒れてしまいたい。
うん。これは無理。いくら俺の『発』が頑丈でも、こいつに全力で殴られたら秒で破壊される。一発くらいなら耐えられるかも知れないが、試さないほうが賢明だろう。
かくなる上は―――
放出系のオーラを『隠』で飛ばし、ネフェルピトーを包む。
そのオーラごとピトーを操作系の念で……こうだ!
「せーの
……アレレ?」
「一名様、ご招待だ」
なんとか成功。やむなくネフェルピトーを、俺の念空間に取り込んだ。やり方がやり方なので警戒している相手に多用すると躱されたり対策される。それに出来ればこんな化物を、俺の『発』に入れたくはなかった。ピトーの速さ相手では逃げ切ることも出来ないので致し方ない。今はF.O.Eに遭遇したが、舐めプした敵に先制攻撃で殺されるのだけは回避したというところか。
斯くして俺と、4人の調査員と、一匹の蟻が同時に存在する奇妙な念空間が生まれた。ピトーの出現した位置は、俺と後方にいるハンター達のちょうど中間。前方から座ったままの俺、走り出そうと前傾姿勢で構えたピトー、思わず立ち上がったり腰を抜かした4人組の順に並ぶ。ハンター組はいきなり間近にPOPした怪物に戦慄して声も出ないようだ。ちょっと可哀相だが事前説明する暇も余裕もなかったので我慢してくれ。
背後にいるピトーは周りを見回し、次に俺達を見て、自分の状態を確かめ、もう一度俺達を見ると、おもむろに俺に近づき殴りかかった。ピトーの振り回した手が、俺にヒットする。
だが、俺は無傷だ。
「残念。お前の攻撃は効かない」
ピトーはまず自分が何某かの能力でこの空間に入れられたのを確認し、次に体外にオーラを出せないことに気がつき、後ろで狼狽えている奴らと、平然と座って一人だけオーラを操る俺とを見比べ、俺を殺せばこの空間を破壊出来ると判断したのだろう。正解だ。
攻撃が無効化されたピトーは不思議そうに自分の手を見つめていたが、すぐに向き直り今度は透明な隔壁に向かって腕を振り下ろす。続けて蹴り。だが、やはりどちらもまるで何事もなかったように攻撃はかき消された。
そこで改めてピトーは俺を見て首を傾げながら問う。
「コレ、どうなってるの?」
「見ての通りだよ」
「壊せるの? これ。ボクの攻撃でビクともしないんだけど」
「そういう風に出来ているから」
「材料ナニ? それがキミの能力? それともキミ自身の特性かな~?」
「世界で一番硬いダイヤモンドよりは脆いんじゃないか」
こいつは外部から破壊を試みたタイミングで内部に入れられた経緯から、内部からは壊せないが外部からは壊せる可能性を疑っている。ので、適当にはぐらかす。
ピトーはしばらく、隔壁を触ったり観察したり再度控え目に叩いたりしていたが、やがて無駄だと悟ったのかつまらなそうにその場でこっちを向いて座り込んだ。
「ウン。分かった。コレは壊せないやつだ。叩いても引っ搔いても衝撃すらない」
俺の
「さっきからキミ達は一切攻撃してこない。それはそっちの攻撃も通らないから! ここはそういう場所だ」
「大層な自信じゃないか。俺だけは力が使えるのを忘れていないか?」
黙っているとピトーは勝手にどんどん分析を進めてしまうだろう。適度に口を挟んで少しでも話題を逸らしたほうがいい。ついでにオーラを出してアピールするのも忘れない。
俺の返しに対しピトーは胡乱げな、細めた目を向けてくる。
「…キミこそだいぶ自信ありげだね。その自信の根拠、ボクに仕掛けてこない理由と関係があるのかな?」
こちらを探る視線とドスの利いた声色に内心で冷や汗をかきながら、俺は胸を張って答えた。
「じゃあ聞くが、俺が今のお前を全力で殴って、殺せると思うか?」
「……ニャ?」
「俺は無理だと思う」
全然誇れることではないが言い切る。そんな俺にピトーも意表を突かれたのか反応するのに若干間が空いている。が、すぐに考えを切り替えたのか俺に近づいてきて、間近で俺の顔や全身の様子をしげしげと眺める。作中でも最難関のキメラアント編屈指の化物に全身を隈なく観察されるのは生きた心地がしないが―――解剖してみようとか考えているかも知れない―――実害はないので我慢する。
「キミがボクを殴り殺すのは――ウン。ムリだね! ちょっとは痛いかも知れないケド……つまりキミは最初から戦いは諦めてたんダ! そっかー……変なヤツ」
ピトーはパッと顔を綻ばせ、立ち上がったかと思えば頭の後ろで腕を組んだりしている。忙しないというか、表情と動きのバリエーションが豊かだ。猫らしく移り気なので、興味を持たせ続けるのが難しい。話に緩急をつけて聞かせるのがいいだろう。
「変な奴は余計だ。俺はお前を殺せない。だが、事実としてお前はここに閉じ込められている。だから、
「…………ふーん。それって誰?」
身を乗り出して訊いてくるピトーに、俺は懐から私物を取り出して見せる。
それは―――
「今から呼ぶのさ」
「あ! そんな物を……!」
携帯電話だ。ここまで来るのに検問を経由せずに入国しているからなぁ。俺が電子機器を持ち込んだのに気づいたハンター達が何か言いかけるが知らんぷりしとこう。
ちなみに電波の無い場所でも、俺の念空間に入っていると何故か通話は可能なのだ。理由は分からない。そういう風に作ってもいない筈だが、今はただ有難い。
「すいませーん、ハンター協会さぁん? あのですねー、NGLで人喰い蟻が大量発生して手に負えないんで討伐隊お願いしまーす。大至急東ゴルトー辺りまで来てくれません(適当)? え、詳細? 関係者と代わるので少々お待ちを……4人の中にプロのハンターいる?」
「オレが代わろう。ライセンスを持っている」
長引かせる話でもないのでさっさと電話して手短に用件を告げる。俺以外の全員にも聴こえるようにだ。問い掛けると、帽子の若い男が自分はプロハンターだと名乗りを上げた。彼に電話を手渡す―――
瞬間、獣特有の鋭い爪の生えた手が伸びてきて携帯電話を奪い取ろうとする。が、奪われる寸前に見えない壁に遮られて未遂に終わった。
「ありゃ、失敗」
ここでは相手の所持品を奪うのも禁止されている。同意があれば手渡しは出来るが、この場にピトーの味方はいない。
何とも都合のいい能力に見えるかも知れないが、このルールは誰にでも平等なので、仮にピトーが携帯電話を持っていたら俺はピトーが電話をかけるのを止められない。相性的には、旅団メンバーではウボォーギンは無力化できるがシャルナークを入れると危険なのだ。
話が終わったらもう一度俺に代わってくれ、と一言添えて帽子の男に電話を渡す。
ハンター協会への調査報告。蟻の危険性、被害拡大予測、世界へ向けた情報の発信……。それらの話し声をBGMに、俺はこれからのことに思いを馳せ、予定の大きな変更を余儀なくされたのを自覚する。もしここでピトーが退場すれば原作の流れからは外れる。色々と不都合も生まれるだろう。
俺の原作知識が要所要所で曖昧なこともあり、当初原作に介入する予定はなかった。なので登場人物に逢うつもりもなく、故に受験はせずプロハンターにもなることなく今日まで過ごしてきた。念修得はしたが、ライセンスは持たないアマチュアハンターだ。落ち度があるとすればキメラアント編周りの記憶がほぼ抜け落ちていたせいでNGL近海を不用意に通過したことだ。バックレても良かったのだが、救助要請があったのだから仕方がない。
……あれこれ考えていると話が終わった帽子の男から電話を差し出された。受け取り、耳を押し当てる。
「ハンター協会会長、ネテロだ。話があるそうじゃな」
もしもしと言う前に電話口から低く、しわがれた声が響いた。最初、電話口に出たのは受付嬢だが、帽子の男は途中から会長に取り次いで貰えたらしい。ネテロ会長もフットワークが軽くて非常に助かるぜ。会長の威厳ある声色に俺も自然と丁寧な口調になる。
「今回、救援要請に応じたアマチュアハンターのアズマです。早速ですが用件は手短にお伝えします。現在、移動中の我々がキメラアントの一体を護送しているのはご存じですね?」
「ポックルから話は聞いておる。蟻は数も多いが、稀に生まれる特異個体は並のハンターには手に負えない、ともな……強いのか?」
「ええ、強いですよ」
「どの程度」
「会長よりも、圧倒的に」
「―――」
暫しの沈黙。それから聞こえる微かな吐息。
そこに乗る感情は驚愕か疑惑か感嘆か。
それとも、感謝か。
全てかも知れない。
「今後、同レベル、或いはこれ以上の個体が出現する可能性が大だと考えています。ですので、選りすぐりの精鋭部隊の派遣を強く希望します」
「―――いいぜ。近日中に討伐隊を組んで駆けつけてやる。何だったら俺が先行してやってもいい」
「お願いします」
その後、俺と会長で幾つかのやり取りをし、合流地点を確認して通話を終了する。
話し合いが難航するかと思ったが、あっさり進んだな。
「話、済んだ? こっちは待つだけニャんだけどね」
退屈極まれり、といった風なピトーがつまらなそうに聞いてくる。その様子はあくまで余裕そうだ。然もありなん。この念空間に水洗トイレは付属していない。長時間運行も可能とはいえ、本来は何日間も滞在するような代物ではないのだ。
……まあこの世界のちょっと鍛えた人達、何日も眠らず飲まず食わずでも行動が可能だし、訓練次第ではトイレも同様なので下痢でも起こさなければ問題はないのだが。生水には注意しておこう。
「この場合の待つっていうのはサ、
「……。お前にとっては非常に残念なお知らせだが航行に支障は全くないね。鼻唄でも歌いながらエスプレッソのショットを頂きたいくらいの気分だ」
シュタバって都市部に行かないと意外とないんだよな。この騒動が終わったら飲みに行こう。
しかしこれで察しがついたこともある。キメラアントの王、メルエムはまだ誕生していない。
「なぜ……」
「?」
「何故人間を食うんだ? 家畜や農作物、森林にいけば木の実や虫だっている。NGLは自然溢れる土地だ。栄養の摂取には困らないぞ」
何とはなしに、手持ち無沙汰にしている猫型キメラアントに話題を振ってみる。お題は別になんでもいい。ピトーがどんなリアクションを取ろうと俺は気にしない。
「それ、理由とか要る? キミ達だって生存を目的に他の生物を殺して食べるよネ。ボク達の場合はソレがニンゲンなだけ」
コロニーの拡大や女王の摂食交配という本当の理由を話さないのは当然として、俺にとって肝要なのはこいつの精神性だ。この時点でのピトーはただの残虐な蟻の一体に過ぎない。メルエムの変化に伴い献身や自己犠牲の精神を見せる忠臣ではない。おかげで変に入れ込む心配もない。
遠慮なく屠れる。
「いいのかい? そんなことを言って」
「???」
俺が思わせぶりに言ってやるとピトーは首を傾げる。頭にクエスチョンが三つくらい浮かんでいるな。
「過剰な火遊びは火傷の元だぞ。もしかしたら今回の件は人類から蟻への最初の
「ボク一人に手も足も出せないキミ達が? どうやって?」
「イヤだなあ、懇切丁寧に手口を教えてやるワケがないだろう」
交錯する二対の視線。俺とピトーの間に火花が飛ぶ。
口プロレスは兎も角として、人類が今日まで発展してきた理由を考えれば答えは自ずと分かるだろう。迅速に対応すればキメラアントの脅威を潰せるのは原作で証明済みだ。そのことをこいつらはまだ理解していない。
「ま、いいさ」
「いいの?」
「いずれ分かることだからな」
その時にお前はもういないけど。
心の中だけでそう呟き、俺は前方へと向き直り太陽を探す。一帯は建造物がなく、四方に亘って地平の彼方までよく見渡せる。衝突事故はなさそうだが、スムーズな合流のために現在地と方角の確認だけはしておきたい。
俺達人間が動かずじっとしていることに飽きたピトーが、部屋の右側を陣取るベッドにぴょんと飛び乗り占拠した。猫人はふかふかのベッドの生地を軽く押したり撫でたりして、触り心地を確かめている。何か意味あっての行動だろうか。特段、大きな意味はないのかも知れない。
「見れば見るほど不思議だね。小さな部屋にある物といえばコレだけ。設計したのはキミ? ま、弱いから戦わない能力っていうのもそれはそれでアリ? ボクにはよく分かんない思考だけど」
「こいつに興味があるのか? 知りたいか」
「……たった今新しい興味が湧いたよ。キミがボクに情報を提供して何の得があるかだ。言ってごらん。キミがどこでウソをつくのか、それとも会話そのものにカラクリがあるのか、見極めてあげるからサ」
感情の籠っていない瞳孔の開いた眼でこちらを見つめ、ベッドに腰を下ろした状態でピトーは宣言する。
こいつは基本的に好奇心旺盛で、あくまで自分が優位にあると信じている。だからか、適当に話を振ると一応会話には応じてくる。ただ、会話から自分達の情報を漏らすことはしないし、こちらに対して探りも入れてくる。
「そか、なら話そう。これはな、牧場でバイトしながら思いついた能力なんだ。牛馬の世話をして、草叢に寝転がり空を眺める……。その時の気分が実に心地よくてな」
突然の自分語りに意表を突かれて、ぽかんとしているのかピトーに反応はない。
俺はその様子を無視して話を続ける。起床が早いこと、糞尿はこまめに片付け塒は清潔を保つこと、食事の提供は速やかに、場合によっては手入れもしてやる、ブラッシングがお勧め。草食動物は繊細なので、時々話し掛けたりしてリラックスした状態を作ってやるのがコツ。群れのボスやお互いの関係も把握しておくこと、放牧に連れ出す順番に関わる。
「あー。もういいよ」
身振り手振りを交えた俺の牧場談義は蟻によって唐突に打ち切られた。家畜を育てるシステムや群れの上下関係などキメラアントの参考になりそうな内容もあった筈なのだが、ピトーにとっては面白い話題のチョイスではなかったようだ。…まぁ念能力の秘密について語られるかと期待したら肩透かしを食らったというのが大きいだろうが、知ったことではない。
「キミの話をずっと聞いていて分かったのは、一連の話に脈絡や法則性はないってコト。つまりこの話に意味なんてない。キミがしているのは―――
ピトーは俺に向けて人差し指を突き出す。それに対して俺はぐわっ、と仰け反ってみせる。オーラを出せるなら何らかの攻撃を疑うところだ。指からビームとか。
「面白い推論だがハズレだ。そもそも俺は時間稼ぎなんてしていない。稼ぐ? 増援が来るまでの時間をか? 俺が話すと
「航行速度に変化はない ……それでも時間稼ぎだね。ボクの勘がそう言ってる」
そう自信たっぷりに、ピトーは断言した。すぐそこに正解があるという一種の確信があるようだ。
……そろそろ潮時かな。本当は出来ればもっと劇的に決めたかったが、これ以上長引かせるとこいつは自力で正解に辿り着く。原作冨樫キャラを甘く見てはいけない。分かったところでどうもしないが、面倒ごとを増やす必要もない。
俺は一度深く息を吐き、この茶番を終わらせるべく魔法の言葉を口にした。
「
途端、何か言いかけていたピトーがそのままの姿勢で固まり、たちまち俺のオーラで包み込まれる。
操作系の念能力。
ネフェルピトーを操った。
※『
・念空間内の対象を操作状態にする。
生物・非生物を問わず操作できる。
この念空間に入ったものは、使用者である俺も含めて特定の行動を行うと減点される。
A.他者に何らかの攻撃を行うとマイナス4点。
B.他者の持ち物の破壊や窃盗などを試みるとマイナス4点。
C.隔壁の破壊を試みるとマイナス4点。
D.備品の破壊や窃盗などに及ぶとマイナス2点。
眠るために寝具を勝手に使用するのは減点にならない。
E.電子機器で外部との連絡を試みると1回につきマイナス1点。
F.その他の手段で外部との連絡を試みると1回につきマイナス1点。
G.外部から何らかの毒、病原菌、罠などを持ち込むとマイナス6点。
H.相手の質問に答えないと1回につきマイナス1点。
I.A~Fを一つも行わないとマイナス6点。
J.A~D及びGを行わず意識が覚醒したまま30分が経過した場合、搭乗者は任意に退出できる。
α.減点が7に達すると条件αを達成。
β.αを満たしたものが俺か寝具に触れている状態で、指定のワードを口にすることで対象を操作可能になる。
γ.対象の操作可能時間は、αからβの時間差と同じ。また、減点が大きくなると操作可能な時間が延びる。このとき念空間を解除しても、操作状態は解除されない。操作状態を解除するときは、指定のワードを口にする。操作状態が解除されると、念空間に入ってからの記憶は失われる。
特記:俺自身が操作対象となってしまった場合は、強制的に睡眠状態になり4時間が経過するまで目覚めない。念空間は維持され、行先はランダムで決定されるが、事前に目的地を決めておけばオート操作が可能。
一度念空間から退出する、念空間が破壊される、または俺が念空間を解除すると、減点は全てリセットされる。
俺の『発』はあくまで何かを運ぶためのものだ。攻撃はしないし出来ない。だが防衛機能は付いている。実用性に優れたものではないが、念を知らない相手に対しては有効だった。ピトーの敗因は、念を詳しく知らなかったこと。ここに入ったのがまともな念の使い手なら、こんな失態は犯すまい。
俺は操作系念能力者だ。強化系いいなぁと思ったりもするが、操作系である。
しかしながら、俺は他者を操るというのはどうも苦手だった。
理由は主に二つあって、俺は操る難易度は最も低いのが自分、次に無機物、最も難しいのが他の生き物だと思っているからだ。既に意思を持った者を操るのって大変じゃない?
もう一つは、操作系になったからといってじゃあ他人を操ろう、とはならなかったからだ。他人を意のままに操るってだいぶ心理的ハードルが高いよ。針を刺すだけで多人数を同時に死ぬまで操るってサイコであると同時に素質なんだな。
反面『堅』の練度はかなりのものだ。前の世界で一度死を体験したことで死にたくないという思いが強く表れ、防御面に機能したらしい。結果、出来たのがこの『発』。万能ではないが仕事柄よく使う。
閑話休題。
首尾よくピトーを操った俺は、調査チームに断りを入れて減速、停止し一旦能力を解除した。大目的は操作したこいつを自害させること。『発』を解除して空間から出ないと攻撃は出来ないからな。
だがその前に、することがある。ピトーに質問しキメラアントの情報を引き出していく。まず帽子の男に引き出したい情報を聞き、それを俺がピトーに質問する。操作可能な時間は有限だし、追手が来ないとも限らないので迅速に行う。
次にピトーが以前戦ったらしい「武器を操る使い手(推定カイト)」について質問した。結果は、殺害した上で手強い奴で気に入ったから遺体はコロニーのプライベートスペースに保管したらしい。これを訊いておきたかった。
最後に、ピトーに命令して自ら命を絶たせる。己の爪で喉と心臓をズタズタにしたピトーは、声を上げることなく前のめりにどうっと倒れ、そのまま事切れた*1。作中屈指の化物らしくない、呆気ない最期だった。
よく言われるHUNTER×HUNTERの主要人物4人、ゴン、レオリオ、キルア、クラピカ。彼らはそれぞれ強化系、放出系、変化系、具現化系(→特質系)念能力者である。この中に操作系はいない。俺にはそのメタな理由がちょっと分かる気がした。
何しろ扱いが難しい。決まれば勝ちの能力。メインに据えるなら能力は判明するし、漫画にするなら演出に気を遣わないとワンパターンになる。系統の性質上、この手の大物狩りもあり得るので話の都合で消される奴もいる。だから謎の修正力が働くのを恐れ、ストーリーに関わるのは避けていた。
ここから無事に脱出したらさっさとフェードアウトするのが賢いやり方だ。
グッバイ、NGL!
◇
えー、結局なんやかんやあって残り、最後までキメラアント討伐作戦に参加しました。
軽く十回以上は死んだと思いましたが、何とか生きています。ちょっと大変でしたが事前に地雷処理をしたのでゴン君はゴンさんになりませんでした。五体満足です。
今はあらかた終わって、みんなで帰路の途中。搭乗しているのも俺の『発』ではなく協会御用達の飛行船だ。残念ながらネテロ会長は作戦で亡くなってしまった。船は協会本部へ直行し、希望があるならその後小型艇を動かしてくれるそうだ。
ゴン君やキルア君といった原作でお馴染みの面々とも言葉を交わした。顔合わせや交流はだいぶ前に済ませたから、既に打ち解けてはいたんだけどね。彼らはここに来るまでの旅の出来事を話してくれた。冒険譚ってやつだ。俺は原作知識として知っているが、そうでなければ二人があのタイミングでNGLに居るのはだいぶ謎*2なのでそこを突っ込んでみると
そこで二人は様々な人と出会い、敵として、或いは味方としてゲームクリアを目指す。師匠となるビスケとのめぐり逢い。殺人鬼ビノールト。シングルハンターツェズゲラ。謎の助っ人ゴレイヌ。奇術師ヒソカとの再会。ジンの仲間でGMの一人レイザー。爆弾魔ゲンスルー。二人の体験談は俺が知識として持っているものよりずっと面白くて、聴き入ってしまった。
ビスケの容姿変化はどういう理屈で成立しているのだろう。念が関係しているのは間違いないが。
『発』はいいのだ。エステティシャンを具現化し、ローション状に変化させたオーラに、治癒力強化系のオーラを混ぜて使う。ローションに混ぜて塗るという一工程を挟むことで、自分の体からオーラを離しても高い効果を発揮できる工夫をしている、つまり苦手な放出系を使わずに済むようにしていると思われる。変化系の能力者が得意な、変化・具現化・強化系統のオーラをバランス良く使っている。クッキイちゃんの操作については特定の動きをさせるだけなので、オート操作で苦手な操作系でも何とかなるのだろう。何より戦闘には使わないだろうし動きにアドリブは一切必要ない。
容姿の変化については、髪質や肌質は変化系、骨格や輪郭は具現化系だと思われる。で、恐らくだが、体の大きさには強化系の念が大きく関与している。強化系のオーラは成長を促したりもする。それを自在に操れば肉体の膨張も可能だろう。
水見式を例に挙げよう。水の入ったコップに『練』を行うと強化系のオーラは水の量が変わる。
つまりビスケは、強化系の念を使って
あれが念によるものならずっとあの姿を維持するのは通常ならば無理があると思うところだが、
ここまでの考察から、ビスケのあれは一つの『発』と考えてもいいと思うが、ビスケってあの状態で『絶』とか出来るのかな。したことあったか? 正直覚えていない。転生者の記憶はアテにならないし、単行本もないので確認もできない。本人に見せてもらうか。
もし出来るとしたら、ビスケは『発』を使いながら同時に『絶』も行えることになる。達人中の達人だ。
容姿の変化といえば、旅団のボノレノフって変身できるんだっけ。あれも変化と具現化、あと強化系なのか? 彼は自分より小さい者に変化すると変身時間が短くなるとか言っていたような。この辺かなりうろ覚えだが。それってつまり、強化系の扱いが苦手ということではないだろうか。彼は戦士だ。弱体化するメリットは多分ないし、やらないだろうから小さくなるのに弱化を使うのが苦手なのは分かる。だとすると彼の得意系統は変化ではなく……より強化系から遠い具現化系か?
こうしてみると、強化系はシンプルに脳筋なだけじゃなくて使い道が多そうだ。強化系とは、アタッカーであり、バッファーで、デバッファーで、ヒーラーなのだ。いいなぁ。俺も強化系が良かった。
グリードアイランドといえば、コアな人気を誇るゴレイヌ。選挙編でゴンの見舞いに来ていたような気がする。ということは彼もプロハンター?
そんな彼の『発』がゴリラ型の念獣を二体作り出し動かすという一見ネタ臭いものだ。
……ゴレイヌって操作系念能力者だよな。
念獣を具現化し、遠隔操作する。具現化・操作・放出の三系統をバランス良く使う『発』だ。これを無理なく行えるのは操作系に位置する者だけだ。それもただの操作系ではない。六性図で操作と特質の中間に位置する、真下に近い位置の操作系だ。得意系統は操作系90%、具現化・放出系70%となる。苦手な強化と変化は50%だ。
まあ断定することはできないのだが。何故こうまで言うかというと、俺の適性がここだからだ。どうでもいいな。
昔ファンサイトでゴレイヌは具現化系などと言われていた覚えがあるが、俺は違うと思う。
念獣についての考察。ゴレイヌの念獣はゴリラだ。何故ゴリラなのかについての考察にあまり意味はないので省略する。ネタではなくあくまで真面目な考察だからだ。
一例として、放出系の念能力者であるレイザーやトチーノを挙げよう。彼らはそれぞれ十体を超える数の念獣を作り出し、戦いや球技に利用する。そしてトチーノの念獣の操作はオートであることが明言されている。
ここで質問だ。ゴレイヌは一体、一度に何体の念獣を出し、操作することができるのか? 俺は二体、どう見積もっても三体が限界だと思っている。
何故そう思うか。理由は彼の操作方法にある。彼が気絶したときに念獣は消え、操作方法はマニュアルだと予想されている。
つまりゴレイヌの操作方法は、放出よりも操作に重きを置いたスタイルであることが分かる。
念獣の造形についての考察。ゴリラ。ゴリラである。ここで重要なのは、
一方でゴレイヌの念獣はどうだろう。放出系ほど雑なデザインだろうか。否。つまりゴレイヌは放出系ではない。それでいて精巧なゴリラでもない。つまりゴレイヌは具現化系でもない。
操作・具現化・放出の三系統を駆使し、具現化でも放出でもないのだからゴレイヌは操作系である。
特質系? 現時点の情報で特質系とする要素はないので考えないものとする。よくあることなのだ、系統予想で操作系や具現化系である可能性が高まると特質系だと考えたがるというのは。強化系が得意な人の修得率合計は100+80*2+60*2=380。一方で、特質系ではない六性図の一番下、操作系と具現化系の中間の人の修得率合計は80*2+60*2+40=320。かなり不利だと考えるのは当然だ。しかし、世の操作系と具現化系の大半は、やはり後天的に特質系にはならない。それが現実なのだ。俺がよく知っている。
「…おーい、アズマさーん! もしもーし!」
「ったく、ボーッとしてんなよ。そろそろハンター協会に着くぜ」
気がつくと、ゴン君達に呼ばれていた。考え事に没頭していたら目的地はあっという間だ。
「ああ、ごめんごめん。自分で運転しなくていいのは気楽だね」
軽く謝り、二人に促され甲板に出る。もうじき到着だ。俺は今回の件で協会に報告してもいいし、そのまま帰り後日書類を提出しても構わないそうだ。
自由だ、素晴らしい。
「アズマさんは、プロハンターを目指さないの?」
帰りがけ、ゴン君にそんなことを聞かれた。組織に属したくないので丁重にお断りすると言ったら、オレはチームにアズマさんがいてくれて良かったよ、と何の隔意もなく言われてしまった。もう、この子ったら……。自然と笑みが零れちゃうじゃないか。キルア君もちょっと生暖かい目で見ている。
俺はこれからもフリーのハンターとしてやっていくつもりだ。今回の一件でプロハンターにも伝手が出来たし、仕事にもありつけるだろう。作戦が終了した後でゴン君と二人揃ってキルア君に正座させられたりもしたけど、俺は元気です。
帰りにシュタバに寄っていくか……。
続いたら討伐作戦の内容を書きます。
短編で全3話の予定。