それは、苛立っていた。
腹の奥が焼けるように痛い。
獲物が減ってきた状況で久しぶりの狩り。だったというのに収穫は1匹のみ。
今までの獲物で並ぶものがないほどの質と量…否、並ぶ獲物が1匹だけいた。匂いも似ていたし仲間だったのかもしれない、そう考えるとそのまま喰らってしまったのは失敗だったかもしれない。
思考が逸れた。質も量も最高級というべき獲物ではあったがそれ以上に後悔も多い。
まず人形が壊されてしまった。それを直すためにせっかく得た力の大部分を使ってしまい、余計に飢えが増した。
次に『目』が使えなくなったこと。この人形の『目』は便利だったが、あの狩り以来使えなくなってしまった。代わり、とでもいうのか別の器官が使えるようになったが、あの『目』のような利便性もなく己の嗅覚に頼った方がマシだった。
動きの悪くなった人形を引きずり、湿った暗闇を進む。
『目』が使えなくなった影響で真っ直ぐ進むこともままならず、壁やゴミにぶつかりながら歩いている。
そうして付く細かいキズを無視することもできず、それの修理にも力を使っているせいで飢えがさらに増していく。
前の狩りからどれだけ経ったか、もう我慢の限界だった。
止められていたがこれは仕方ないだろう。
嗅覚に従って少しでも獲物の多い入口を目指す。
代わりの『器官』が刺激される。もう使い物にならない。
ここにいるのは弱っちい獲物ばかり、それでも飢えを満たす足しにはなる。
牙を剥いて笑った時、濃い力を感じて振り返った。
過去二度嗅いだ匂い。奴らはすでに喰らっている。
3人目、まだ残っていた、あの美味を味わえる。
舌なめずりをして牙を向けた。
「待たせたな」
〜〜〜〜〜〜
鉄パイプのような武器はない。革製のプロテクターも奴の剣相手じゃ意味がない。何よりジェーンさんのいないたった一人の状況。
一度目は背中から、二度目は正面から胸を、二度も死にかけた恐怖は残っている。
前回の結果から考えれば勝てるはずのない状態だったが、笑いが止まらなかった。
「ジャン君、起きたばっかりって聞いたのだけど…」
「大丈夫です。他の人の避難をお願いします」
「そう…ジャン君に何かあったらジェーンちゃんも、私も悲しむわ。無理しないでね」
ノーラさんが来店していたマダム達に声をかけて東5番通りを離れていく。
「お前は、ここで──
唸るようにこちらを睨み、剣を向ける奴に挑発するように手を招いた。
──異能探偵助手、ジャン・ボイルが止める」