「離れて!」
「!」
聞こえた声に従い、後ろに跳ぶ。
放り込まれた小瓶が銃声と共に砕け散り、爆炎を撒き散らした。
「!?」
「お待たせ、ジャン君。わかってることを教えて」
「ジェーンさん!えっと、でも…」
爆炎の煙の中に
怪我で動けなくなるような相手ではない以上手を抜くわけには…
「ちょっとぐらいなら休んでも大丈夫だよ。
ドォンヂュー!
銃声。ジェーンさんのリボルバーとは比べ物にならない轟音が響き、
見れば腕に鷹を乗せたパトリシアさんと大型の銃を構えたヴォルフさんが屋根の上から奴を睨んでいる。
「あれが死体なんじゃないかって話は聞いてる。わかったことは?」
「はい、その…」
斬られた時に聞こえた声、契約の自覚によって使えるようになった異能を説明する。
「なるほど…確かに初期の被害人数と犯行の間隔は気持ち比例してた。もっと真剣に考えるべきだったかも…」
「その、動く死体の謎は…」
「ごめん、まだ何にもわからない」
「防がれた!パティ!」
「───」
飛び込んできた鷹が落とした小瓶が銃弾によって砕かれ、撒き散らされた爆炎が石畳に跡を残す。
「銃じゃ時間稼ぎも難しいか…行ける?」
「行けます!」
「わかったことは隙を見て叫んで。私たちも援護はするから…頑張って!」
「はい!」
〜〜〜〜〜〜
再びジャン君が駆け出して行った。
私の『異能力者を人間に戻す』異能はただの人間相手に効果はない。
こういう時、ゲイルのような戦闘系の異能が羨ましくなる。
彼らには彼らの代償があり、苦労があるのだろう。それでも、今はどんな代償でも受け入れてしまいそうな無力感を感じていた。
「ううん、今はそれどころじゃない…!」
頬をたたき、リボルバーの装弾数を確認する。
回転弾倉の中はあと5発、『浄火蝶の鱗粉』はパティに預けた分を含めて6…いや、さっき使っていた、5本。
他にも道具は持ってきているが最大火力は『浄火蝶の鱗粉』。それが効かない以上、戦闘はジャン君に任せるしかない。
「まず死体が異能を…じゃない、現実の否定は後で」
目の前で起きていることはどんなにありえなくても現実なのだ。
今現実逃避をする暇はない。
「多分求めてるのは血とかの所謂『生命力』、ジャン君の異能でも供給可能。東方のゾンビ化、だったら自然治癒しない誰か操ってる」
東方の伝わるゾンビは自立して動き、人を襲うこともあると聞く。が、それならば氷像にされた時点で止まっている。前回と前々回当たった銃の傷が見当たらないから治っている、治されている。純粋な自立行動じゃない、誰かが操っている。
「飢えてるんだから損失は避けたいはず、近くにいる?だったらゲイルに凍らされてるはず…」
遠ければ遠いだけエネルギー運搬の損失は大きくなる。飢えてるらしい真犯人はすぐ近くにいる。しかしそれはゲイルの凍結に巻き込まれない位置である。
「身体に触れたい触れてたら凍ってる、透過、無効化できる」
攻撃の無効化、幽霊系の伝承を由来とする異能なら死体を操っていることも凍結が効かないことも説明できる。しかし、それならばしがみついた時に私の異能で解除されていないとおかしい。
「凍結が効かない、装飾品、服は割れてる──」
異能力者じゃない、身体に触れているもの、装飾品、アクセサリーはつけていない、服は凍結が効いているから違う。元凶は前回見た姿から変化がないもの、犯行に使用された凶器は最初から大型な刃物、それは今まで何も変わっていない。今まで数十人を斬っても、凍らされても切れ味の変わらないそれ。
そうだ、血が欲しいのなら、非効率な剣ではなく爪や牙を使うべき。つまり、真犯人は──
「剣!その剣が真犯人だ!」
見たことはないが効いたことがある。
斬られた時に声が聞こえた、というのも納得できる。
「どうすれば!?」
「手放させる、距離を取らせる!動かす
「はず!?」
断定はできない。見せていないだけで浮遊できる、なんてのも否定できない。
「ヴォルフは腕…もっと言えば手を!ジャン君は気を惹き続けて!」
「任せてくれ」
「わかりました!」
任せるばかりではいけない。弾を装填し、弾倉を回した。