出典:『オリュンティア神話』『アステリオンの功業─カーネリオン退治』
オリュンティア神話に語られる英雄アステリオンの倒した魔獣の一体。
人の鍛えた剣が効かない硬い毛皮、万物を切り裂く爪牙、血を啜ることで傷が治る不死性が謳われている。
──家畜を、時には人間を引き裂き血を啜る獅子を人々は恐れ、アステリオンに助けを求めた。
「なんでしょう…」
「感謝状、にしては早いしねえ」
エドマンドさんから呼ばれたはいいものの要件は教えてもらえず、現在応接室で待っている。
「悪い、待たせた」
「いえいえ、大丈夫です」
「そんなことより、何の用で呼んだの?」
早々に本題に入るよう促すと彼はため息をついてソファに座った。
「まず、
「気にしないで、これが私達の仕事だから」
「!…そうか、それならよかった。で、ここからが本題だ。まあ…来てくれればわかる」
立ち上がった彼の後をついていく。
「お前たちの捕まえた剣の
『押収室』とプレートの貼られた鉄の扉。鍵もあり動かすにはそれなりの力が必要であろうそれが、
ガタガタと揺れていた。
「…これは?」
「…昨日からずっとガタガタ言っていてな、タイミングからして
軽く手で抑えても振動は止まらず、余計に震える。
「こんなところに入ったらいつ斬られるかわかんねえってことで誰も入れなくてな。話し合ってようやく結論が出た」
差し出された紙を受け取って確認する。
「『異能危険物取扱許可証』?」
「報告書は読んでる。生命力を食べる
「そうだね」
「ジェーンからジャンの異能が無限のエネルギーの生成だってのも聞いてる」
「まあ大体そんな感じです」
嫌な予感がした。そのタイミングでそれを言うということは…
「嫌ですよ!?剣を自分から突き刺す趣味なんてありませんよアズマのブシじゃあるまいし!」
「といかその許可証の範囲は?」
「
「やだよ、どーせ北か西で漏れて『そのような危険物を平民が管理するなど危険極まりない。我々が管理しよう』みたいな奴が出てくるんだし」
「流石にそんな貴族は絶滅危惧種だが…」
「いるにはいるじゃん!」
ジェーンさんも否定派…いや、否定しているか?
「ゴホン、範囲はともかく引き受けてもいいんじゃない?」
「ジェーンさん!?」
「多分生命力の吸収は刃先からだけじゃないだろうし、多分」
「…本当です?」
「多分」
諦めのため息をついて扉に手をかける。
鍵を開けてもらい、ガラリと開ける。
「っ!」
長剣が首筋を浅く切り付けて後ろの壁に突き刺さった。
「開けなくて正解だったな…」
「…」
また動き出す前に柄を握る。
腕に流れていたエネルギーが持っていかれるのをそのまましばらく流し続ける。
振動が落ち着いてきたところで話しかける。
「提案だ」
【──?】
「君が人を襲わない限り定期的な生命力の供給を約束する」
流れてくる困惑の感情に応えて条件を伝える。
今までの暴走状態じゃない今なら会話ぐらいは…
【──】
言葉はないが感情が伝わってくる。
後悔はあるが謝意も罪悪感もない。なんというか獣の感性、といった感じだ。
「持っているだけでいいのか?」
【─】
「なるほど…最後に、お前の名前を教えてくれ」
【──カーネリオン】
カーネリオンを持って振り返る。
「できました。持ち帰れます」
「そんな会話できる存在だったの?」
「言葉はなかったですけどまあ」
一昨日の戦闘からはまるで感じられない利口さだった。
「引き取ってくれて感謝する。この布とベルトを使ってくれ」
「許可証は4枚欲しいかな」
「わかった、後3枚は後日郵送する」
布とベルトでカーネリオンをぐるぐる巻きにし、エドマンドさんに手を振って警察署を出た。
〜〜〜〜〜〜
夜、ノックの音に反応して自室の扉を開けるとパジャマ姿のジェーンさんが酒瓶とグラスを持っていた。
「ちょっと話を聞いて欲しくて」
「いいですけど…なんでいきなり?」
首を傾げながらも事務所のソファに座る。
「何歳だっけ」
「17です。なのでお酒はちょっと…」
「そっか、私は18。多分、だけど」
ジュースを注いだグラスとウイスキーらしき酒を注いだグラスを軽くぶつける。
「昨日パティがブラウンラットで宴会やるって自慢しててね。あっちには勝てないけど私も飲もうと思って」
「そうでしたか」
ブラウンラットの宴会、とても騒がしそうだ。
ジェーンさんが半分ほどの酒を残してグラスを置いた。
「あと私の身の上話を聞いて欲しかった、っていうのもあるかな」
「身の上話…」
「ジャン君が心臓を、パティが言葉を持ってかれてるみたいにね、私も過去を失ってるの」
「『過去』、ですか」
契約精霊に代償として持っていかれた『過去』。持っていかれるとどうなるのか想像がつかず首を傾げる。
「私は契約以前の私を知らない。誕生日も、親も、生まれも、家名も、名前だって。何も知らない状態で街を彷徨ってたの」
「その…ご家族の方とか知ってる人はいなかったんですか?」
本人の記憶が消えただけならまだ周りが覚えているだろう。
「ううん、代償の範囲は無駄に広くてね。私だけじゃない、人の記憶も、紙の記録も全部改竄されたの」
「それは…」
残酷な、確かに『過去』を持ってかれたというしかない状態。精霊という存在への認識が甘かったのだと実感させられた。
「その後師匠に拾ってもらって、名前をもらって、探偵助手にしてもらった。感謝してるんだ、記憶喪失に『
「あはは…」
ここまで聞いて疑問が浮かんできた。
「…なんで、僕に話そうと思ったんですか?」
「なんでだろうねえ…そうだな、パティに励まされたし…助手だからかな」
「助手だから?」
「助手が、仲間ができたのが初めてだったから。もっと私のことを、知って、もらい…」
そのままローテーブルに突っ伏して寝息を立て始めた。
「…おやすみなさい」
毛布をかけて自室に戻る。窓からは綺麗な月が見えた。
「…僕は『異能探偵助手』のジャン・ボイルだ」
決意を込めて呟き、布団に潜った。
感想・評価をいただけるとすごく喜びます。