今回爆発したのは東2番通りの商店の前に置かれていた荷車だった。
爆発の規模は過去最大であったが、偶然人通りが少ないタイミングだったこと、治癒にも使える異能持ちの僕が現場に急行したことで被害者は怪我人だけで済んだ。
「爆発の規模は爆弾化した物体の体積に比例する…ということでいいんでしょうか」
「レモンの時は周りの果物が燃えただけだったしありえると思うよ」
商店の前はすり鉢状になっており、石畳は割れて下の土が見えている。
「犯人につながる情報…むずかしいなあ」
「怪しい人物の目撃証言を捜す…いや、混乱時に周りなんて見てられませんね」
「そうなんだよね…」
そもそも遠隔で起爆できる可能性もある。それならば捕まえるのはさらに難しいだろう。
「人海戦術でなんとか…なるかなぁ…?」
「ブラウンラットに協力を仰げばできそうですけど…」
「それも手ではあるんだけどね、今は難しいかも」
難しい理由がわからず首を傾げる。
「なんでです?」
「
「今の所来てませんね」
「そう、別件で忙しいんだと思うよ。あとはまあ、そろそろ警察の目が厳しいというかなんというか…」
「あー、はい、確かに…」
忘れがちだが彼らは
「霧鴉探偵事務所はクリーンな会社です。グレーでホワイトに活動しています」
「アハハ…」
乾いた笑いを漏らして周囲を見る。
「帰りますか?」
「そうだね、ここにいても復旧作業の邪魔になるs──」
ドォン
轟音、あまり遠くない。
「二件目…!行くよ!」
「はい!」
上から行く方が早い。
現場を見張っていた警官さんに軽く会釈して屋根まで跳ぶ。
次の現場は数軒の屋根を越えた先の裏路地だった。
さっきまでいた2番通りとは垂直に伸びており、路地と路地を繋ぐような形をしていた。
屋根の上から砕けた石畳を覗き込むが、現場の周囲に人はいない。
「爆発したのはゴミ箱かな。被害者は…いない!」
「だったら…!」
犯人を探しに行ける。まだ周囲に犯人がいる可能性がある。
来る時に飛び越えた路地に人はいなかった。ならば反対だ。
「いた!」
茶色のニット帽を被った男が路地を出ようとするところを目撃した。
近くにいたのは彼1人。爆発を聞いているはずなのに平然としている。
何より彼を見ていると背が冷えるような感覚がする。
「お時間よろしいですか?」
声をかけるジェーンさんの前に立ち、ケースの留め具に手を当てた。
〜〜〜〜〜〜
「え、なになにナンパ?…じゃなさそうだな」
「霧鴉探偵事務所のジェーン・ドゥです。調査に協力していただきたくて声をかけました」
彼はどこにでもいる男のようだった。なのに嫌な予感が止まない。
「探偵さん?聞いたことあるような…」
「つい先ほどそこの路地で
「いやあ…全く気づかなかったな」
ジリジリと距離を詰める。
「あんな大きな音に?」
「いやー、耳が悪くてな」
「声をかけた時に気づかれたようですが」
留め具はもう外れている。あとは蓋を開けて柄を掴むだけ。
「じゃあ…そうだ、故郷じゃあんな音日常茶飯事だったからな。こっちでもそんなもんかと思ってた」
「そんな言い訳…」
「通じるわけねえよな!」
赤い蝶が羽ばたく。
ジェーンさんの方に飛んできた蝶に剣を振ればあっさり消えた。
「切れた?」
「跳んで!」
思考する前にジェーンさんを掴んで壁を蹴る。
瞬間、足元が紅い火に染まる。
「!」
「なんて規模…!」
石畳の敷かれていた道は凸凹の土に、煉瓦造りだった壁はわずかな残骸を残すだけになり、家は今にも崩壊しそうな状態になっている。
「人はいない!追って!」
「はい!」
着地して走る。爆発のおかげで見やすくなっており、少し離れていたが簡単に見つけられた。
「左から!」
「はい!」
小瓶が宙を舞う。砕かれたそれが男の右側で爆発を起こす。
左側から回り込み、カーネリオンを振りかぶる。
「チッ、【カルマグニ・パティン】!」
「【カーネリオン】!」
視界に黒い少女が写り、目に見えない何かが通り過ぎた。
いつのまにか目の前に現れた黒髪の少女が剣でカーネリオンを止めている。
しかし、僕はそれどころではなかった。
すぐ近くにいるはずの何かが遠くに行ってしまったような感覚。
急に手足に力が入らなくなりカーネリオンを取り落とす。
それだけじゃない、音がしない。自分の荒い息も、取り落としたカーネリオンが地面にぶつかる音も聞こえない。まるで世界から音だけが消えたかのようだった。
黒髪の少女が困惑の表情を浮かべて剣を鞘に収める。
少女は少し躊躇って男─爆風でニット帽が脱げたのか、蝶の刺青が見える─の手を引いて走り去っていく。
「ま、て…」
呼び止めようにも声が出ず、ただ見送るしかなかった。