貴族は嫌いだ。
まるで自分が世界の中心であるかのように振る舞い、平民を下僕か奴隷のように見ている。
最悪なのは罪を犯しても他人にそれを押し付けて切り捨てること。2年前の一件以来私の貴族嫌いは深刻化していた。
まあそれは悪いやつだけの話。わかってはいたがこの女学校に通う生徒の大半は権力を傘にきるような娘ではなかった。
「ジェーンお姉様、次の授業が始まりますわよ!」
「あ、はい!ありがとうございます!」
現在、私『異能探偵』ジェーン・ドゥはグレイフォード淑女学校の制服を着ていた。
〜〜〜〜〜〜
「ジェーンさん、元気かな…」
得られた情報とそこから湧いた疑問点をまとめて手紙に記す。
明日の朝一に郵便ポストまで持って行けば夕方までにヴァレンフォード邸に届くだろう。
「あくまでアシュトン・ヴェイルの同行者はヴィクター・ウィリアムズ一人」
マドカ・ミカガミとは船上で知り合ったことになる。しかし、彼女はアシュトンを守るために動いた。つまりは船上で仲間になったか、最初から偽装だったと言うこと…なのだろうか?
「あれ、音がなくなった時どんな顔してたっけ」
あの時の
ドォン
「チッ、間も無く日も暮れるのに!」
扉から出て階段を下るより窓から飛び降りたほうが早い。
立てかけていたケースを引っ掴み人通りがないことを確認して飛び降りる。
「【エイン・オロス】!」
精霊に呼びかけて永久機関の稼働を加速させる。
溢れるエネルギーを脚に注ぎ込み、爆発音の方向へ駆け出した。
〜〜〜〜〜〜
今回爆発したのは東2番通りの花屋だった。
店主が離れていた隙に店先に花を飾るのに使われていた棚が爆発、人通りが少なかったこともあって被害者は店主のみ。それも店内の花に燃え広がった火の消火の際にわずかに火傷してしまった程度だった。
被害者数としては最小…ではないか、一度追い詰めた時の被害者数はゼロだった。
今回ニット帽の人物は見られず、僕が来たのとは別方向から逃げたか、帽子を変えたか。
被害の規模が小さい今回こそ見つけたかったのだが…
「よう、ジェーンは?」
「エドマンドさん、ジェーンさんは別の依頼でしばらくいません」
「そうか、何処のだ?」
エドマンドさんの質問に答えるか悩んだが、彼なら言いふらすことはないだろうと答えることにした。
「ヴァレンフォード家です」
「…、貴族の、依頼を?アイツが!?」
「あ、やっぱり驚くような内容なんですね」
エドマンドさんは驚愕の表情で煙草を落とした。
「もっと具体的に言えばそこの令嬢の護衛ですね、偶然誘拐されかけたのを助けた縁で」
「誘拐か、だったら納得だな」
「?」
まるで誘拐に特別理由があるようだが…
「2年前、ジェーンが助手をやっていた頃にアイツは誘拐されてな」
「大丈夫だった…んですよね」
「そうだな、アルフレッド…先代の力で救出はできたが捕まえられたのは実行犯と組織だけ、黒幕は捕まえられなかった」
エドマンドさんが悔しそうな感情を見せる。
ジェーンさんがエレノア嬢に優しかったのはそういうこともあったのかもしれない。
「というか黒幕がいたんですか?」
「ああ、バックに貴族がいるんじゃないか、となったんだが…上からの圧力で捜査が打ち切られてしまった」
「それは…」
「ジェーンの貴族嫌いが今みたく分かりやすくなったのはそれからだ」
自分を誘拐した真犯人を捕まえたかったというのに強制的に捜査を止められる…それはとても悔しかっただろう。
「それを契機に東区の警察内部にいた内通者達を一掃できたのは良かったんだがな…」
「あ、2年前の警察の不祥事って」
「知ってたのか…そう、このことだ」
時折感じる東区での警察への不信感の原因を理解してため息をつく。
「近い立場の令嬢とはいえ貴族からの依頼を受けたんだ。アイツも成長してるんだな…」
「成長…?成長か」
個人の好き嫌いを無視して仕事をする。これも大人になる、ということなのだろう。
ただあのジェーンさんが、話題に貴族の話が出た瞬間露骨に顔を顰めるジェーンさんがそう簡単に変われる気はしなかった。
エドマンドさんが嬉しそうな顔をしている一方、僕はなんともいえない曖昧な表情を浮かべ
ていただろう。
〜〜〜〜〜〜
コンコン
「はーい、今開けます」
夕方、ヴァレンフォード邸の客室で手紙を書いている時、ドアが控えめに叩かれた。
「ジェーン様、依頼されていた種でございます」
「わあ!ありがとうございます!」
扉を開ければモーリスさんが頼んでいたものを準備してくれていた。
モーリスさんから小袋を手渡される。照明にかざせば数粒の種の影が見える。
「ヴァルナーシャでは一年中咲く花ですが、グレイフォードの気候では冬に咲かすのは困難だと言っておりました。どうされるのですか?」
「そこはリシェの力を借りようかと」
「なるほど、リシェ嬢の
納得したように頷くモーリスさん。ブラウンラットのメンバーについては良く知っているらしい。
「パトロンとしての責任がありますから。紹介状は必要で?」
「流石にそこまでは頼めませんよ。自分で依頼します」
エレノアちゃんの護衛とは関係ない案件に必要な一品だ。そこまでヴァレンフォード家に頼むわけにはいかない。
「そうおっしゃるのならば何も言いません。便箋は必要ですか?」
「いいんですか?お願いします」
便箋を置いて部屋を出ていくモーリスさんに手を振って机に向き直る。
「…なんか心読まれてなかった?」