「あの馬車かな…?」
グレイフォードの中央に近い東1番通り、行き交う馬車の中に見覚えのある紋章がついたものを見つけた。
今日からグレイフォード淑女学校は一週間の
「5日ぶり、ジャン君」
「お元気そうで何よりです、ジェーンさん」
いつもの鹿撃ち帽を被ったジェーンさんがエレノア嬢の手を引いて馬車から降りる。
「モーリスさん、日が暮れる前に東区のヴァレンフォード商会に」
「ええ、お待ちしております」
「いってきます、モーリス」
「どうぞお楽しみください、お嬢様」
手を振ってモーリスさんが乗る馬車を見送る。
『お待たせ』
「遅れてごめんネ」
今日の護衛だというパトリシアさんとユウレンさんもやってきた。
「それじゃ、行こうか。東2番通りの花屋だっけ?」
「ええ、そこで売ってるっていうドライフラワーが学校で話題になっていて…」
東2番通り、花屋。最近見たような気がして首を傾げる。
確かそう、5日前、ジェーンさんが護衛に行った翌日──
「あ」
〜〜〜〜〜〜
「ない、ですか?」
「ええ、つい先日
5日ぶりに見る東2番通りの花屋は規模は小さくなっていたが営業中だった。
目当てのものが店頭に並んでいなかったので、ダメ元で店主に聞いた結果がこれだった。
「じゃあ、スターチスのドライフラワーは…」
「他の花のなら準備中なんだけど…スターチスは秋の花だからね、被害に遭った現品だけだったよ」
「そんな…」
絶望的な表情のエレノア嬢に店主が慌てて言う。
「ほ、他の花なら用意できるから!リース、リースはどうだい?これからの季節のインテリアとしてピッタリだよ!」
「スターチスは…お父様とお母様の思い出の花なんです。お母様の誕生日に贈りたくて…」
「うーん、それは…困ったなあ」
困り果てた様子の店主にパトリシアさんと頷きあったジェーンさんが耳打ちする。
「スターチスの現物があれば作れますか?」
「うん、今の気候なら…一週間ぐらいかかるかな」
「エレノアちゃん、お母さんの誕生日までどのくらい?」
「再来週、です…」
「それなら間に合うね」
時間的な余裕もある、あとは種があれば…
「その、花の仕入れ先か種を持っている方を紹介して欲しくて…」
「そのくらいなら構わないけど…」
場所のメモをもらい、エレノア嬢の肩を叩いてその場を離れる。
『種があれば大丈夫』
「今の季節じゃ育てられないんじゃ…」
「
憎まれ口が混じっていたものの信頼を感じる言葉達にエレノア嬢の笑顔が浮かぶ。
「わかりました!種を譲ってもらいに行きましょう!」
笑顔を浮かべてメモに書かれた住所に向かおうとするエレノア嬢は─ピュロロ〜─
〜〜〜〜〜〜
「!?」
背中から力が吸い込まれるような感覚、いつもより強引なカーネリオンの『食事』に思わず膝をつき、頭にかかっていた靄が吹き飛んだ。
さっきまで表通りにいたはずが路地裏にいる、ジェーンさん達は目を瞑って立ち尽くしている、エレノア嬢だけがいない!
「ジェーンさん!」
「ん、あぁ…!?」
軽く揺さぶればジェーンさんはそれだけで覚醒した。
「エレノアは!?」
「いません!」
ユウレンさんとパトリシアさんも揺さぶって起こし、周囲を見渡す。
「────!」
『鷹が見てた。女の子を連れた
「ありがと!」
忘れていた、迂闊だった。ここは霧と事件の都グレイフォード。
誘拐犯が異能を使っても何もおかしくないのだ。
〜〜〜〜〜〜
『こっち、ここ以降は上からじゃ見えなかったって』
「遠くから見張ってたブラウンラットのメンバーに期待するしか…!」
通り過ぎかけた路地に見覚えのある人影があった。
「ゲイル!ヴォルフ!」
ブラウンラットのナンバー1とナンバー2、彼らなら…!
「!、ここは…」
「チッ、やられたな…」
「ダメだったか…!何があった!?」
ジェーンさんがゲイルさん達の首を揺らして覚醒させた。
「いきなりお前らが固まったかと思えばお嬢だけが知らねえ馬車に乗り込んだ。馬車から降りたところを補足して取っ捕まえようとして…このザマだ」
「今お嬢様はどっかの牢に閉じ込められてる…けど肝心の道中を
手詰まりとしか言いようがない状況に顔が暗くなる。
「片っ端から探すぞ!意識を失ってからたいして時間は経ってない!また馬車に乗る時間はなかったはずだ!」
「ここから徒歩で行ける範囲…!急ぐよ!」
落ち込んでいる余裕などない。それぞれ別の方向を向いて駆け出した。