「ちょっと、話を聞かせてもらっても?」
駆けつけた警察たちが気絶したチンピラ共を縛り付ける中、1人抜け出そうとしていたマドカ・ミカガミをジェーンさんが引き止める。
カタナと呼ぶらしい剣と黒板を持って振り返った彼女に正面から問いかける。
「あなたは
マドカさんは驚いたように瞬きをするとコクリと頷いた。
「やっぱりかー…誤解してごめんなさい」
頭を下げるとそれを否定するように手を振った。
事情を説明しようと黒板を手に取った彼女を止める。
「あ、手話はわかるから書かなくてもいいよ」
『状況、理解、不十分、割り込み、謝罪』
「大丈夫、あれは状況が悪かった」
おそらくマドカさんが見たのは路地全体が爆発した後、『浄火蝶の鱗粉』を使って追い詰めた時だ。
『甲板、彼、友人。犯人、考え、なかった』
「そうですね…船員の方からも犯人だなんて信じられないって言ってました」
連日謎の爆発事件が起きている中、爆発を使う誰かに知人が襲われていた。まさかその知人が事件の犯人だと誰が考えるだろうか。
アシュトン・ヴェイルもマドカさんのことを知らなかったのなら無音の世界で困惑していたのも納得できる。
「あ、あと質問が…音がなくなる異能で僕の力が抜けたのは…」
『知る、ない。あれ、何?』
「え、」
確かに倒れた時に困惑の表情を浮かべていたが…
「それだったら一つ、それっぽい答えを出せるよ」
『何?』
「ジャン君の代償が悪かったね。マドカさんが異能を発動した時、巻き込まれたヴォルフの『視界』が途切れたんだって」
「ヴォルフさんの…」
ヴォルフさんの代償は『視力』。暗所では余計に悪化し、まともに前が見えないほどらしい。そのため常に共にいる白ネズミのアルバの視界を借りているんだとか…
それが途切れたということは一瞬、異能が使えなくなったということだ。
「多分マドカさんの異能は副次効果として発動時に他の異能を無効化するんじゃないかな」
『聞く、初めて。納得』
「えっと、つまり…」
アシュトン・ヴェイルを追い詰めていた時、【エイン・オロス】への呼びかけはなく、本気稼働ではなかった。
つまりエネルギー供給が多くない─それでも簡単な戦闘ぐらいはこなせるが─状況で僕はエネルギーを身体強化、カーネリオンの食事に使っていた。
急に異能が無効化されたことでエネルギー供給が途切れ、生存に必要…心臓の代わりをするのに必要なエネルギーが足りなくなってしまった、と。
「怖!?なんで生きてるんですか!?」
「運が良かったね…」
『謝罪、知る、なかった』
鳥肌が止まらない。いつの間にか死にかけていた、さらにそれを知らなかったというのが恐ろしい。
「ところでなんで
『…町、歩く、笛、聞こえた。アレ、言った、動く、試す』
「あー…」
試運転に巻き込まれたということか、マドカさんの異能は特効とでもいうべき相性だったが異能を使っていない状況だとそうもなろう。
「…試運転?」
『道具、笛、言った、貰った?』
笛の男は契約者じゃなかった?詳細は警察に任せてしまったが…
「契約者じゃない…
「すいません、また機会があったら!」
『別れ、感謝』
「マドカさん!仕事を──」
調査中の警察の方に駆け出したジェーンさんを追いかけた。
〜〜〜〜〜〜
「やっぱり黒百合会?」
「ああ、背中に花の刺青があった。これで一掃できてるならありがたいが…というか捕まえられたのが
苦虫を噛み潰した表情のエドマンドさんがため息をつく。
「こんな力はないんだと思ったんだけど…」
「その、
マドカさんからその話を聞いた途端顔色を変えたが…
「まず黒百合会、こいつらは師匠が壊滅させたから残ってるのは貴族…もとい黒幕が率いる残党のチンピラ共。東区警察の内通者も全滅したから黒幕に大した力はない…はずだった」
「ふむふむ」
しかし、こうして
「それなら想像通りに契約者を雇ってた場合と同じじゃないですか?」
「いや、単純な単価で考えて欲しいんだけど…」
天秤のように両手を構え、まず右手を差し出した。
「意思があって生理的欲求がある、代償もあって万能とは言えない契約者。雇うには継続的に払い続ける必要があるね」
次に左手。
「自分から動くようなことがほとんどなく、代償がなく自分でも使える
「あー…」
「どっちの方が便利だと思う?」
「
「そういうこと、
頭痛に耐えるように頭を抑える。
「まさか
「アルフレッドが大体やってくれたと思ってたんだがな…黒幕の力を舐めてたな」
警察の方々が調査を続ける穴の空いた住宅。そこから黒幕に繋がる証拠が少しでも残っていることを祈った。
〜〜〜〜〜〜
「クソがぁ!」
卓上に飾られていた花瓶を薙ぎ倒し、その場にいた取引相手を睨む。
「どういうことだ!
「そうですね」
紙袋を被った男…ヴィクター・ウィリアムズは取り乱す貴族の男を気にせず優雅に紅茶を啜る。
「なぜアイツが私の邪魔をする!」
「そう言われましても…」
迷惑そうな声色は余計に貴族の男を苛立たせる。
「我々の契約は
「な…!」
「具体的な場所は指定せず、街を混乱させるよう指示してました。街の混乱は誘拐に有利だったでしょう?ああ、こうして街に招き入れてくれたことには感謝していますよ」
「き、貴様ぁ!誇りあるグ──」
貴族の男の鼻先を掠めて矢が突き立った。
「ひ、ひいっ」
「話は以上です。紅茶、美味しかったです」
ヴィクターはいつの間にか手にしていた弓を軽く下ろすと手足の先から透明になっていき、その場から消えてしまった。
それから数分か十数分、あるいは数秒。貴族の男は屈辱の気持ちが抑えられなかった。
「まだだ!黒百合会がなくなろうと!
手足の震えを抑えながらも彼は勝利宣言をやめない。
「『霧鴉』以外に…!アルフレッド・クロウリー以外に私を止められる者など存在していないのだから…!」