「はじめまして、エドガー・グレイヴスだ。ようこそ、ミス・ヴァレンフォード」
「はじめまして、エレノア・ヴァレンフォードです。ご招待いただきありがとうございます」
西区の中でも上から数えた方が早いほどの大きさを持つ邸宅にて。金髪の少女と赤毛の美丈夫が向かい合っていた。
「直前の招待になってしまって申し訳ない。いきなり招待していた友人の一人が来れなくなってしまってね、空いた一枠に君を招待したいと思ったんだ」
「それは光栄です。ですがなぜ
「我々はとある芸術作品をきっかけに交流が始まった仲間でね、海外の美術品の取引も多いヴァレンフォード家のご令嬢なら理解をいただけるのでは、と思ったんだ」
「なるほど…それは楽しみです」
表面上は和やかに会話をする二人だがエレノアの後ろのメイドは違う。
取り繕ってはいるものの視線に混じる警戒の色は隠せていなかった。
栗色の髪の彼女が着るメイド服は新品のようなハリがあり、少しも色あせしていない。それもそのはず、彼女は『異能探偵』ジェーン・ドゥ。エレノアの従者のふりをして、護衛としてついてきていた。
エドガーの案内に従って豪華絢爛な装飾の施された夜会、エドガーの悪意に満ちた鳥籠へジェーンたちは足を踏み入れた。
〜〜〜〜〜〜
挨拶回りが終わり、一息ついたエレノアに声がかけられる。
「お客様、主人がお呼びです」
「はあ、わかりました…ジェーン」
「はい、お嬢様」
ジェーンを後ろに連れて燕尾服の使用人について行けばなんの変哲もない扉に案内される。
「ここは?」
「主人が待っております。お一人でお行きください」
「1人で?」
言い返そうとしたジェーンを片手で止め、扉に手をかける。
「ジェーン、大丈夫だから待っていてちょうだい」
「…わかりました」
「いってきます」
後ろ手に扉を閉めればエドガー・グレイヴスが夕暮れの空を眺めていた。
「お待たせしました」
「いや、急に呼び出した私が悪いのだから気にしないでくれ」
エドガーはクローゼットを開けたかと思えば何かを弄り始めた。
「?一体何を…」
「我々の芸術品を見てもらおうと思ってね」
クローゼットの奥にあるはずの壁はなく、真っ黒な暗闇が広がっていた。
「地下室…?それと芸術作品になんの関係が?」
「芸術を貶めるのはいつだってそれに理解を示さない連中なのさ」
置いてあったランタンに火をつけ、石の階段から手を差し出すエドガー。エレノアは警戒を強めて彼を無視し、一歩進んだ。
「…見てはもらえるようでよかったよ。足元に気をつけて」
階段はあまり長くなかった。それでも2.5m前後…一般的な住宅の一階ほどの深さはあった。
「これが、芸術作品ですか?」
「ええ、私が持っているものの一つ、一番美しいものだ」
上質な布が掛けられた2mほどの物体にエレノアは首を傾げる。
「石像…ではありませんね。それにしては円形で高い…」
「ふふ、ふふふ…ようやく!ようやくだ!」
いきなりエドガーが声を上げる。
「芸術を、真の美を理解しない者は多い!我々のような本当の審美眼を持つものはいつだって排斥されてきた…!」
「エドガー、さま…?」
「これが、これが!我々を惹きつけて止まなかった芸術、真なる美だ!」
「!」
勢いよく剥がされた布の奥にあったものに少女の目が見開かれる。
そこにあったのは一糸纏わぬ姿の少女、その瓶詰めであった。
「びん、づめ…?人間の…?」
「ええ、ええ!真なる美とは美しく、無垢な乙女に宿る!ただ無垢なだけでなく現実という汚れを受け入れようとする姿こそ真なる美!我々はそれを永久に、
「あなたは、何を…」
怯えた表情の少女に興奮した彼は祈りを捧げるように手を組む。
「君こそ真なる美の体現者だ。君の美を永遠に留めることこそが私の使命なのだ」
「そ、そのような言い訳で殺人が、誘拐が許されるはずがないでしょう!?」
「我々の芸術を理解しない社会など気にするだけ無駄だ。さあ、君も、永久の美となるのだ…!」
ゾロゾロと現れた黒百合の刺青を入れた男たちが少女を取り囲む。
ただの貴族令嬢でしかないエレノアに抵抗する術はない──はずだった。
〜〜〜〜〜〜
時は同じく、東2番通り近くの通りには2人の男がいた。
「これが未来視の異能…色んな意味で恐ろしいな…」
「お前は…あの時の、剣の…?」
「失礼、待ってましたよ、アシュトン・ヴェイル」
困惑の表情はすぐに好戦的な笑みに変わった。
「ハッ、この前は逃げられたが今日は逃さねえ。えーっと…」
「そういえば、何度か戦ってますけど自己紹介をしていませんでしたね」
地面に突き立てていたカーネリオンを引き抜き、刃を向ける。
「僕は──」
〜〜〜〜〜〜
少女に掴みかかった大男が宙を舞った。
今この場にいる者の中で最も大きい男であり、彼を投げ飛ばしたのは男よりも二回りも小さい少女だった。
「まさかここまで明確な証拠を見せてくれるとは思わなかったよ」
想像もしない光景に思考が止まった男たちに反応はできなかった。
「ここからは実力行使の時間だ、覚悟はいい?」
ドレスを割いてスリットを作った
「その前に自己紹介からか」
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「僕は『異能探偵』助手のジャン・ボイル」
「私は『異能探偵』のジェーン・ドゥ」
「あなたを、捕まえにきました」
「お前たちを、
「この事件、僕が、今、この場所で解決する!」
「黒百合会、お前たちの事件は私が解決する!」
時を同じくして、2つの場所で戦いが始まる。