「は…?ほ、本人はどうした!?」
「東区でのんびり過ごしてるよ」
自然体な姿に取り囲む男たちは思わず後ずさる。
「う、上のメイドは…」
「協力者。流石の大女優、名演だったね」
エドガーは震える声を押し殺して叫ぶ。
「殺せ!剥製にして霧鴉に届けてやる!」
「「「うおおおぉお!」」」
「『異能探偵』を舐めるな!」
雄叫びをあげて飛びかかる男たちとは反対にエドガーは慌てて地下室から離れる。
「どういうことだ…!?」
「あら、」
クローゼットの隠し扉から飛び出した彼の目に飛び込んだのは執事の上に座ったジェーンの姿だった。
「な、何故!?」
「ジェーンちゃんは…まだ中ね。私も正体を明かそうかしら」
そう言ったメイド姿のジェーン・ドゥはカツラを外し、輝くような銀髪を明らかにした。
「ヴィ、ヴィヴィアン・ローズウッド!」
「私もちょっとは怒ってるのよ?」
エプロンを投げ捨てて迫る彼女からも逃げ出し、不格好に廊下に出る。
「おい!誰かこい!」
逃げ出した先は大広間。夜会の参加者たちが不思議そうに転がり込んできた彼を見る。
「さ、作品がバレた!警察が来る前に奴らを処分しなくては…!」
「な、なんだと!?」
「何をしてくれたんだ!」
エドガーの同好の士──共犯者たちが慌てる。彼らの決断は早かった。
「わ、私はお前たちの趣味について一切知らない!帰らせてもらう!」
「わたしもよ!バトラー!馬車を!」
「ま、待ってくれ!どうか──」
「まあ」
しかし、その判断をするには遅かった。
「私を、見てちょうだい?」
動くものを見ようとしたのが悪かった。
エドガーの奥から入ってきたヴィヴィアンを見たものは思考が止まった。
エプロンを外しただけのシンプルな黒いワンピースがより一層彼女の美を引き立てる。
ヴィヴィアン・ローズウッド。『グレイフォードの薔薇姫』と呼ばれる彼女の美しさは意図を持って示せば人の意識を掴んで離さない。
「ひ、ひい!?」
「あとはあなただけね」
広場にいた貴族たちは恍惚の表情を浮かべて動かなくなった。
ヴィヴィアンはエドガーの顎を掴み、瞳を覗き込む。その美に抵抗もできず彼の意識は溶け──
「は、離せ!」
「あら?」
ヴィヴィアンの手を弾き、後ずさる。
「よっぽど頑固な美的感性を持ってるみたいね。私だけじゃ…」
「ヴィヴィアン!」
ジェーンが広場に飛び込んだ。
「他の参加者はあと!今は外に逃して!」
「了解。あなたたち、屋敷の外に逃げなさい」
指示を受けた参加者たちが我先にと屋敷の外に飛び出す。
「何が?」
「まだ契約者がいた…!」
ジェーンを追いかけて広間に入ったのは茨を腕に巻いた男だった。
「ご主人、殺していいんだよな?」
「殺せ!殺してしまえば全て解決する!」
「りょー、かいっ!」
拳が叩きつけられた絨毯から茨が広がる。
拡大する茨を警戒し、ジェーンは男を睨んだ。
〜〜〜〜〜〜
「【エイン・オロス】!」
「【カルマグニ・パティン】!」
壁を蹴って上空に跳び、炎の蝶を避ける。
「【カーネリオン】!」
「来い!」
上空から切り掛かったが避けられ、小さな鉄球が投げつけられる。
「くっ」
爆発。服に焦げ跡と穴が残る。
続けて投げつけられた鉄球をカーネリオンを盾に突っ込む。
爆発の煙を超えた時、視界いっぱいに蝶がいた。
「やばっ、」
「爆ぜろ!」
咄嗟にカーネリオンを投げ上げる。
建物の屋根を超えたあたりでカーネリオンが爆発した。
「これでお前の剣は…」
「いいや、まだです」
回転しながら落ちてきた柄と鍔だけのカーネリオンを掴み自身の左腕を切る。
軽く血が滲む程度のそれで剣身は元通りになった。
「それが
「頼れる相棒ですよ」
軽く振るって調子を確認する。自分だけでは勝てないということがわかった。
「勝負はここからです」
「いいぜ!瓦礫一つ残んねえ激戦にしよう!」
「流石にそれは勘弁!」
身を低くし、踏み出した。
〜〜〜〜〜〜
「その…いいんでしょうか」
『
「大丈夫だ大丈夫。アイツらが仕事をしくじることはほとんどない。心配するだけ無駄だ」
東区の端、倉庫街にはゲイルたちブラウンラットの幹部3人とエレノア、マドカがいた。
「ジェーンさんたちが事件の解決のために頑張っているのに私たちが遊んでいても…」
「気にしなくてもいいよ。むしろジェーンの方から言い出したことなんだし」
「でも…」
笑い声をあげて通り過ぎる酔っぱらいにエレノアは咄嗟に身を小さくして帽子をより深く被った。
今のエレノアは汚れたシャツに深く帽子を被り、金髪も汚した上で帽子やシャツの中に隠していた。
同じような格好をしたマドカは思い出すような表情をした。
『三日前、
「確かにお嬢様とジェーンの背丈は似てるが…」
三日前、ヴァレンフォード邸に来たジェーンが提案したのは入れ替わり作戦だった。
提案されたその日からジェーンは変装してエレノアとして動き、エレノア本人は荷物に紛れて東区に移動してブラウンラットの元で過ごす。
東区の港周辺は貴族令嬢が生活するには向かない治安だが、貴族の権力が近い西区よりかはマシだと言う判断をヴィンセントが下したことで許可された。
今頃ジェーンはエドガー・グレイヴスと、ジャンは
「明日には帰るんだから何かお土産でも…」
キンッ
何かが弾かれる音。見ればマドカが隠し持っていたカタナを構えていた。
キンッ キンッ
「襲撃!」
第3の戦いが始まった。