異能探偵ジェーン・ドゥの事件簿   作:ショウゴロウ

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30話 『火蝶魔(クリムゾンバタフライ)』アシュトン・ヴェイル

 

懐からこのために準備した小瓶を取り出す。

 

「やらせるか!燃やせ【カルマグニ・パティン】!」

 

前回の衝突で小瓶が爆発するところを見ているアシュトンはすぐさま警戒し、蝶の群れを飛ばす。

 

「残念、ハズレ!」

 

明後日の方向に小瓶を投げつけ、正面から突っ込む。

 

蝶の群れの一部が壁のように立ち塞がるが、それは一瞬だった。

ガラスの砕ける音と共に炎の蝶は一箇所に殺到した。

 

「な──」

「ふっ!」

 

下がって避けられるが、下がられた分を詰めてカーネリオンの導きに従って振り続ける。

凄まじい身のこなしで避けられるが、完全に避けることはできず、服は切り裂かれ皮膚に血が滲む。

 

あと一手のところで足元を爆破され、強引に距離を取られてしまった。

 

「一体何が…」

「次、です!」

 

再び小瓶を投げる。壁にぶつかって砕けた小瓶から小さな球が飛び出した。

 

閃光

 

太陽を思わせる光に目が灼かれたアシュトンは視界が封じられた。

 

出した蝶も彼の指示を聞かずに何もない場所に殺到してしまう。

後ろに回り込んで腕を掴み、地面に押さえつけた。

 

「クソッ、何が…」

「『ラメシュの瞳』、だそうですよ」

 

圧倒的な光量で相手の目を潰す道具だ。弾を当てる必要のある『浄火蝶の鱗粉』とは違って割るだけで発動するから便利なんだとか。

 

「そっちじゃねえ!クソッ…!」

「このまま降伏を…」

「誰が、するか!」

 

反応する時間もなかった。

 

脈絡もなく奴が爆発した。

 

「─、自爆!?」

「はは、痛えな」

 

服の一部を爆弾化したのだろう。服には大穴が空き、背中には生々しい火傷がついている。時折呻き声すら漏らしている。しかし、その瞳には重く粘っこい執念が宿っていた。

 

「起点は手だけじゃない…!」

「蝶はどこからでも出せる!でもってえ…!」

 

そう言って近くに転がっていた瓦礫を手に取った。

 

「なんだか知らねえが誘導は万能じゃねえ。こう、やってえ!」

 

炎の蝶を出さずに爆弾化したのだろう、真っ直ぐに投げつけてきた。

一個なら避けられる。強化した目で見切り、カーネリオンを構えて走る。

 

しかし、足元に妙な感覚があった。

 

「、鉄きゅ──」

 

爆発。傷は幾らでも治るが勢いは殺される。

ゴロゴロと転がって立ちあがろうとしたところに炎の蝶が殺到する。

 

「くっ!」

 

足元に瓶を叩きつけてまっすぐ走る。

蝶は瓶から転がった赤い花に殺到し、こちらに見向きもしない。

 

「それが誘導のタネか!」

「─ああ!」

 

勢い任せの剣筋は容易く避けられ、距離を取られる。

 

「ここらで見る花じゃねえけど…何なんだ、あれ」

「…焔輪華(アグニマーラー)、ヴァルナーシャの花です」

「えーっと、あー。墓に植えてあって、浄火蝶(パーヴァカ・パティン)の好物だったか」

「よく、ご存知で!」

 

話しながら息を整えて駆け出す。差し向けられた蝶の群れを避けて飛び上がった先には瓦礫が浮いていた。

 

「!?」

 

咄嗟にカーネリオンを盾にして爆風を受け止める。

吹き飛んだ先の屋根につかまって止まり、またアシュトンを追いかける。

 

「おいおい、そろそろ仕事したいんだけど?」

「まず罪を償ってからにしてください!」

 

壁を走って進路上に立ち塞がる。

 

「この先で、一体どんな仕事をする気で?」

「んー、まあ言ってもいいか」

 

落ちていたゴミを軽く放りながら何でもないように言った。

 

「あそこの時計塔…クラウンベルだったか?を爆発させる」

「は?」

「そうすりゃ街は大混乱、俺らの目的が果たされるってわけ」

 

歯を食いしばってカーネリオンを強く握る。

 

奴の異能による爆発の規模は爆弾化された物体の体積に比例する。クラウンベル時計塔並みの大きさになればグレイフォードは混乱どころが壊滅しかねない。

 

「させてたまるか…!」

「ところで、何で言ったと思う?」

「!」

 

飛び上がったが一手遅かった。

石畳や壁、近くに落ちていた空き缶まで。そのこと悉くが連鎖的に爆発する。

 

「ぐ、ぁ…」

「じゃ、そのまま寝ててくれ。死にはしねえだろ」

 

爆発に巻き込まれた下半身は千切れ飛び、燃え尽きた。焼け焦げた両腕で追いかけようにも力が出ない。

 

「【エイン・オロス】!廻れ、【エイン・オロス】!」

 

胸の鼓動が早まる。永久機関はかつてない速度で稼働している。それでも下半身を再生するには足りない。

 

「おい、かけろ!【カーネリオン】!」

【─】

 

カーネリオンを自由にさせて意識を集中する。

 

今までの再生は大雑把にエネルギーを流し込むだけだった。

それでも切れた部位を繋げ直すぐらいはできたが、エネルギー効率は最悪に近かった。

それじゃ足りない。無限のエネルギーを生み出すエイン・オロスの永久機関も一度に生み出せるエネルギー量は無限じゃない。

下半身を再生させるには効率的にエネルギーを流し込まないといけない。

 

「集中、集中…!」

 

痛みに耐えながら祈るように目を瞑る。

 

今街を守れるのは僕しかしない。

 

エネルギーをそのまま流し込むのではなく、細かく分割して流し込んでいく。

 

くすぐったいような独特の感覚に耐えて流し込み続ければ下半身は完全に再生した。

 

「くそっ、しつ、こい!」

 

爆発音。駆けつければ宙を舞っていたカーネリオンが爆発するところだった。

 

「【カーネリオン】!」

 

飛び込んできた柄にエネルギーを流し込み、剣身を再生させる。

 

「もうかよ…いい加減しつこいんだよ!」

「大人しく降伏してください!」

 

夕陽を反射するグレイ川の辺りで、爆発音が響いた。

 

 

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