戦場をグレイ川の辺りに移してしばらく、お互い息も絶え絶えな状況だった。
威勢が良かったのは最初だけだった。異能や身体の扱いが上手いが体力に限りがあるアシュトンに対し、技術は劣るものの異能のおかげで永遠に戦い続けられる僕。
路地での戦いで消耗していたこともあって早々に泥仕合になってしまった。
「さ、っさと、倒れろ!」
「誰が!【カーネリオン】!」
【─、──】
何度か爆散と再生を繰り返したことでカーネリオンの反応も鈍くなっている。
技術の欠片もない強引な剣筋は容易く避けられてしまう。
その隙に飛ばされた蝶はこちらに辿り着く前に風に吹かれて消えた。
「チッ…これが最後だ」
「は?」
息を整えていたアシュトンの言葉に疑問の声が漏れた。
「俺はもうまともな蝶が出せないぐらいには疲れてる。お前は?」
「…カーネリオンの声が途切れました」
「お互いにもう限界ってわけだ」
苦笑の息を漏らし呆れたように肩をすくめる奴を睨む。
「俺は仕事を完遂したい、お前は俺の仕事を止めたい」
「『異能探偵』助手として見過ごせません」
「お互い次の攻撃で全力を出し切ろうぜ、って提案だ」
助かる、というのが正直な感想だった。体力はまだ残っているし身体にも傷ひとつない。それでも精神的には限界だった。
「これで最後だ、気合い入れろ!【カーネリオン】!」
「全部、全部吹き飛ばせ!【カルマグニ・パティン】!」
生命維持に割くエネルギーは最低限、残りは全部手足とカーネリオンに注ぐ。
駆け出すと同時、アシュトンの背中から今まで見た中で最大の蝶が羽ばたいた。
あれに触れればたとえ小石でもここら一帯を吹き飛ばすだけの爆弾になるであろう、そう思わせる迫力があった。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
雄叫びをあげて飛び上がり、蝶を両断する。
──目の前に鉄球が浮かんでいた。
「【エイン・オロス】!」
察していたことだった。増産したエネルギーで全身を覆い、爆風を突き破る。
奴は目に驚愕の色を浮かべながらも、笑っていた。
力任せに振り下ろされたカーネリオンが奴の頭を殴りつけた。
〜〜〜〜〜〜
「なんで、わかった?」
「は?」
衝撃でへし折れたカーネリオンを杖に荒く息を吐いていたところに声が聞こえた。
「あの蝶で、打ち止めだと、思わなかったのか?」
「いや、まあ…」
まず敵の言葉を信じすぎるな、というのがひとつ。何より…
「クラウンベルを爆破する、なんて言ってる奴がこんなところで全力を出すわけないでしょう」
「はは、それも、そうか…」
再生した脚で立ち上がり、折れたカーネリオンを突きつける。
「降参、だ…もう鱗粉も出ねえよ…」
「確保ぉー!!」
爆音を聞きつけてやって来ていた警察が盾を構えて走ってくる。
拳銃を突きつけた警察にアシュトンが囲まれる。
「お疲れ、ジャン」
「ああ、エドマンドさん…」
ふらついた僕を葉巻を咥えたエドマンドさんがコートをかけて支えてくれた。
「酷い格好だな。だがお手柄だ」
「…爆発のせい、ですね」
路地を出た時点で下半身の衣服は燃え尽き、上半身も最後に爆風に突っ込んだせいで原型を留めていない。全裸の状態で戦っていたらしい。
「ジェーンの方も決着がついたらしい。西区でエドガー・グレイヴスが逮捕された、ってな」
「それは、よかったです…」
「ジャン君!」
三日ぶりの声が聞こえたかと思えば背中に衝撃が走る。
「ジェーン、さん?」
「こっちは終わったから、早めに帰ろうと…そしたらジャン君が、こんな惨状で…」
「見苦しくてすいません…」
背中に抱きついたジェーンさんの手をどうにか剥がして顔を合わせる。
ジェーンさんの顔には細い傷がついていて、涙でいっぱいだった。
こちらの顔も傷がないだけでひどく疲れた顔をしているだろう。
「事件、解決ですねジェーンさん」
「うん、うん!事件解決!」
握り拳をぶつけ、健闘を讃える。
この街を長年苦しめていた誘拐事件も、ここ数週間みんなを怯えさせていた爆発事件も解決した。
グレイフォードに広がる夜空は雲ひとつなく、邪魔するもののない月が輝いていた。