あれから2日、予想外に
ジェーンさんは思い詰めた顔をして自室に篭り、毎日何かの作業をしている。
僕は何かをするわけでもなくジェーンさんにお茶を入れ、過去の事件のファイルを読み、手話の自主勉強をするだけの生活を続けていた。
「はあ…」
時間通りにポットから紅茶を注ぐ。
できた最初こそ嬉しかったものの、美味しい紅茶が当たり前になれば歓喜の気持ちが湧くこともなかった。
「よう、邪魔するぞ」
「ゲイルさん」
軽いノックの音と共にゲイルさんが事務所にやって来た。
「来て欲しい場所があってな。ジェーン!ジャンを借りるぞ!」
返答はなかったが聞こえたと判断したのか、そのまま手を招いてくる。
「…行って来ます!」
〜〜〜〜〜〜
港近くまで来たところでゲイルさんはようやく口を開いた。
「近いうちに
「え?危険なんじゃ…」
「契約者が犯人の事件はいつもこんな感じだ」
言われてみればパン泥棒の時もそうだったかもしれない。あの時の犯人が攻撃的な異能を持っていなかっただけだ。
「ジェーンそのための準備を進めてる…が、助手がいるのを忘れてる」
「忘れられてるんですか?」
「自分のことで手一杯だからな。今のままじゃ置いて行かれる」
思わず唇を噛む。置いていかれるのは嫌だった。
「だがお前は貴重な戦力だ。契約者なんだろ?」
「はい、まあ一応…」
「一応?」
疑問には思ったようだが追求はされなかった。
「異能を聞いても?」
「再生、だと思います多分」
「規模は?」
「背中をバッサリやられて傷ひとつないぐらいです」
「ふむ、だいぶ強力だな」
紙で指を切ったときは痛みを感じて確認するまでに治っていた。
「盾役としては最適だな」
「盾役…」
ブラウンラット本部に来たのは2回目。今回もあまり人はいなかった。
「パット、ユウレンとリシェは?」
『トイレと自室。──?』
「いや、紹介できればと思ってな。東区の契約者だ、関わることも多い」
パトリシアさんとゲイルさんの会話に読み取れない手話があった。付け焼き刃じゃまだまだ会話もできないようだ。
『こっち、──倉庫』
「あ、はい」
『頑張って』
案内されるままに、カウンターの裏手にあった地下への入り口に入る。
「最低限、自衛の手段を持ってもらいたい。銃やら剣やら、武器を使った経験は?」
「ない、です」
「まあそんなもんか」
手持ちランプで照らされた通路の先、重い金属扉の部屋には何か金属の光が見える。
「ちょっと待て、今灯りを点ける」
備え付けらしい蝋燭に火がつけられると、今までのぼんやりした反射は剣や銃であったことがわかった。壁に飾られている他にも樽に入れられているものもあり、とても数え切れない量だった。
「ここ、は…」
「ブラウンラットの武器庫だ。普段使うことはないんだが…いっぺん持ってみろ」
「は、はい」
渡された長剣は思ったより重く、ふらついてしまった。
何とかそれらしく構えてみるがすぐに持って行かれた。
「じゃあ…これか?」
ゴツゴツとした先端のメイスもまた重く、振り回すのにも一手遅れてしまうようなザマだった。
「力には自信があったんですけど…」
「構え方がダメだと持てるものも持てないぞ…あった、これだな」
さっきまでの武器とは別の区域を漁っていたゲイルさんがまた何かを持ってきた。
差し出された棒をおっかなびっくり受け取ると見慣れたものだった。
「鉄パイプ、ですか?」
「これなら誰でも振り回せるからな。気休めの防具と…ナイフも見繕っておくか」
軽く振ってみると、さっきまでとは違う空気を切る音が鳴った。
放り投げられた金属板の仕込まれた革製のプロテクターと鞘に入った片手ほどのサイズのナイフを何とか受け取る。
「正直戦力としては期待していない。火力は俺の『触れたものを凍らせる』異能で足りてるからな」
「、はい…」
その言葉に力不足を痛感させられ、思わず下を向いてしまう。
「だからお前はジェーンの盾になれ」
「盾、ですか?」
「今のアイツは焦って周りが見えていない。その分助手のお前が守ってやれ」
ゲイルさんはそれだけ言って武器庫に背を向けた。
「早めに帰るといい。いつ
「…はい!ありがとうございます!」
渡された麻袋に渡されたものを詰め、駆け足で事務所への帰路を進んだ。
〜〜〜〜〜〜
霧鴉通りに入り、道ゆく女性とすれ違った時だった。
「そこのあなた」
「はい?」
「決戦の地は東5番通り…気を緩めないように。骸が死ぬことはないのだから」
「えっと…?」
「それだけよ」
黒いベールを被った女性の言葉に首を傾げるがそれどころではないと駆け出す。
「おかえり、ジャン君」
「ジェーンさん」
事務所の扉を開けると、ジェーンさんがソファで何かを読み込んでいた。
「帰って来ていきなりで悪いんだけど…」
「別に構いませんが…」
一体何を頼もうと言うのだろう。
「ゲイルを呼んでほしい」
薄くクマのできた顔は焦りの感情を浮かべていた。
「作戦会議。次で、
それでも、決意で満ちた瞳が爛々と輝いていた。