無能と蔑まれた落第少女ですが、最強の師匠(魔眼)に弟子入りして魔術学院の首席を目指す   作:サンド・リヨン

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第3話

 誰かが好き勝手に置いて行った剣や杖、魔導書に魔道具。

 乱雑に保管されていたそれらが、闖入者の大暴れによって散乱する。

 

「あーあ、また好き勝手にやってくれちゃって……後片付けをするのは俺なんだぞ?」

 

 吹き飛ばされた扉や瓦礫やらを何とか回避してぼやく。

 

 滅多に人の来ないガラクタ置き場に来客。

 本来ならば久々の話し相手に喜ぶところなのだが──

 

「呑気に喜んでる場合でもないか……」

 

 一人は今にも死にそうな女の子に、もう一人は何かごついゴーレム。

 

 とりあえず、まだまだ元気そうなゴーレムを何とか念動力で拘束。この程度の相手ならば、今の状態でもギリギリなんとか。

 

 一旦の安全は確保できたので、俺は足元で呻く少女に質問した。

 

「それで──こんなガラクタの山なんかに来て、どうしたんだいお嬢ちゃん?」

 

「──え?」

 

 件の少女は俺の方を見て、呆けた声を出すだけ。酷く驚いた様子だ。

 

 ──そりゃあ目の前にいきなり、宙に浮かんだ目ん玉が出てきたら驚くわな。

 

 同情はするが、容赦はしない。ゴーレムの動きを止めるのにも限界がある。

 

「随分と落ちぶれちまったもんだなぁ」

 

 ぼやきながら、俺は改めて状況の整理をする。

 

 ──隠蔽され、幻術によって不明瞭となった宝物庫に辿り着いた。この女の子、運が良いんだか悪いんだか……。

 

 制服姿なのを見る限り、アイツの学院の生徒で間違いない。それと、他に魔楼迷宮(ラビリンス)に入った仲間の姿は見受けられない。

 

「探検の途中で仲間とはぐれたのか、それとも元々一人なのか……」

 

 どっちにしろ、かわいそうな話だ。アイツ以外で実に二百年ぶりの到達者がこんな有様とは……。

 

「できることなら助けてあげたいんだけど──」

 

 それにはちょっとばかり……いや、かなり厄介な方法を使わなければ難しい。

 

 少女の事を思うのならば、できるだけ独力で頑張ってもらいたいところだが……それはちょっと酷な話だ。

 

 浅く呼吸を繰り返し、ぴくぴくと身体を痙攣させる少女は、今すぐに立ち上がり眼前のゴーレムを打倒できそうにない。

 

「GUOOO……」

 

 念動力で押さえつけていたゴーレムの方も、じりじりと抵抗してきている。

 

 このまま一人で適当な場所に隠れて、少女を見捨てることは出来る。けど、それじゃあちょっと虫の居所が悪すぎる。

 

「はぁ……しょうがない。なぁ、嬢ちゃん。一つ助かる方法があるんだけど、どうする?」

 

 だから俺は、意識が朦朧としている少女にとある提案をした。

 

「あぇ……?」

 

 何とか意識を保ち、こちらを見た少女に俺は言葉を続ける。

 

「俺に身体を貸してくれないかな?」

 

「か、す……?」

 

「そう。見ての通り、俺は目ん玉だ。しかも、かなり魔術的な概念でこの状態を維持していて……簡単に言ってしまえば〈魔眼〉ってやつ」

 

「ま、がん……」

 

 言葉の意味を正確に理解できているのか怪しい少女の相槌に、不安が這い寄る。

 

「訳あって、俺は今の状態じゃあのゴーレムをどうすることもできない。正直、嬢ちゃんを見捨てて逃げることもできるが……それも願い下げだ。だからちょっと嬢ちゃん、協力してくれないか? もちろん、借りた身体はしっかりと返す。けど、俺が嬢ちゃんの身体を借りた場合、ちょっと面倒なことが──」

 

「お願い、しま、す……」

 

「え?」

 

 大事な説明を途中で遮り、少女は潰されていない片目でしっかりとこちらを見据えた。

 

 その姿は、先ほどまでの死にかけた少女ではない。生に縋り、どんなに惨めだろうと生き抜こうとする、強い意志と熱が感じられた。

 

「根性あるね、お嬢ちゃん──気に入った。それじゃあ、契約(サイン)だ」

 

 たぶん、俺に口があったのならば今、思い切り笑みを刻んでいることだろう。

 

 そんなことを考えながら、俺は自らを封じていた瓶を念動力で捻じり割った。

 パリンッ、と甲高い音が響き、俺は数百年ぶりの外気に触れた。

 

 

「目が乾く前にさっさと済まそう。嬢ちゃん、ちょっと気持ち悪いかもしんないけど、我慢してくれよ」

 

「ハ……い──ッ!?」

 

 断りを入れてから、俺は念動力で目玉(カラダ)を器用に動かして、少女の右眼窩──おそらく吹き飛ばされた影響で右眼が潰れた──に自らを嵌め込む。

 

 存外、元からそうであったかのように目玉(カラダ)はあっさりと嵌まり込み、驚きながらも即座に俺は溜め込んでいた魔力を少女に流し込む。

 

「ぅぐ! ア、ガぁ……!!」

 

「もうちょっと我慢してくれ。経路(パス)を繋いじまえば、すぐ終わりだ」

 

 自分以外の異物が、強制的に流れ込んでくるのは酷く不快だろう。全身をビクビクと痙攣させる少女の意識はもうほとんどない。けれど、助かる為には必要なことだ。

 

 約三十秒ほど、少女は苦痛に藻掻き苦しみ──そうして、契約は完了した。

 

「ちょいと身体を借りるぜ? 嬢ちゃんは休んでおきな」

 

「……」

 

 半ば、放棄されていた身体の主導権をこちらで貰い、俺は少女の身体を動かす。上手く立てなくて、ちょっとよろけた。

 

「実に二百年ぶりの身体だ……」

 

 久しぶりの所為かちょっと動きがぎこちないのはご愛敬。あと、怪我をしてるのも大きい。

 

「ササっと治しちまうか──」

 

 基礎的な治療魔術で全身の骨折、臓器の損傷、筋肉の裂傷を治す。瞬く間に治った身体の具合を見て、俺は驚く。

 

「おぉ……この嬢ちゃん、良い回路(モン)持ってるなぁ。かなり癖はあるけど、魔力の伝達速度と浸透性、許容量がピカイチ。魔力量も大したもんだ」

 

 素材だけで言えば、前の身体より上位。簡単に言えば天才だ。

 

「これなら、そこのゴーレムくらい余裕だと思うんだが──」

 

 不意に、妙な違和感を覚えて、俺はすぐにその雑念を振り払う。何故なら、念動力の拘束から解放されたゴーレムがすぐ真後ろまで迫っていたからだ。

 

「GUOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「まぁ、この嬢ちゃんにも色々あるんだろうさ」

 

 随分と怒り心頭なゴーレムに視線を向け、俺は人差し指をさす。

 

「──爆ぜろ」

 

 瞬間、丸っこい身体をしたゴーレムは内側から赤熱を吹き出して爆発した。それで、あれほど対処に苦労していたゴーレムの相手は終わる。

 

「うん。出力も十分。可能性の塊だなぁ」

 

 しっかりと魔力を通し、制御、外部へと伝達する回路、そして五体満足な媒介(からだ)があれば、他人から借り受けた身体でも魔術は扱える。

 

 久方ぶりの魔術行使に全身が高揚した。だが、いつまでもその余韻に浸っているわけにもいかない。

 

 約束は約束。借りたものはちゃんと元の人に返しましょうだ。

 

「いやいや、良い経験だった。ありがとうな、嬢ちゃん。それじゃあ、身体の主導権を──」

 

 だが、一向に少女からの反応がない。

 

 恐らく──というか確実に、意識の限界がきて休眠状態に入ったのだろう。

 

「えーっと……それじゃあ、もうちょっと借りててもいいかな?」

 

 確認しても無意味であるが、口にしないと罪悪感がヤバい。

 

「べ、別にこの身体で変なことしようってんじゃないよ!? ちょーっとこの数百年の間で寝かせていた理論とか魔術の実験を試させてもらって……。あ、もちろん! ちゃんと地上まで安全に連れて返しますよ? だから、帰るまでの道中でちょっとだけ! 本当にちょっとだけだから!!」

 

 誰に聞き届けられるでもない言い訳をつらつらと並べながら、俺は惨憺たる有様のガラクタ置き場を後にする。

 

 後片付けはしない。そんなことよりも、この少女を安全なところに運ぶのが優先だから(使命感)。

 

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