シン・緑谷出久のヒーローノート   作:忍者にんにく

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Page.2『作中屈指の厄ネタに出会ってしまった』

 

6歳【5月10日】『はじめてのチームアップ』

 

 "原点(オリジン)"の日から2年と少し。僕とかっちゃんは毎日、実戦にも近い殴り合いを繰り返して来たが、今日は初めて共闘した。

 

 経緯としてはこうである。何があったのかは知らないが、学校からの帰り道にかっちゃんが6年生3人と1対3という不利な状況で戦っているのを僕は発見した。興味があったのでその場で見物を続けていると、かっちゃんは傷だらけになりながらも勝利を掴んだ。ところが、負けた6年生はなんと報復として、自分達よりも強い「よっちゃん」なる同級生を連れて来たのだ。

 よっちゃんとやらは異形型の個性を持った、見るからに屈強なやべー奴といった具合だった。かっちゃんは力を振り絞って戦ったものの、ダメージの蓄積がある上に相手が悪い。有効打を与えられず、苦戦を強いられていた。

 

 やがて、かっちゃんのスタミナが底をつき、かっちゃんは膝をついてしまう。それを見て、かっちゃんにやられた3人の6年生はさっきの仕返しとばかりに動き出そうとしたので、それは許さんと乱入した。

 素早く接敵し、体格差を活かして全力の突きを金的に繰り出すこと3発、よっちゃん以外の3人を戦闘不能にした。そして挨拶がわりに、こちらを見て驚いたのか隙だらけになっていた、よっちゃんの顔面に旋風蹴りを叩き込んだ。

 

 それからはあっと言う間だった。僕が主に正面から戦うことで防御を担当し、かっちゃんが絶妙なタイミングでヒットアンドアウェーを繰り返すことで攻撃を担当する。これが意外にも見事なコンビネーションを発揮し、呆気なくよっちゃんは沈んだ。

 

 こうして、僕達にとって初めてのチームアップミッションは大成功に終わった。

 なお、この後にかっちゃんは『余計なことをしやがって。一人でも勝てた』などと強がっていたが、「僕に勝ってから言え」と言ったところ、珍しく押し黙って何かを考えていた。

 ブチギレて襲い掛かってくると思ったが、意外である。かっちゃんも成長しているって事か。

 

7歳【7月15日】『ん? 今、何でもするって言ったよね?』

 

 誕生日である。普段は海外で仕事をしているお父さんも帰って来て、現地のヒーローグッズというプレゼントと共にお祝いをしてくれた。

 実は、お父さんもかなりのヒーローオタクである。僕が日本のヒーローについて話せば、お父さんも海外ヒーローについて話してくれる。そんな僕達を横目に、お父さんからのお土産を整理するお母さん。

 そんな家族団欒の楽しいひと時を過ごしていると、かっちゃんがやって来た。いつもの決闘である。

 

 当然、僕はそれに応じて外に出た。すると、決闘前にかっちゃんから「デク!今日、俺が勝ったらテメェは一生、俺の下だ!ただし、テメェが勝ったら何でも一つ言う事を聞いてやる!」と言われた。

 

 ん? 今、何でもするって言ったよね?

 ということで、いつもより張り切ってかっちゃんをボコった。かっちゃんは天才だが、天才を努力で凌駕するのが武術である。それはもう、コテンパンにしてやった。

 

 結果は僕の勝ちということで、デク呼びを止めさせた。久しぶりに、かっちゃんから「イズク」という呼ばれ方をして大満足である。

 デクって言葉は頑張れって感じがするらしいけど、あだ名で呼ばれたら普通にムカつくし、僕はあまり好きじゃない。ただし、麗日さんはカアイイから許す。

 

 

7歳【8月11日】『瀬古杜岳』

 

 山の日ということで、かっちゃん一家と一緒に瀬古杜岳まで遊びに行って来た。皆で山を登り、弁当を食べ、恒例となっているかっちゃんとの殴り合いをする。

 

 3ヶ月くらい前に6年生を倒してから、かっちゃんは元プロヒーローが運営する総合格闘技のジムに通い始めたのだが、練習の成果が出て来たのかここ最近は攻撃の鋭さが増している。掌から爆破を出す個性の都合上、拳をつくる格闘技とは相性が悪いと思っていたのだが、寧ろ逆であった。

 個性以外の戦う術が増えたことで攻撃のバリエーションが増え、動きがより洗練されたものとなっている。特にムエタイ系統の動きが凶悪だ。かっちゃん本人の気性もあって、凄まじい攻撃の嵐と威力となっている。

 と言っても、人間と戦う術に関しては僕の方に一日の長がある。攻撃を全て見切り、かっちゃんを下してやった。日々修行をして強くなっているのは、こちらとて同じなのである。

 

 そんなこんなで、メインイベントと日々の修行を終えた僕達は、僕のお母さんとかっちゃんの両親に断ってから山の周囲を探検しに出掛けた。「山に慣れているのはかっちゃんの方だから君がメインで僕がサイドキックね」と持ち掛けたら、分かりやすく機嫌を良くしたかっちゃんを先頭に、山の中には入らないようにしながら開かれた場所を歩いて行く。

 

 そうして歩くこと30分くらい経った頃だろうか、なにやら物の焦げる匂いが立ち込めてきた。「まさか山火事か!?」と危機感を覚えながらも現場を確かめるため、かっちゃんと共に火の発生源と思われる方向に急行すると、上半身裸で身体から火が吹き出している少年がいた。

 

 ぱっと見の状況から「火が身体に燃え移ったのか!?」と思った僕は、かっちゃんと共に何故か近くに置かれていた消火器を慌てて手に取り、ロックを解除して中身を思いっきりぶっかけた。すると、何故か盛大に怒られてしまった。

 なんでも彼は個性のコントロールを練習している最中だったのだとか。そう言われて周りを見れば確かに、暴走した時用の消火グッズが大量に置かれている。ははーん、なるほど。そういうことだったか……

 

 という一連の流れを経たところで漸く認識した。

 

 コイツ、後の荼毘こと「轟燈矢」くんやないけ!

 なんでや!? なんでここに居る!?

 原作だと既にAFOの手に堕ちている筈では!?

 

 と僕が驚いた顔を隠せずにいたところ、「あァ……」とどうやら燈矢くんは僕が凄まじい火傷の跡に気付いて驚いたのだと思ったらしく、「グロテスクなモンを見せちまって悪いな」と謝ってきた。

 まあ、勘違いしてくれる分にはありがたい。「気にしていないので大丈夫だ」と伝え、かっちゃんは「へっ、ヒーローがそんな傷にビビるかよ!」と生意気ながら気遣いの込められた言葉を送っている。

 

 すると、燈矢くんは「ヒーロー」という言葉に反応した。燈矢くんから「お前ら、好きなヒーローは?」と聞かれたので、かっちゃんと共にオールマイトと即答する。すると今度は「なら、No.2ヒーロー……エンデヴァーについてどう思う?」と聞かれた。

 最初に答えたのは、かっちゃんだった。彼はオールマイト大好きで、いつか彼を越えることを目標としている。そんな思いを背景に持って、かっちゃんは「俺が倒す」と答えていた。

 それを燈矢くんは鼻で笑い、ブチ切れたかっちゃんは突撃している。黙って殴られるままにしていた燈矢くんだが、かっちゃんがエンデヴァーの事を「オールマイトに勝てねえ雑魚のくせに!」と言ってしまったことで激怒し、大人気なく殴り合いへと移行していた。

 流石はエンデヴァーの長男だけあって、体術も一級品である。かっちゃんが見事にあしらわれ、手痛い一撃を喰らって撃沈している。

 

 そんな喧嘩が一段落したところで、倒れ伏すかっちゃんを横目に、再び地面に腰掛けた燈矢くんが今度は僕に意見を求めてくる。

 僕は「エンデヴァーのことは好きだ」と前置きした上で、彼の個性であるヘルフレイムについても熱く語っていく。彼の個性は強力な炎を放出するものだが、使い続けることで体内に熱が籠っていくというデメリットがある。これはこの世界でも公開されていたり、ネットで考察されていたりするので、僕が言っても不自然ではなかった。燈矢くんも真剣な眼差しで聞いてくれている。

 

 そして僕が熱演を終えたところで、聞き終わった燈矢くんは、「……もしもエンデヴァーのデメリットが『自分自身の熱に耐えきれず、身体に火傷を負っていく』というものだったら、どう思う?」と聞いてきた。

 

「あまり褒められた事じゃないと思うけど……自分を焦がしてまで他人を救けようとするってことだから、僕自身は超カッコいいと思う!」

 

「『ヒーローを辞めろ』とは言わないのか?」

 

「言うわけないよ。だって、エンデヴァーはすごいヒーローなんだ。相当の覚悟と信念を持っている人にそんな事を言ったら失礼だ!」

 

「……そうか、そう思うか。そんじゃ、聞くぜ?

 お前がエンデヴァーだったら、熱とか火傷に対してどんな対策を取る?」

 

「そうだなぁ……僕だったら熱に強い身体を作るのは勿論、超絶強い冷却剤とか冷却装置を使って上手いこと中和するか、逆に籠っていく熱を使って攻撃できる様にするか……いや、待てよ。炎を操れないわけじゃ無いから、炎を機械に詰めて撃ち出すようにするのもアリか? それなら体温を気にせず戦えるようになるかもしれない! いやでも、エンデヴァークラスの熱なら金属の方が耐えられない。機械の方は無しだな、でも何かに炎を詰めて身体の延長を行うというアイデア自体は……ブツブツ」

 

「それ止めろって言ってんだろ、イズク!!」

 

 燈矢くんに語っていたつもりがいつの間にかブツブツ早口詠唱を行っていたらしい。疲れから復活したかっちゃんが殴りかかって来たが、ツッコミなので甘んじて受け入れる。絶妙に痛かった。

 

「ハァー……なんかとんでもないアイデアを聞いた様な気はするが、結局答えは出ないか……やっぱ、身体の半分から氷を出しつつ、逆側で炎を出すなんて芸当を出来る奴じゃねえと無理だわな……」

 

「あン? なんで氷だ。エンデヴァーは炎だろ」

 

 僕達を見ながら何やら思い詰めた様な顔を浮かべ、ガリガリと雑に火傷の跡を掻く燈矢くん。そんな燈矢くんの独り言に、かっちゃんは疑問を投げかける。

 

「いや、仮の話だ。もしもエンデヴァーが『使えば使うほど体温が下がっていく』っつー、『氷』の個性も併せ持っていたら最強になるよなって思ってよ」

 

「バカかおまえ。そんなんでオールマイトや俺に勝てるかよ」

 

「ハッ、お前は俺にすら勝てねえじゃねえか」

 

「俺がお前と同じくらいの歳になったら俺が勝つ!」

 

「言ってろ。まあ、どっちにしろ……氷を出す事で体温を下げて、ヘルフレイムのデメリットをカバーできる個性を持っている奴には勝てねえよ。

 ……俺も、お前もな」

 

「だから、そんな奴は仮の話だろうが! つかそもそも、炎属性が氷を出せるか! ポケ○ンですら聞いた事ねえぞ!」

 

 ……ん? 炎属性が氷を出す……?

 その時、僕の脳裏に一つの妙案が浮かんだ。

 

「お前、ポ○モンやるのかよ。流石はガキだな」

「あァン!? テメェもガキだろうが!」

「バーカ。俺はもうポケモ○は卒業したんだっての」

 

「そうだ!! それだ!!」

「うおっ、どうした急に」

 

 僕の思いつき、それは『家庭教師ヒットマンReborn!』の作中に登場する『死ぬ気の零地点突破(ぜろちてんとっぱ)初代(ファースト)エディション』である。

 アレは確か、死ぬ気の炎の温度を下げまくることで冷気に変換し、溶けない氷を発生させるという技だった筈だ。エンデヴァーには使えなくとも、氷叢の血を引く燈矢くんならば出来るかもしれない。というか、原作でもそんな描写があった様な気がする。

 

 これはいけるだろうという事で、上手いこと転生知識だという事を隠しつつ、燈矢くんに『死ぬ気の零地点突破(ぜろちてんとっぱ)初代(ファースト)エディション』(長いので、以降は『零地点突破』と呼ぼう)について、語っていく。

 

「……は? 逆に温度を下げる事で氷を生み出す?」

「そうだよ! エンデヴァーのヘルフレイムは炎を操る個性。それってつまり、炎の温度だって操れるってことだよね! それを使って炎の温度を零度……それどころか、マイナスにする事が出来れば、氷を発生させる事が出来るかもしれない! 技の名前は『零地点突破』! これなら、熱が籠ったり火傷したりする問題だって解決するんじゃないかな!?」

 

「…… …… ……」

 

 ポカンと呆気に取られた表情を浮かべてフリーズする燈矢くん。僕の言っている事を上手く理解出来たからこそ、困惑しているのだろう。

 そりゃそうだ。普通に炎熱系として生きて来て、『零地点突破』のアイデアなんか思いつくわけも無ければ、実践しようとも思わない。

 強くなろうとしたら普通は炎の温度を上げる方向にスキルツリーを伸ばそうと思う筈であり、温度を下げる事は「温度を上げる方法の逆をやればいい」程度にしか考えないだろう。

 

「アホか。ンな事が出来たらとっくにやってんだろ」

 

「それは、やってみなきゃ分かんないよ?

 ……でも、まあ。確かに、『圧倒的な火力で制圧』が基本方針のエンデヴァーが真逆のことをやるなんて想像もつかないけどさ。『零地点突破』はそれこそ、オールマイトが極限まで脱力するって言ってるようなもんだしね。ヴィランを目の前にして、そんな事をやる理由がない」

 

「あァ……そう考えると、あのオッサンの方針ってオールマイトとそこまで変わらねえな。オールマイトを越えるって吠えてる癖に、一番不利なやり方で勝負してどうすンだ。アホか」

 

「或いは、オールマイトを意識しているからこそ……なのかもね。無意識に正攻法で越えなきゃいけないと思ってるのかもしれない。

 もしかすると、エンデヴァー自身は素直な性格をしているのかもね。ヒーローネームも努力するって意味らしいし」

 

「アホな上に卑屈じゃねえか」

 

「ククク……ヒヒヒ!……ヒャッヒャッヒャ!!……アーッハッハッハッ!!」

 

 そうして、僕達がエンデヴァーについて会話を繰り広げていたところ、突如として燈矢くんが狂った様に笑い始めた。それはそれは大きな声で。腹の底から可笑しくて仕方がないといった様子で。時間が経つごとに憑き物が落ちていく様に、笑い方から"何か"が抜けていくのを感じられた。

 

「アーァ……こんなに笑ったのは久しぶりだ。それに、あのエンデヴァーの事を素直……ククッ……アホで卑屈って……ブフッ!……アッハッハッハッハ!! 似合わねー!!」

 

「そ、そんなに面白かったのか……」

「なンだこいつ」

「かっちゃん、とんでもない発見だ。もしかしたら、僕には笑いの才能があるのかもしれない」

「ンな訳あるか! テメェは頭のおかしな事を言っただけで、コイツも頭がおかしかったってだけの事だろうが!」

 

「まァ……考えてみれば可能性が無いわけじゃねえ。試してみる価値はあるか……」

 

「貴様は所詮、変な奴のケツの上で踊るに過ぎん!」

「踊ってたまるかアホが!」

「ありがとな」

「ん? 何か言った?」

「あァ? 何か言ったか?」

「いや、何でもねえ。それより、もっとヒーローについて語ろうぜ。今日はもう鍛錬する気分じゃなくなっちまったしな。おやつも作ってやるから付き合え」

「やった! ご馳走様です!」

「くれるってんなら貰うぜ」

 

 そう言うと、燈矢くんは薪を集めると焚き火を起こし、持って来ていたサツマイモとアルミホイルを使って焼き芋を作り、僕達に振舞ってくれた。

 焚き火を囲みながら僕達は色んな話をした。かっちゃんと二人でオールマイトの戦闘や救助活動について熱く語ったのを始め、エンデヴァーの解決した事件を深掘りしたり、エンデヴァーがどうやったらオールマイトを越えられるかを考えたりした。

 そうしていると時間はあっという間に過ぎ、空が茜色に染まり始める時間になっていた。焚き火の後片付けを行い、そろそろ帰るかという雰囲気になる。

 

「んじゃ、俺は帰るが……お前らは大丈夫か? たった二人でこんな所に来たってんなら帰り道も分からないだろ。送ってやろうか?」

 

「舐めんな、帰り道くらい把握済みだわコラ」

「ヒーローを目指すなら必須技能だよね」

 

「おお、そうか。……マジで迷子になるなよ?」

「当然! じゃ、さっさと戻ろうか。遅くなったら勝さんは心配するし、光己さんは怒るだろうし」

「……チッ、ババアを怒らせたら面倒だ。ダッシュで帰んぞ、イズク!」

「オッケー! じゃあね、お兄さん!」

「今度はテメェをぶっ飛ばす。首洗って待っとけや!」

「おー、じゃあな。あと、テメェには20年早え」

 

 こうして、僕達は燈矢くんと別れて帰路に着いた。山道で歩いて30分程度の距離を猛ダッシュするので、途中で何度かスタミナが切れたり、互いの妨害をしたりしながらも最後まで駆け抜け、同時にゴールした。

 

 なお、僕とかっちゃんはお母さんに「何処まで行ってたの!」と怒られてしまった。なんでも、探検するとは言っても近くを探検しているものと思っていたらしく、いくら探しても見つからない事に不安を感じて探索に通じたヒーローを呼ぼうか迷っていたらしい。ごめんなさい。

 

 それと、怒られた僕達に対して、後で勝さんがヒーローチップスを買って慰めてくれた。僕もかっちゃんも、出たカードはエンデヴァーだった。何とも言えない気分になった。

 

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