わたしはいつだって熱しやすくて冷めやすい。
努力が嫌いで才能にかまけたふるまいばかりで、それが無理ならすぐ諦める。
別に理想なんてないから、快楽悦楽はいつだって××××とかで。
×××とか××って言われたって全部全部どうでもいい。
だってそれを言うのはいつだって、惚れた♂に見向きもされないか見捨てられた負け犬ばかりで。チワワワンワンキャンキャンちゃん。
別に男を侍らせるのが好きなわけじゃない。
ただ嫉妬の視線を送りつけてくる女のヒトの無様さが滑稽でなんだか面白くって。
自分より身体の大きな男のヒトが必死に好かれようとする姿が馬鹿馬鹿しくて心地良くて。
だからまぁ、自分がクズなんてことくらい知ってるよ。
お前らに言われなくても
……そんなに必死なって群れて、あはは、いじめなんかに一生懸命になっちゃって。いじめじめじめ湿度嫉妬のしつこい恋。
そんな風にへらへら嗤ってたら、またお腹に蹴りが飛んできた。
それでまた、えっちらおっちら集めた男のヒトでわたしを囲んで。
リンカーン。
リンカーン。
リンゴンリンゴン。
壊れた鐘から響くのはやっぱり鈍く汚い音で。
彼らはそんな鐘を必死に、長さ太さ汚さ様々な鐘つき棒で、飽きずズキズキ傷まみれ。
これまたえっちらおっちら、息を荒げて突く突く法師。
なんということでしょう。……ばっかみたい。
どこにも居場所を求めないわたしは。
どこにも行けない生けない逝けないわたしは。
ぶらりぶらぶら宙ぶらりんの中途半端なクズのまま。
クズのような人生を送って、それでもそれなりに満足できるくらいには立派なヒトデナシのロクデナシだった。
"──その筈だった"
マリア。マリア。わたしのマリア。
あの日、この日に出会った貴女。
わたしの人生を変えてしまったどんな闇より底無しの夜の人。
静謐な夜の黒。
苛烈な血の赤。
その鮮烈な赤黒い閃光で、わたしの目の前にあった綺麗じゃないものをすべて焼き尽くしたその時。
その黄金の眼で一瞥されたその瞬間──
──わたしは恋に落ちた。
好きよ、マリア。マリア・メルセデス。
だからわたし、普通になるわ。
貴女と一緒にいるために。
貴女の隣を歩くために。
大好きよ。だからずっと、ずっとずっと……
……誰とも結ばれないでね。
……………………
…………
……
「ああ、よく来たね。そして聞いてくれよ二人とも。
なんと【ダンジョン】解体中だったはずの
「……そんなに処刑されたいのかしら、貴男は」
どうも、リリーです。
お昼休みの途中、大親友のメルセデスちゃんと一緒に学園長に呼び出されたと思ったら、入室して最初に言われた言葉がそれでした。
前触れのない言葉に反応が詰まりますが、察するに目の前の女性は騎士団に関係がある貴族様で、わたしとメルセデスちゃんに依頼があってわざわざこの冒険者学園に来た、ということでしょうか。
「私たちは学生で冒険者見習いだが、同時に上位
この学生の身分で不遜な、なんて言われても、そうですね、としか言い返せない言葉遣いをしているのがわたしの大親友です。
艶やかな長く伸びた黒髪は夜の漆黒。
澄んだ黄金の瞳は、どんな宝石よりも貴金属よりも希少で貴重な美のキセキ。
長身痩躯、だけどお胸だけは大きくて、褐色の肌はこのあたりでは珍しい先住民の色だけど、これもメルセデスちゃんの色と思えばえっちえっち。
夜の化身、闇の精霊。そう自己紹介されたとしても、疑念を抱くどころか納得しかない、そんな美しい……本当に、美しい少女。
それがわたしの大親友メルセデスちゃん。
彼女は別に不遜な性格でも目の前のヒトたちを舐め腐ってるとか、そういうわけではありません。
単に、誰に対してもこんな話し方しかできないだけなのです。
ちなみに
「学園長の貴男より、学生の彼女のほうが立場を理解しているというのは、いささか不可解な……いいえ、不快な話だわ。少しは彼女の爪の垢を煎じて飲んだほうがよいのではなくて?」
「おいおい、そんなこと言うなよ。君と僕の仲じゃないか」
「わたくしたち、まともに話すのは今日が初めてって程度の仲よね……?」
なんということでしょう。まるで話しが進みません。
「それで、依頼の詳細は?」
歳も立場も何もかも上な相手にその切り込み。その態度。
流石すぎるよメルセデスちゃん。
「はぁ……いえ、貴女にではなく、隣の男に対する溜息だから気にしないでちょうだい。
それで依頼なのだけれど、掻い摘まんで説明すると都市開発に邪魔な【ダンジョン】の一つを解体することになったのよ。それでその作業を冒険者ではなく第七騎士団が担当していたのだけれど……彼らとの連絡が途絶えたの。実際に壊滅しているかは不明だけど、ひとまず壊滅状態と仮定しておくわ。
それで、もしそうだとしたら並の冒険者を送っても犠牲者が増えるだけでしょう? だから
「おいおい、彼女たちはまだ学生。まだ子どもだぜ? 大人の尻ぬぐいをさせようだなんて、恥ずかしいとは思わないのかい?」
「なら貴男に命令してもいいのよ、学園長。そもそも貴男、別に彼女たちが心配でそんなこと言ってるわけじゃないわよね」
ははあ。とりあえず依頼内容自体は理解しましたけど……。
「ああ、すまない。言い方が悪かった。詳細とは依頼そのものもそうだが、解体中の【ダンジョン】の位置や深度、内部構造、あとは壊滅した騎士団の戦力について聞きたいんだ」
「あとすみません、騎士団が壊滅したって言ってますけど、そもそも壊滅したのは第七騎士団だけですよね? 他の騎士団に調査を任せるじゃ駄目なんですか?」
すでに任務遂行モードに入ってるメルセデスちゃんにはちょっぴり悪いですが、【ダンジョン】の解体なんてごみ面倒なこと、できればしたくありません。
仮に強制任務になるとしても、突っつけるところは突っついておかないと、報酬もケチられてしまうかもしれませんしね。
そもそも我らが侯爵領が保有する騎士団は第一から第七まで、それぞれ約百名の訓練兵卒業済みの騎士で構成された高級の武装集団。
そして当然、全員が全員、常々懸命に実働しているわけではありません。城の警備や領内の巡回をしているのは一日一団程度で、他の騎士団は有事の際に活躍する予定の休日(サボっているわけではありません)集団となっているはずです。
まさに今のような状況でこそ、その休日集団と化している騎士団が働くべき時だと思ったのですが……。
「それはできないの。彼らはすでに……別件で動かしているから」
「えっ。……賊か【ビースト】です? それとも【ゴブリン】の巣でも見つかりましたか?」
「いえ、事はもっと重大な……聖騎士の資格を持つ貴女たちになら言っていいかもしれないわね。他言は無用よ」
そう言うと、貴族様は重く、深く息を吐きます。
絞り出すように、信じられない、というよりは信じたくない、という感情をありありと滲ませて。
「【エンジェル】の活動が確認されたの」
「……は?」
あまりにもあんまりなことで、つい素が出ました。
確かにそれは、賊だの【ゴブリン】だの【ビースト】だのの比ではありません。
「……なるほど。それでは確かに騎士団を動かすことはできまい。場合によっては冒険者や聖騎士もそこに加える必要があるな」
「そういうこと。学園長……そこの男にも言ったけど、学徒動員もありえるわ。できればそんなことしたくはないのだけれど……まぁ、全員死ねば元も子もないでしょう?」
「そうだな」
「そうですね……」
「そういうことだから、もうこれは不在の夫に代わって一応領主代行になってるわたくしからの命令と思ってもらって構わないわ。
……一応、報酬もちゃんと用意するつもりはあるから、調査任務、お願いしてもいいかしら。 正直、貴女たちに夜逃げなんてされようものなら、もう本当にどうしようもなくなるのよ」
命令と言いつつお願いに変わってしまってるあたりに、余裕の無さを感じてしまいます。
実際、上位
正直、ごみ面倒どころではありません。
それに、メルセデスちゃんと夜逃げですか。駆け落ちみたいで案外それも悪くないかもしれませんが……。
「案ずることはない。私たちは冒険者としては見習い身分だが、同時に『神の祝福』を受けた聖戦士……聖騎士だ。神の力の代行者として【ダンジョン】からも【エンジェル】からも逃げることはないと断言しよう」
……ですよねー。
「ごみ面倒い。です、けど! 大親友のメルセデスちゃんが逃げるなんてありえないので、わたしも逃げません! がんばります!」
「貴女一人なら逃げてたのかしら」
はい!
「はい! けふんけふん。まさかまさか、そんなそんな」
「……まぁ、いいわ。それじゃあお願いするわ。学園長もそれでいいわよね?」
「よくねーって言っても、どうせ聞かないんだろう?」
「なら聞くなよ」
「……本当に、処刑されたいのかしら」
「それで、任務の詳細は?」
「……今から説明するわ」
そう言うと、貴族様……今更ながらたぶん侯爵夫人様は、数枚の紙を広げるとわたしやメルセデスちゃんに色々と説明し始めました。
メルセデスちゃんがいなかったら話し進みませんね、さては。