《第十一話》
赤は血の色。夕暮れの色。怒りの色。
黒は夜の色。真夜中の色。殺意の色。
黄金の眼光が、真白の戦場を駆け抜ける。
どれだけ世界が色褪せようとも。
ここにある色だけは、きっと変わらず至高の色彩を放つ。
"──轟ッ"
常軌を逸するとは陳腐な言い回しだが、事実として彼女は常識を超越する凄絶にして絶倫にして究極の個だった。
放つ一撃は山河を打ち砕く。その余波だけで容易く嵐を生み出す。
しかして振るわれるその剣光が、穂先の煌めきが、断じてその暴力が獣の性はなく、百戦錬磨の戦士の技巧であると証明している。
赤く、黒い雷電を纏うその一撃は武芸の形をした災害に等しい。
なれど放つ者が異常ならば──
──それを受け止める者もまた異常。
「ああっ❤ いっちゃうっ❤」
戦場には不釣り合いな甘い声も含めて。
……………………
…………
……
どうも、リリーです。
わたしの親友がかっこよすぎて死ぬ~~! 転象世界が壊れたらメルセデスちゃん以外みんな死ぬのに、めちゃくちゃ本気で戦ってる~~! ああ~~かわいい~~~~!
ふぅ。あっあっあ~~❤❤
「メルセデスちゃんかっこよすぎ~~❤」
「……す、すさまじいですね」
「でしょ? やっぱわたしの親友が最強なんだよな~~❤❤」
脳漿が感じたスパークスパーク。
ああ、だめですね、一度落ち着きましょう。
転象は常軌を逸した攻撃──空間そのものに対する攻撃など──を受けると破壊される可能性があります。
なので、なにげにあのまま戦い続けられると正直空間を維持できるが微妙なのですが、これも親友から受ける"愛"だと思って、がんばって受け止めます~~❤❤
「彼女に偏見があったわけではありませんが……ここまで強力な強化魔法を、他でもない無属性の方が……普通、可能なのでしょうか?」
「無理。あれはメルセデスちゃんだからできるだけ。強化魔法が一番得意な地属性でも、あのレベルは他にいないんじゃないかな。
知ってると思うけど、根本的に魔法って全部繋がってるんだよね。性質や形が違っても、実は同じ魔法系統扱いされてるってやつ。
放出は体外、強化は体内で魔力を循環させて使うもの。で、魔力は四属性に変化が可能で、基本属性の違いで得意な傾向が変わるってだけで、苦労はするけど絶対無理ってわけじゃない。……まぁ、理論上はだけどね。実際には自分の基本属性すら生涯を掛けて努力し続けてようやく中級とか、ざらにあるし。
で、根っこで繋がってる四属性の魔法体系に対して、無属性は根本的には別物。固有魔法の使い手は四属性の魔法を使えないんだよ。それが常識で、それが絶対だった。
……実際には、別系統ではあるものの、魔力、魔法、魔術という観点では結局親戚みたいなもので、放出、強化の魔法の修得は、すんごい困難なだけで、無理ではなかった。無理ではない(無理)みたいな? まぁ流石に魔力を四属性に変化させることは無理だったみたいだけどね……。
まぁ、要するにメルセデスちゃんに常識は通用しないってこと」
「それは……つまり彼女は、稀代の才人ということですか……?」
「その言い方きらーい。否定はしないけど。……才人の一言で済ませるには異常にも程がある努力をした、そういうことだよ。知ってるでしょ? 強化魔法は初歩にして最奥。才能だけじゃ実戦では使いこなせない、鍛錬が必須の魔法だよ。……まぁ、だからわたしは強化魔法だけは得意じゃないんだけどね、ごみめんどーだし」
「……すみません。でも、本当に凄い人なんですね、メルセデスさんは……不可能を……可能に変えた……そういう人なんですね……」
「そうだよ、メルセデスちゃんはすごい。すごくてすごい。何よりすごいのは、鍛え抜かれた肉体よりも、強力無比な固有魔法よりも、悪趣味な加護なんかよりも、心が超人的なんだよ。『英雄』
媚び媚びの話し方がもうできません。
興奮ゲージがマックスです、これだからメルセデスちゃんとパーティーを組んでの冒険は止められません。
あっ。
「あぶないあぶない、エスメラのこと忘れてた」
「……彼女のことは援護しなくて大丈夫ですか?」
「ん-……まぁ今はまだいいかな。思ったより大丈夫そう。
まぁそもそも、わたしたちを比べるとエスメラは弱っちぃけど、普通の聖騎士の中では強い方だし、強化魔法に関しては領内でもメルセデスちゃんに次ぐだけの力を持ってるから。早々死なないよ」
見た感じ、【デーモン】と
『剣の加護』は装備する剣の潜在能力を底上げにする。普通では考えられないほどに。それは耐久度に関しても同じで、エスメラが持つ剣は滅多に壊れない。『神の加護』の理屈は、人間には理解できない範疇にも及ぶから。
『攻撃倍増』は爆発力の上昇。
『防御増強』は硬さ、固さ、重さの上昇。
上乗せすればするほど術者を強力な個に変化させるこの便利な魔法は、その反面、失敗──『暴走』した場合、普通ならば即死するほどの現象が発生する。
『攻撃倍増』の『暴走』は自爆。
『防御増強』の『暴走』は石化。
こうなってしまえば、もう復活する方法はない。
『自傷の加護』を持つわたしですら、石化に関しては無理だしね。
で、地属性は『防御増強』が他の属性よりも得意で、そんな地属性のエスメラは、他の地属性のヒトたちよりも遙かに上級の『防御増強』……延いては
強化魔法に、実戦で役に立たない魔法は皆無。
『攻撃倍増』と『防御増強』以外も、それは当然同じ。
『加速』は移動、動作、思考の速度を上昇させる。
『属性変化』は
つまり。
『防御増強』で頑強になり。
『攻撃倍増』で無理矢理肉体を動かし。
『加速』で戦況を見極め、戦場を駆け抜ける。
『属性変化』で、必要に応じて
これが冒険者の理想の近接戦闘ってやつです。
……ふぅ。エスメラのことを考えていたら、落ち着いてきました。これが賢者モードってやつですね。
「加護抜きで考えても、エスメラさんは騎士団の中でも上位に入りますよ。本当に、強い……【デーモン】を相手に、あそこまで戦えるなんて……」
「そうですねぇ。まぁ、そろそろメルセデスちゃんが【デーモン】を討伐するところですし……強固ならぬ強個で定評のある竜型なので微妙に時間がかかりましたけど……エスメラは放っておいても──」
──違和感。
「うん?」
「どうしました? リリーさん」
ふと感じた違和感の正体を探るべく、周囲の状況を再確認。
メルセデスちゃんとエスメラに問題なし。二体の【デーモン】も見た以上の情報なし。放っておいても、この戦闘は簡単に終わる。
そのはず。
違和感。
違和感。
違和感。
転象世界はわたしの支配下にあるものの、その内部情報すべてを把握できるわけじゃない。
集中して、この違和感を正しく認識する必要がある。
視界に入れていたダンジョンシードにも、異変はないはず──
「──やばい」
表面上ではダンジョンシードは相変わらず、気持ち悪い見た目をしたまま。他の【ダンジョン】のダンジョンシードを比較しても、あそこまで禍々しい気配を漂わせるものはなかったと思う。
だが、それだけだった。それだけのはずだった、のに……。
「転象世界がダンジョンシードに乗っ取られた!」
「えっ! それは、どういう」
「そんなことある!? やばいやばいやばい!!」
「──メルセデスちゃん!! ごめん!! ダンジョンシード壊すね!!」
「わかった。お前に任せる、リリー」
即答ありがとう! すき!
「ごみ種風情が、メルセデスちゃんの道を邪魔しやがってッ!」
ぶっ壊す。