リリローグ。   作:すず夜

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第十二話

 どうも、リリーです。

 これからダンジョンシードを壊します。

 

 そもそもダンジョンシードとは?

 【ダンジョン】の核であり種。植物は大地の栄養を啜り成長するように、ダンジョンシードは大地の魔力を啜り、やがて自発的に魔力を生成し、【ダンジョン】を創造する"ナニカ"です。

 植物と違って増殖も分裂もせず、そもそもどうやってダンジョンシードが発生しているのか。一説によればそもそも魔力溜まりがダンジョンシードに変異している、なんて話もありますが……なんともなんとも。要するにその正体は誰にもわからないってことです。

 

 で。そのダンジョンシードなのですが、実は……というよりお察しでしょうが、壊すのがめちゃくちゃ大変です。

 実際、元々今回は深度Ⅱを想定しながらも、予定されていた解体期間は一ヶ月を最低限、場合によって延長するといったものでした。

 

 深度によって解体にかかる期間が変わります。

 理由は二つ。

①深度によって攻略の難易度が変わる。

②深度によってダンジョンシードの破壊耐性が変わる。

 

 深度Ⅱですら一ヶ月以上かかるはずでした。

 深度Ⅳともなれば、そもそもダンジョンシードの破壊だけでも最速で十年、人材に恵まれない、異常事態(イレギュラー)の発生などの条件次第で、半世紀かけて可能かどうか。

 

 深度Ⅳのダンジョンシードは大きさこそ全長一〇〇メートル程度ですが、その表層の硬度は鋼に勝り、その重量と内包するエネルギーは火山七〇個分以上とされています。

 どれだけ解体が面倒なのか、よくわかりますね。

 

 ……ごみめんどーです。ごみだるい。

 

 

「でも赦さない。絶対に」

 

 

 激情が肉体の制御を置き去る。

 脳漿が沸騰したように、感情が飛び散る。

 

 そう。

 客観的に見てみれば。

 

 ダンジョンシードの奇行で転象世界が乗っ取られた。

 これからこの真白の世界は、ダンジョンシードによって危険な世界に書き換えられる。

 それこそ、元々の水底の世界に戻るだけでも、わたしたちは簡単に死ぬ可能性がある。

 わたし、エスメラ。マルティンさん、気絶してるヒト。

 この四人は確実に死ぬでしょう。メルセデスちゃんは生き残るかもですが、それも確定ではありません。

 

"よくもみんなを傷つけたな。よくも散々やってくれたな"

"誰も殺させない。みんなのことはわたしが守る"

 

 ──なんて、そんな理由じゃありません。

 

 別にわたしとメルセデスちゃん以外は死んでいいです。本気でそう思いますし、なんなら騎士団のヒトたちは特に役に立たないので今すぐ死んでほしいです。

 そんな理由は、わたしは微塵も怒りを抱きません。

 

 ゆえに、よくも。『よくも』と頭につけるのなら。

 

 

"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()"

 

 

 それだけのはず。

 それだけのはず。

 

 

 ──それだけのことが、こんなにも赦せない。

 

 

 『自傷の加護』は文字通り自傷に関してはヒトの理屈を超越することができる。

 

 過剰魔力生成──自傷。

 攻撃倍増、暴走──自傷。

 加速、暴走──自傷。

 属性変化、暴走──自傷。

 

 過剰に生成された魔力が肉体を循環し、肉体が爆ぜる。

 爆発力の蓄積が限界容量を超え、肉体が爆ぜる。

 思考速度、動作の過剰な加速で、神経が焼き切れる。

 属性変化によって身体強化(ライズ)に付与された属性が、使用者自身を傷つける。炎で焼かれ、風で爆ぜ、水で腫れ、地で砕け、四つ重ねて肉体が爆ぜる。

 

 痛い。痛い。痛い。

 

 死にたい。殺して。消えたい。消えたい。

 

 汚れまみれ。穢れまみれ。

 恥まみれ。(ごみ)まみれ。

 気が悪い。

 

 色が悪い。

 

 激痛という激痛が全身を巡る。

 数十、数百と爆ぜた肉体から血が肉が骨が脳漿が飛び散る。

 

 だけど、わたしはここにある。

 

 『自傷の加護』は必ずわたしを生かす。

 

 例えわたしが死を望んでも。

 どれだけ試行錯誤を重ねたところで、わたしはわたしを殺せない。

 わたしは神の理屈で生かされる。

 

 こんなにもこんなにも、真摯にわたしは祈っているのに。

 

 だから。

 

 

 (あなた)がわたしを生かすから──

 

 ──わたしは(あなた)を憎みます。

 

 

 詠唱開始。

 

【まず感じたのは『堕落』】

【渇望の(かたち)は『希望』】

 

【血は沸騰し、情は凍てつく】

【涙は止まず、病むのは気ばかり】

 

【ああ、どうして死なせてくれないの】

最初(はじめ)から欠落を知っていたのに】

【どうして苦しみから逃げてはいけないの】

 

【綺麗事で救えないものから】

【目を逸らすだけのくせに】

 

【だから私は願うのです】

 

【──わたしは、死んでしまいたい】

 

 

「『自傷清浄』、柘榴の腐乱、唇の血、祟り、夜の蝶」

 

 視界に入るのはダンジョンシードのみ。

 悪癖と自覚していても改善の余地がないこの破壊衝動で。

 五年十年は壊せないとかいう破壊耐性をぶっ壊す。

 

 今更わたしを脅威と感じたのか、転象世界を乗っ取りつつあったダンジョンシードが、急速に自身の周囲に無数のモンスターを創造し始めました。

 【デーモン】が【ビースト】が【ゴブリン】が【ダンジョン】そのものが、わたしを殺すために襲い掛かってきました。

 

 ……ダンジョンシードがモンスターを生み出す? この局面で? 本当に、この【ダンジョン】は前例のないことばかりやりやがりますね、ごみごみごみ。

 ここにいるのがわたしじゃなければ、わたしとメルセデスちゃんでなければ、この【ダンジョン】は未曾有の災厄を引き起こした【ダンジョン】として語り継がれたことでしょうね。

 いえ、騎士団がほぼ全滅したのでそれなりの被害がすでに出ていました。教科書には載りそうですね。

 

 しかしそれらを無視して、わたしは詠唱を続けます。

 

「淫婦の求愛、枯れ女、黒い月」

 

 魔力の奔流が死と流血を象る。

 魔法の名をしただけの災害──終焉を、此処に象る。

 

範囲指定(アジェスト)──」

 

 災厄どもが目前にまで迫ります。

 でも残念! 詠唱はとっくに終わっているのでした。

 

 もう死んでいいよ。

 

「──《毒婦、孕むは夜の百合(リリム・リリウム・ハーロット)》」

 

 それだけ歌って。

 それだけの滅びの歌を歌って。

 

 ようやくわたしたちの、長いようで短かった【ダンジョン】の解体を終わらせるのでした。

 

 おしまい!

 おしまい!

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