リリローグ。   作:すず夜

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第十三話

 どうも、リリーです。

 現在()()()正座中です。

 

 ……はい、またですね。感情のコントロールができずに、ダンジョンシードのついでに全員を殺すところでした。

 なので、今回は大親友メルセデスちゃんに言われる前に大人しく正座をしています。

 服は何度も肉体が爆ぜた時点でボロボロになっていましたが、ついに魔法の余波で完全に消し飛びました。

 

 現在地は【ダンジョン】の外です。というより、ダンジョンシードを破壊した時点で【ダンジョン】は消滅したので、【ダンジョン】跡地にいる、と言ったほうが正しいかもしれません。

 空を見上げれば、綺麗な三日月が浮かんでいます。今はもう夜のようですね。あるいは()()夜なんですね。

 

 ちなみに今回もメルセデスちゃんがわたしを含めた全員を助けました。『自傷の加護』の影響でわたしは自分の魔法の余波では死にませんが、通常とは別の方法……かなり強引なやり方でダンジョンシードを破壊したので、最悪そのまま生き埋めになっていた可能性がありましたので。

 流石にそうなってしまえば、わたしの加護でもどうしようもないので、メルセデスちゃんの助けがなかったら普通に死んでいたかもしれませんね。

 

 何はともあれ。わたしが暴走してメルセデスちゃんや他のヒトを危険にさらしたことに変わりはないので、こうしてメルセデスちゃんのお説教を受けるために待機している、そういうことです。

 まぁ、わたしはメルセデスちゃん相手だとほんの少しばかり被虐趣向に傾きますし、その間メルセデスちゃんを独占できると思えば、お説教もそこまで悪いものでもない気がしますので、大丈夫です。

 そんなことを考えていたら、メルセデスちゃんが荷物を片手に、こちらに近づいてきました。

 構って構って。

 

「何故正座をしているんだ、リリー」

「えっ。だってわたし、また感情任せになっちゃったし……それでみんなを危険にさらしたから……」

「私がお前に任せると言ったんだ。お前はそれに応えた。それだけだろう。それにダンジョンシードの破壊をあの場面で行うともなれば、周囲への影響がどれほどのものか、その後の【ダンジョン】がどうなるのか、それぐらいは理解していたつもりだ」

「でも……」

「リリー、お前はよくやってくれた。お前の判断が皆の命を救った。誇っていい。だから早く服を着ろ」

 

 すき。

 

 うぅ、わたしの親友が優しいです。

 のっそのっそ、わたしは大親友メルセデスちゃんから渡された荷物から予備の服を取り出し、着替え始めました。

 

「……ひとまず、調査はロクにできませんでしたが、【ダンジョン】の解体自体はこれで完了でいいのでしょうか」

「そうだな。他に手もなかった。今回はありのまま確認したことを報告しよう」

「気絶しているマルティンさんともう一人の方は……」

「一度、学園に連れて帰ろう。エスメラ、任せていいか。政治的に、先住民(わたし)騎士団(かれら)と関わるのを見られるのは避けたほうが無難だろうし、リリーも肉体はともかく、精神的な疲労が目に見える」

「……。…………わかりました」

「代わりに荷物は私が運ぼう」

「お願いします」

 

 着替えている間に大親友メルセデスちゃんがエスメラと仲良さそうにしていた件について。

 いらぁ。

 

「メ~ル~セ~デ~ス~ちゃ~ん!!」

 

 媚び媚び声で、メルセデスちゃんの腰のあたりに抱き着きました。肌と腰まで伸びた髪の質感、匂い(残念ながらほぼ無臭)にどきどきして、一瞬舐めようと迷いました。

 

「どうした」

「いやぁ……わたしも今回がんばったし、褒めて褒めて~~」

「ああ、よくやった。お前はえらい。すごいと思う」

 

 急に求めると語彙力死んじゃうのかわいい~~♡♡

 

 本心だけで話すせいで、何も考えたり感じたりしてないと無難な言葉どころか小さい子どもみたいな言葉しか出てこないの、メルセデスちゃんの性格がいかに素直で素敵なのかっていうのがよく理解(わか)っていいと思います!

 

「……まぁ、実際お前の魔法は凄絶の一言に限る。攻撃系の魔法使いとして領内随一と呼ばれるのも頷ける。感情任せなのは玉に瑕だが、それでもお前は自分の(さが)と衝動に折り合いをつけようとしている。それが上手くいかないことも多々あるのは知っているが……そうだな、()()()()()()()()()()()()

「……あ、う………」

 

 ……嬉しすぎて涙が出そう。

 

「えへへ……」

 

 脳汁幸せじわじわ感がすごいです。

 瞳の奥、胸の奥が、多幸感の過剰摂取とは別の、えっちな意味とは別の、わたしなんかでは言葉にできない『幸福』を感じました。

 

「さて。帰るか」

 

 余韻に浸らせてくれないの、本当にメルセデスちゃんって感じがしてすき。……まぁ、とりあえず。

 

「うん、帰ろう!」「はい、帰りましょう」

 

 ……。…………。

 

「エスメラァ!!」

「……はぁぁぁ、とりあえずマルティンさんともう一人に関しては任せてください」

「そうだな、頼む」

 

 そんなこんなで、わたしたちは一度、学園に戻ることにしました。

 

 

 ……それにしても、夜ですか。

 

 

 わたしの体内時計では一日分の時間が経ったかどうかって感じだと思っていましたが、この夜の色濃さは間違いなく真夜中ですね。夜明けの前後くらいかなと思っていましたが……。

 流石に深度Ⅳの魔力に浸っていたせいで、感覚がちょっと麻痺したのかな。

 

「妙だな」

「うん? メルセデスちゃんも?」

「ああ、最初は深度Ⅳの魔力に浸っていたゆえの感覚の麻痺だと思っていたのだが……」

 

 同じこと考えてた。両思いじゃん。

 

「季節が変わっているな」

「そうだね、時間が……え?」

「今はまだ……いや、【ダンジョン】に入る前はまだ春だったはず。だがこの気温と空気の質感は、夏のそれだ」

「……言われてみれば、なんか暑いね。まだ肌寒い春だったはずなのに」

 

 どういうこと? いやもしかして……

 

「……地上と【ダンジョン】で、時間の流れが変わってた、とか?」

「……急いで戻るぞ、二人共」

 

 どうやらあの【ダンジョン】は、中に居ても外に出ても、どこまでいっても、ごみごみな【ダンジョン】だったようです。

 

 急いで戻り、色々と調べた結果、どうやらわたしたちが【ダンジョン】に向かったあの日から、三ヶ月が過ぎていたようです。

 

 月単位でよかったです。もし何年も経っていた、とかだったらどうしようかと思っていました。

 

 事後処理も色々ありましたが、ひとまず今回の件はこれでようやくおしまいです。

 その後のわたしたちは、三ヶ月分の遅れを取り戻すべく学業に励むことになるのでした。

 

 

"──この時、わたしたちは知りませんでした"

"──あるいは、メルセデスちゃんだけは何かしら、直感しているものがあったのかもしれません"

 

 

 今回の件が、あくまで後に『堕落』と呼ばれる、厄災のはじまりでしかなかったと。

 わたしのメルセデスちゃんという領内随一の特記戦力が三ヶ月もの間侯爵領から消えていた、その事実の重さを。

 

 今のわたしたちは、まだ知らなかったのです。

 

 

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 

 

 例えるならば穴。例えるならば虚。

 しかしてその実態は夜の中の闇。本質的に同種、あるいはあまりに近縁であるがゆえに区別がつかぬ。

 

 そんな暗黒──ナラクの底に、一人の女がいた。

 

 堂々として人外の気配をまとうそれは、世に魔王なる存在がいるとすれば、間違いなくその一角を担うであろう魔性。

 常人であればただの一瞥で正気を失いかねないほどの美貌。

 なまじ英傑と呼ばれる一騎当千、万夫不当の者どもならば、あまりに隔絶したその本質と概念に勘づき、速やかな自殺を試みるであろうその女は、その暗黒において神に等しい存在だった。

 

「ふふ、ふふふふふ、あははははっ、流石は流石! あの(ひと)の妹というだけはある! まさか百年は隔離するはずが、たったの三ヶ月程度で出てくるなんて!」

 

 それは純粋な驚愕であったし、無垢な歓喜であったし、同時にその女が()()()()()なる人物をいかに軽んじていたのか、それがよく理解できる物言いだった。

 事実としてその女は神の視点をもって人間たる()()()()()なる人物を見ていたし、女の立場からすればそれは仕方がないことだった。

 

「【地獄道(ダンジョン)】の中で経過した時間は一日程度だったはず。【餓鬼道(ゴブリン)】じゃ時間稼ぎにもならないからって【畜生道(ビースト)】や【修羅道(デーモン)】を増やしたはずなのに……全然駄目ね。どうしましょうか」

 

 言葉ばかりは苦慮しているようだが、その実、表面上は幼童と同等の無垢な笑みを浮かべている。

 鈴の音のような声は初恋すら知らぬ乙女のようであったが、同時にその声には老若男女を聴くだけで劣情を与えかねない艶があった。

 

「そうね、あの子たちがいいかしら。別件をお願いしていたけど……仕方ない」

 

 まだ知らぬ。

 まだ知らぬ。

 

 その視線を吸い集める白銀の髪を。

 その劣情を誘い集める翡翠の瞳を。

 

 その女が何者なのかを。

 

 学び舎にて学業に励む少女たちは、まだ知らぬのであった。

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