第十四話
どうも、リリーです。
任務を終え、学園に帰ってきたわたしと大親友メルセデスちゃん、ついでのエスメラの三人は、成績にこそ影響は出ませんでした(侯爵夫人直々の強制任務だったので)が、だからといって授業内容がわたしたちを考慮して逆巻く、なんてことはありません。
まぁ、わたしは天才なので教科書ぺらぺらめくるだけですぐに追いつきました。大親友メルセデスちゃんも普通に頭が良い(逆にメルセデスちゃんは何ができないんだ?)なので、数回勉強会をしただけで授業に追いつきました(もっとしたかった!)。
エスメラ? ……エスメラは別にそこまで賢いってわけじゃないので、お馬鹿さんではないですが、四苦八苦しながら勉強を頑張っているみたいですね。がんばれ♡がんばれ♡
さて、夏です。
ここ領都は常春の街とも呼ばれています。年中の平均気温にあまり変化がなく、冬の気温でも肌寒い程度なものですが、では逆に夏の気温は? とっても暑いのでは? そんな想像するヒトたちもいるかもしれませんが、実際には夏になっても気温はそこまであがりません。流石に冬と比べると暑いですけどね。
では、領都の夏は過ごしやすいのか? そう問われた場合の答えはイエスなのか。……答えはノーです。
「うぅ……ごみあめ……あたまいたい……」
「相変わらずだな。保健室に行くか?」
「んー……どうしようかな……薬は飲んだんだけどね……」
雨雨雨。どうせなら飴をくれ。とびっきり甘いやつ。
……はい、実はわたし、低気圧で体調が死んでしまう、そんなタイプなのです。頭痛とはお友達、腹痛と関節痛ともお友達。お医者さんと薬剤師さんには頭が上がらない、そんなリリーなのです。
『自傷の加護』以外のとある理由で普段は体調不良とは無縁なのですが、雨にだけはダメダメなのです。雨にだけは弱く、普段は絶対に使わないお薬を使わなければいけないのです、しくしく。
いつもなら意地でも大親友メルセデスちゃんから離れないわたしですが、ちょっと今日の気候はいつもよりわたしとの相性が悪いようですね、死んでしまいます……。
「付き添おうか?」
「……いや、流石にメルセデスちゃんの邪魔はしたくないし、一応一人で歩けはするから。ちょっと行ってこようかな」
「そうか。先生にはわたしのほうから言っておこう」
「うん、ありがと、すき」
今はお昼休みの途中。午前中はメルセデスちゃんと一緒にいたくてがんばって授業を受けていたわたしですが、午後の授業を受けるのは諦めて、のっそのっそ、保健室に行くことにしました。
その途中、廊下でのことです。
「あれ、りりたんやん。はろー」
……ごみめんどーな声が聞こえてきました。
「りりたん言うな。馴れ馴れしい。キモい。死ね」
「ぶふっ、あははっ、ほんま相も変わらず、りりたんはかわええね」
「死ね」
死ね。……この馴れ馴れしい女の名前はグラナ。セミロングの赤髪に真紅の瞳。とげとげした雰囲気の美人系美少女な面に反して、誰に対しても馴れ馴れしい、うざったるいやつです。
ちなみに世の中のドーテーさんの敵です。ドーテーさんとは女の子と距離を詰める方法を知らず、理想ばかり具沢山になった男性のことを指すのですが、この女はそんなドーテーさんにも仲良さげに話しかけ、惚れさせ、そしてフるを繰り返す、そんな女なのです。
性悪なやつなのです。男性経験ないくせに。
「なんか失礼なこと考えとらへん?
「うっぜー……」
「りりたんがわかりやすすぎるだけやね。ほんまにりりたんとメラたんは、表情に出やすくて、かわええね」
「よりによってエスメラと一緒にすんなよ、死ね」
「死ね死ね言うたらあかんって。傷ついてまうやろ?」
死ね。
「ふふっ、あははっ、そんな怒らんといて、仲良くしよや」
「なぁーにが、仲良くしよや、なん。わたし、グラナと仲良くする気皆無だし、毎回言ってるでしょ。話しかけんなって」
「嫌や。
「うっざ。てか、一人称が自分の名前って……あざとくてキモい」
「りりたんもメルセデスちゃんの前やと使うやろ」
保健室に行かせろ。
「ああ、もしかして保健室に行こうとしとったん? そら悪いことしたわぁ」
「なら行かせろや」
話し方うつっちゃったじゃん。
「ふふふ、ごめんごめんって。ほんなら、いってしゃっしゃい」
「……噛んだな」
「気のせいや」
「噛んだな」
「噛んどらんって」
「そっちも授業にいってしゃっしゃい」
「はよ保健室行けや」
そんなこんなで、無駄な時間を過ごした後に、ようやくわたしは保健室に向かうの──
「ああ、そや。りりたん。もうすぐで『学寮祭』やね。またりりたんと戦えるのを楽しみにしとるわ」
「──はぁぁぁ……ふぅ。保健室行っていい?」
「ふふ、ごめんごめんって。ああ、そういえば、最後に一つだけ。メルセデスちゃんに言っといてくれる?
"──號ッ"
雷鳴の如く、空気の壁を貫いて進む真紅にして辛苦の血の刃が、わたしの肉体から飛び出て目の前の
音の速さを超える程度の、しかし並み大抵の自称天才程度ならば躱すことも逸らすことも困難な一撃。
しかしこの
つまり。
「あははははっ!! ほんまかわええね、りりたん!!」
音速より速い程度の不意打ちを。
この
刃と拳が交わったその瞬間、その衝撃が周囲一帯に拡散され、廊下中の窓硝子が砕け散った。
悲鳴。怒声。罵倒。声声声が学園中に響く。
「死にたいならそう言えってば。遠回しに言われると
「りりたんじゃ
「あー、もういい。何もしゃべらなくていい、黙って死ね」
「嫌や♡ もっと話そ♡」
巷で噂の黄金世代、対の天才、『最強』の
にたにた、にやにや、へらへら、けらけら。そんな笑みを浮かべるこいつの顔が、声が、すべてがわたしを苛立たせる。
確実に赦さない。
……と、そう脊髄レベルでの殺意を抱いたその瞬間でした。
「何をしているんだ、お前たちは」
「落ち着いてください、お二人共」
わたしをメルセデスちゃんが、グラナをエスメラが止めました。
「グラナ先輩、動かないでください。動けば斬ります」
「……あーあ、残念。でもメラたんがそう言うならしゃーないわ」
「お前もだ、リリー。それ以上は動くな」
「……むー……わかった」
ふぅ。ぷちんぷちん。……はぁぁぁ……ふぅ。
ほんの少しだけ落ち着きました。
ほんの少しだけ。もう一度、同じようなことを、万が一メルセデスちゃんに直接言った場合、メルセデスちゃんの言葉でもわたしを止めることができないかもしれません。
……が、そのあたりは微妙に空気を読めるエスメラが、未然に防いでいるようですね。
「グラナ先輩。余計なことは言わずに、授業に戻ってください」
「あいあい。メラたんはかわええうえに賢いわ。ほんなら、先に戻らせてもらうな、ばいばい。……ああ、メルセ「グラナ先輩?」……ふふっ、怖い怖い……」
飄々と笑いながら、
殺し損ねた……それだけが悔いでしょうか。
「ふぅ。……ありがと、メルセデスちゃん」
「グラナを止めたのはエスメラだ。礼はエスメラに言ってくれ」
「メルセデスちゃんも、わたしを止めてくれたでしょ? 流石にあのままグラナと殺し合いになったら、最悪退学になってたからねぇ、お互いに。それにそもそも、エスメラだけだったら、わたしがグラナを殺してたよ」
「そうか。……それで、保健室には行けたのか?」
「まだ-。……ごめん、やっぱり付き添いお願いしてもいい? ちょっと今は一人になりたくない。何か、やらかしそう」
「そうか。わかった。なら同級生に伝言を伝えてから行こう」
「うん、ありがと」
「エスメラ、よく駆けつけてくれた」
「まぁ、いきなり昼食中にあんな騒音が鳴ったら、流石に聖騎士の端くれとして放っておけませんよ。最初はリリー先輩が何かやらかしたのかと思いましたが……」
「喧嘩売ってるのかエスメラー」
「……はぁぁぁ、まぁ、よかったです。私はこのままここで、先生方に次条を説明するために残りますね。リリー先輩、グラナ先輩がまた
「そうだよ」
「ならそれを説明しておきます」
ややもやもやするけど、エスメラがいるとこういう時に話しが早くて助ける。わたしとグラナの関係を正しく理解していて、そのうえで
こういう時だけは、エスメラの存在はホントに助かる。
「悪いな、エスメラ」
「お気になさらず」
「んじゃよろしく、エスメラ」
「……はぁぁぁ、わかりました」
「なんでわたしの時はそんな溜息をつくのー?」
「早く保健室に行ってください」
そんなこんなで、わたしはようやく保健室に向かえるのでした。
頭痛い。
……学寮祭では覚えてろよ、グラナ。