どうも、リリーです。
昨日は結局、大親友メルセデスちゃんにゴネまくって、メルセデスちゃんのお部屋に泊まり、一緒のお布団で寝ました。
どきどきして寝られなかった?
……すごく、寝てしまいました。
普段は不眠症気味なのに、昨夜に限ってとてもすやすや、すぴーすぴーしてしまい、このリリー、一生の不覚です。
さて、大親友メルセデスちゃんと後輩たちと一緒に、深度Ⅱの【ダンジョン】に来たわけですが、さっそく不服な大問題です大親友。
「メルセデスちゃんと一緒にいたい~~!!」
問題を起こしているのは、わたしです。
「リリー、昨夜、私がお前にアキを頼むと言ったとき、その時は受け入れていただろう?」
「あー……うん……あい……行ってきます……ほら、行くぞアキ」
「へ……?? ……は、はいっ」
一緒に寝てくれるって言ったから!
見栄を張っちゃったばっかりに!
わたしがわたしの首を絞める! ……それはいつもか。
そんなこんなで、わたしはアキを連れて、【ダンジョン】の内部にある【ゴブリン】の巣に向かいました。
わたし、【ゴブリン】嫌いなんですよね。
なのでまず、その理由をざっくり説明します。
【ゴブリン】とは!
①夜行性の小柄な人型モンスター。夜に起き、昼に寝る。
他のモンスターと異なり、群れで行動することが多い。
※以前の【ダンジョン】では【ビースト】の群れが幾つか発見されたが、本来なら【ビースト】はあまり群れない。
②容貌は醜悪そのもの。背筋が凍るほど醜い顔立ち、猫背でも際立つ膨らんだ腹部、その一見肥満に見える胴体に対して細い黒ずんだボロボロの手足。
その手は一応、武器を握れる形をしている。【ゴブリン】は武器を作ることをしないが、冒険者から奪った武器を装備して使用することがある。
③常に悪臭が漂っている。その悪臭は、通り過ぎただけでもその場にしばらく臭いが残るほど。
全身が不潔であり、【ゴブリン】に傷つけられた場合、迅速に対処しないと破傷風になる。
④【ビースト】と同じく、強そうな相手から逃げ、弱そうな相手のみ襲う。それに付け加え、【ゴブリン】は群れの数が、襲う相手の数に勝っている場合のみ、襲い掛かってくる。
つまり積極的に【ゴブリン】を狩る場合、【ゴブリン】の群れよりも少人数にならなければ、連中は戦うこともなく逃げる。
⑤モンスターには食欲と淫欲があるが、基本的に【ゴブリン】が冒険者を襲う場合、その理由は食欲で襲っている。冒険者が【ゴブリン】に敗北した場合、その多くは生きたまま喰われて死ぬ。
稀に知性が高い【ゴブリン】が現れる。その場合のみ、【ゴブリン】は淫欲で冒険者を襲い、飼い慣らす。
⑥【ゴブリン】は常に飢え、渇き、そして悪意に満ちている。
ゆえに連中に捕まった冒険者は、全年齢の小説では語れないほどに残酷で残虐で悲惨で惨たらしい方法で、痛めつけられ、そして喰われる(あるいは飼われる)。
以上!
ね、ごみでしょ?
「アキちゃんにはぁ、これからそんなごみモンスターと戦ってもらいまぁす」
「そ、そんな説明を聞いた後でですか?? あ、あの……やっぱりボク帰って「だめでーす、というかここまで来てさ、一人で帰れるの?」……ふぁい……がんばりましゅ……」
「大丈夫だよ、仮にアキが【ゴブリン】に負けたとしても、その後にちゃんと助けてあげるから。食べられたり、飼われたりするのを見過ごしちゃったら、わたしがメルセデスちゃんに怒られるからね」
「うぅ……が、がんばります……」
「でもね、覚えておいて。すぐには助けないから。肉を齧られたり、押さえつけられて酷いことされたりしたくらいじゃ、わたし助けないからね」
「えっ」
「だってさ、今度もしアキが何かしらの理由で単独任務とか受ける羽目になった場合、その時は誰も助けてくれないんだよ?
だから今回わたしは、アキの命だけは絶対に助けてあげるけど、それ以外はどうなっても助けないから。意味
「……ぐすん……あい……がんばりましゅ……」
まぁ、大丈夫です。
乙女的に酷いことをされるより先に、大抵は食べられて終わりますし、今回は最後にはちゃんと助けますので。
そんなこんなで、軽い説明もそえつつ。
数十分後。
「喰らえサケッ!!
百に近い数の水の釘が、次々に【ゴブリン】どもを蹂躙します。
そうだね、【ゴブリン】との接近戦はリスクが高いから、基本的に遠距離技で倒すのがベスト。
弓矢、投擲、槍投げ、放出魔法。
勿論、矢にせよ投擲にせよ限りはありますし、放出魔法は魔力消費がそこそこあるので、本来ならそればかりでなく、接近戦で倒す必要も時にはあるのですが……。
ふむ。つっこむべきか、否か。
ここ数日の修行と今日の実戦を観察していると、どうにもチグハグな印象が拭えません。
おそらくアキの素の身体能力は、低級の強化魔法にも勝るほどの……獣人に匹敵するほどのものです。
そして基本属性が、強化魔法に関しては地属性に次ぐ水属性であるにも関わらず、強化魔法が下手。どちらかというと放出魔法のほうが得意で、水属性の攻撃系の放出魔法に限定しても、天賦の才覚があると断言できます。
ロカには悪いですが、ロカよりもそれなりに強いです。
それだけの才能があるのなら、確かに慢心してもおかしくはないでしょう。痛みや恐怖への耐性の無さも、敗北の経験が少ないからと思えば、そう不自然ではないとも思えます。
「でもなー……なんか変」
「サーケサケサケ!! なんか言ったかサケ??」
「うっぜ。しばくぞ」
「サーケサケサケ!! やれるもんならやってみろサケ!!!!」
……。
「
そろそろ蹴る殴るではなく、ちゃんとした格の差をわからせてあげる必要がありますね。
なので、サケ女……アキが得意で多用する魔法をそのまま、わたし風にアレンジして見せてあげることにしました。
大きさはアキと同じ
数は
展開場所は、わたしとアキの立ち位置の中央から約半径二〇メートル程度。
後は、そうですね……。
「ちなみにこれ、わたしに当たっても(自傷になるから)わたしはダメージ受けないんだけど、やってほしい?」
「……ご……ごめんなしゃい……ゆるっ、ゆるしてくだしゃい……」
「
「ひんっ……おねがい……おねがいしましゅ……」
そう言って、アキはそのまま土下座を始めました。
「調子に乗る時はさ、命をかけないと。
「ひゃい……」
「あのね、アキ。わたしはね、別にお前が死んでもいいの。メルセデスちゃんがそういうの好きじゃないから、しないだけ。
「しゅ……しゅみましぇん……」
泣いちゃった。
「でも駄目」
そのままわたしは、土下座を続けるアキの頭部を蹴り上げます。
ひっくり返ったアキの顔をそのまま踏みつけ、冷め切った声で、優しさは添えず、どこまでも冷たい声で話し続けます。
「あのさ、アキは何も
わたしはメルセデスちゃんっていう理性のおかげでアキを殺さずに済むけど、冒険者のだいたいは歯止めのない人格破綻者なんだから、いつ、どこで、どんな風に殺されるか、わかんないんだよ?
なのに一々喧嘩を安売りして、その挙げ句土下座なんかしてさ……それで感情的になったヒトたちが止めてくれるって、本当に思ってるの?
ロカと友達だから
メルセデスちゃんの格好良さで両目が潰れちゃった?
エスメラみたいなキザったるいやつが世の中にいっぱいいるって妄想拗らせてる?
──甘ぇよ。
わたしでさえ平均もしくは中央値。
それが今の時代の冒険者の
大親友メルセデスちゃんの言い方では伝わらないでしょう。
エスメラもかなりボカした言い方をするでしょう。
ロカに至っては、ヒトの悪性に鈍すぎてピンとこないでしょう。
そもそもあの三人は時代にそぐわない善性の持ち主。
そんな三人では、そもそもヒトの悪は語れません。語ろうにも、どこか他人事になるでしょう。
体験談があったとしても、あくまで被害者側。
それがあの三人の美徳で、決してわたしでは手の届かないところにあるヒトの……人の理性です。
でもさ、そもそもお前は違うだろ?
お前はヒトの薄汚さが
だからずっと、誰も信じずに怯えているのでしょう?
調子に乗ってるのは素かもしれませんが、同時にそうやって自分を鼓舞している自覚が、あるのでしょう?
「アキ。
「……
「何度でも言うけど、メルセデスちゃんがいなかったら、わたしはとっくにお前を殺してる。冒険者や冒険者志望に、倫理観を求めるな。
今回は、お前を紹介したロカと、パーティー組んでるメルセデスちゃんの顔に泥塗らないために、殺さないし最後には守ってあげる。
だから……わたしを煽らないで。わたし優しくないし、狭量だからさ、そのうち本当に殺しちゃうよ」
「……しゅみましぇん」
……。
いや、よく考えたらこれ最初に煽ったのわたしじゃない?
でも"しばくぞ"ぐらい、別に煽りでもない……よね……?
……メルセデスちゃんにバレないようにしよ。
「わたしも、色々とキツく言ってごめんね。でもさ、できればみんなと仲良くしたいじゃん? いちいち喧嘩売れられると面倒だしさ、仲良くしよ、ね?」
「ひゃい……っ!! リリー先輩の言ってること、たくさん勉強になりました……ボク、もっとちゃんと……ちゃんとします……」
「うんうん、じゃあ【ゴブリン】狩りを続けよっか」
「ひゃぃ……んん、はい!!」
よし。よし。
「とりあえず、すぐに泣いちゃうところを何とかしないとね」
「はい……しゅん……」
「無意味に喧嘩を売らない、買わない、すぐ泣かない。実力は荒いけど悪くはないんだから、がんばろっ!」
「はい!!」
よし! これでだいたい誤魔化せたかな。
そんなこんなで、わたしはアキの【ゴブリン】狩りを見守るのでした。
修行パートはこれにてしまい!
次回からようやく、学寮祭です!
……首を洗って待ってろよ、グラナ。