それが後に語られるその年の学寮祭の評価だ。
黄金世代。奇跡の蒐集。その他多くの賛美の言葉の数々が、当時の若き天才たちに送られていた。しかし彼彼女たちの輝きを上回る
ただ傲慢ならば、それはそれでよかった。
しかし彼らは、ただ醜悪だった。
学寮祭の前日に他寮の選手を襲撃したこと、その行為に対して何一つ悪びれがなかったこと。
そもそも平時における彼らの信頼がどれほどのものであったか、書き綴ればキリがない。
それでも、腐っても
若獅子たる彼らは、末端だろうとその実力は本物。
いかにその品性が下劣であろうとも、その類い稀なる才覚と、それを磨いた努力だけは不変不動の筈だった。
傲慢とは常に正義の対極にあるもの。
そして傲慢とは常に弱者しか持ち得ない。
ゆえに強者たる彼らのそれは罪ではない。
『堕落』と呼ばれる厄災の一連の狭間にあったがゆえに、それもまた悲劇の前触れである、彼らの存在がある意味でその証拠だ……
……と。そんな風に彼らを庇う声すらない。
彼らは厄災とは別物。
独立して、ただ醜いだけの存在として認識されたのだ。
この世で最も重い罪とは、傲慢であることに非ず──
──醜悪であること。それこそが、最も赦されざる罪なのだ。
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「なぁ、りりたん。なにしたん?」
「急になに? 今から試合だよ? あとりりたん言うな」
「……そか。ならもう聞かんわ」
どうも、リリーです。
今現在、わたしとグラナがいるのは控え室。もうじき始まるのは『
長く苦しい戦いでしたね、『
……え? エスメラと寮長さんの試合?
もう終わってますよ、それ。
エスメラと寮長さんのストレート勝ちです。それはもう、一方的な試合になってブーイングもブーイング。
観客席からは罵倒の雨嵐で、もう
なにせ、学寮祭の様子は国内に事細かに報道されます。
つまり試合中の彼らの醜態もすべてすべて晒されるということで、『儀式』の一環である以上、それが歪められることは絶対にありません。
「愉快なヒトたちでしたね、そちらの先輩方。ぷぷっ」
「笑うな。……いや、ホンマに笑いごとなないって、これ絶対に問題になるわ」
「そうだねー、まさか試合中にお漏らししちゃうなんて。しかも大きいほうまで。オマケに口から血も吐いてたね。
ふふっ、あははっ、きっしょくわるーい、『
「ホンマに勘弁して……」
「お漏らしだけに?」
「便ちゃうわ。いやホンマに笑いごとちゃうって……加護持ちのりりたんなら、マジでヤバいって
「ふふっ、あははははははははっ!! はっはっはっ!!」
「爆笑しとる場合ちゃうって! もうっ!」
そうなんです。
噂の襲撃者ことカルボンくんとファンゴさん、試合中に嘔吐したり吐血したり大なり小なり撒き散らしたり!
汚れ穢れをぶちまけて、もう会場は罵声罵倒の大嵐!
誰もが羨む晴れの舞台!
そこで糞尿を撒き散らすという愚行!
何とも愚か!
何とも無様!
何とも
これを嗤わずして、いったい何を嗤うというのか!!
ついでにエスメラと寮長さんの困惑顔も面白かったです。
まぁ、二人とも善人気質のせいで、むしろ試合中にやらかした二人を心配してそれぞれ介護に走ってましたけど。イイヒトたちだなぁ! わたしなら臭いし汚いから、絶対に触らないし近づきたくもないのに!
善人って凄いなぁ!
「後で殺しとけば? むしろ本人たちも死にたくてしょうがないじゃないかにゃ?」
「もうそれしかあらへんかもなぁ……儀式穢した扱いになって『
「だねー……ぷぷっ、あっはっはっ」
「どんだけツボっとんねん。……まぁ、ええわ。で、萎え萎えやけどしゃーない。りりたん、ホンマのお願いや。ガチで
……ふふっ。その言葉が聞きたかった!
「
「……要求はなんや? りりたんなら愉快犯的な理由もありえるけど、何度も言った通り学寮祭は『戦争儀式』なんや。
「堪忍にゃろ♡」
「要求はなんや……ほんまに……」
あーあ! 泣いちゃった!
「泣くなよ、余計に楽しくなっちゃうだろ。ふふっ、んー……正直、もうグラナには死んでほしいんだよねー。けどメルセデスちゃんがなー……グラナまで殺しちゃうと流石に気づいちゃうかもしれないしー……そうだなー……」
要求? お前のその顔だよ♡
……とは思いつつ。棚ぼたで何か要求できるなら、それはそれで何かしら要求したほうがお得というもの。
正直グラナに死んでほしいとか、メルセデスちゃんにバレたくないからそこまでしないとか、全部本音も本音なのでこの場合は何を要求すべきか……なかなかに悩みどころです。
自主退学しろとかも、最終的にメルセデスちゃんにバレて怒られそうだしなー……。
あ。
「なら二つ。一つ目、メルセデスちゃんに謝れ。二つ目、二度とメルセデスちゃんに酷いこと言うな」
「あー……」
「それが守れるんならガチってあげてもいいよ。むしろそれが守れないんなら、わたし今から棄権するよ。どうせ
「……。…………。」
なんでそこで悩むのか。
わたしたちの先祖とメルセデスちゃんたちの先祖がどれだけ争っていたか、とか。宗教、価値観、肌の色の違いとか、全部わたしたちの世代には関係なくない?
それとも、それとは別に先住民に何か恨みがあるの?
そうでもない限り、ここまで葛藤するほど先住民のこと憎まないだろうし……もしくはメルセデスちゃんに個人的な恨みでもあるの?
それこそありえないか。
だっていつだって、メルセデスちゃんは完全で完璧で。
これは何者にも何事にも勝る大前提。
それでも、もしメルセデスちゃんのことを恨んでるとしたら、それはもう逆恨みだよ。大人になってほしいな。
「うぅ……それ以外で……なんか……無いか……?」
まじ泣きじゃん。そこまでして謝りたくないの逆に凄い。
死ねよ。まじで。
「あのさぁ、なんでそこまで謝りたくないの? お前が先住民に直接何かされたの? それともメルセデスちゃんに逆恨みしてるの?」
「……直でなんかされたわけやないし……ぶっちゃけ……ただの逆恨みって言われても否定はできん……」
「おいおい……シンプルに最悪じゃん……」
「でもっ! ……でも……
「意味不明。あー……
「待ってや! ほんまに待って!!」
「無理」
マジで時間を無駄にしちゃったな。気分最低最悪。
そんな感じで萎え萎えになりつつ、わたしは『ぽんぽんぺいん』なので棄権しますと、学園長に伝えに行くのでした。
学寮祭編 完!
わたしの代わりにメルセデスちゃんが戦う?
……はあ?
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その日の天気は晴れだった。
先日の雨天を思い出せなくなるほどに清々しいその晴れ模様は、太陽神の導きにより、そこに概念として顕れる。
つまり、この日この儀式において雨はない。
全ては神の導き故に。
学寮祭の晴れの舞台。しかしてその初戦たる赤寮と緑寮の戦い……先鋒戦、中堅戦に、罵詈雑言の雨が降り注ぐ。
これなる争いは『儀式』である。
これなる戦争は、神々への供物である。
その戦舞にあって汚物を撒き散らすなど当然あっていい筈がなく、事実その汚点である二名の愚者たちは、すでに死刑が決定していた。
成熟していないこと、学生身分であること、その全ては一切の考慮をもたらさない。否、考慮した上での刑罰である。
しかし、まだ。
まだ儀式は終わっていない。
儀式を穢した者たちの死が決まったところで、そもそもまだ儀式は始まって間もなく、まずは最後まで進めなければならない。
しかし同時に、この穢れと陰鬱にまみれた空気を放置する訳にもいくまい、と。
『審判の加護』を持つ聖騎士──ブランは思う。
人には神の慈悲が必要なのだ。
魔に立ち向かうには、人はあまりに脆すぎる。
一騎当千、万夫不当、前人未踏、百戦錬磨の猛者と呼ばれる人類最高峰の天才鬼才がいたところで、魔と戦うにあたり、さほど役には立たず、そして意味がない。
我等から生まれた者に、我等は救われてはいけない。
資格がないのだ。我等には我等を救う資格がない。
我等は、神々の慈悲を乞うか弱くか細き小さな
神々よ。偉大なる天地の超越者よ。
どうか慈愛ではなく、慈悲を以て。
憐れみを以て我等を救い給え。
或いは。
……どうか滅ぼし給え。罪深き我等を。
──『英雄』の背中を刺し、生き延びた我等を。
どうか赦さず。
その痕跡が決して残らないよう徹底的に。
滅尽の限りを尽くし給え。
なんという恥知らず。
なんという罰当たり。
されど神は聖騎士ブランを罰さない。
ただ生きる。それこそが真の罰であると言わんばかりに。
……そして、ブランは見た。
穢された儀式場に足を踏み入れる一人の少女を。
『英雄』の面影を色濃く残す──×××××を。