リリローグ。   作:すず夜

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第27話

「【ゴブリン】の大量発生(アウトブレイク)ですか?」

 

「元々【ゴブリン】は個より群での活動が多いが……それでも精々規模は三十前後。百を超えることは滅多にない。

 その筈だったのだが、何かしらの条件が噛み合ったのか、その【ダンジョン】では大凡(おおよそ)三千の【ゴブリン】の群れが確認されたらしい」

 

「三千っすか!?!?!?」

 

「しゃ、しゃけ……」

 

「視認できただけでも三千というのが正確だな。つまりそれ以上の可能性も高い。

 ……旨味がなく、滅多に冒険者が向かわない【ダンジョン】ではあったものの、定期的に間引きは行われていた筈だ。

 今回の件が発見されたのも、間引きのために冒険者が向かったのがきっかけらしい。流石にその規模の群れの発生を確認した時点で引き返して状況をギルドに報告。早急に討伐隊が組まれ、今に至る」

 

「……緊急も緊急では?」

 

「そうだ。本来なら俺も行くべきなのだろうが……俺の抱える別件も放置できん類でな。詳しくは説明できないが、現状多くの聖騎士と騎士団が動けん」

 

「はわ……はわわ……!!!!

 騎士団も動けないなんて!!!!」

 

「……ロカ、静かに。今この時間帯は私たちしかいませんが、他の人に聞かれる訳にもいかない案件です」

 

「ごめ!!!!

 ……んなさい(ぼそぼそ)」

 

 

 ロカが大声をあげるのも無理はないでしょう。

 大声自体はいつものことではありますが。

 

 ……三千の【ゴブリン】を放置するほどの別件。

 

 それこそ余程のことでしょうし、私も何となく程度ではありますが心当たりがない訳ではありません。

 おそらくメルセデス先輩やリリー先輩が以前あの【ダンジョン】に行くことになった理由も関係があるのでしょう。

 

 

「……具体的に、私たちは何をすれば?」

 

「異変調査の依頼とは言ったものの、流石にこういった案件は専門家の協力が必要だろう。幸い、学()の知人に【ダンジョン】やモンスターに詳しい者がいる。協力要請も出しておいた。お前たちには学院に行ってもらい、彼の指示に従ってもらいたい。できれば今日中に、遅くとも明日には」

 

「学院に伝手があるのですね。わかりました」

 

「知人の名はエミリオだ。奇人の側面はあるが、悪い人ではない。妻帯者だし、女子供をどうこうするタイプでもないのだが……モンスターや【ダンジョン】、神の加護に対する知的好奇心の抑えが効きづらい人でな。奇妙なことを言われるかもしれん。その時は俺の名前を出してくれ。多少はマシになる筈だ」

 

「わかりました」

 

「移動費も含めて各種費用は俺が持とう。気兼ねなく言ってくれ。金だけはあるからな」

 

「それは……助かりますが、いいのですか?」

 

「あとで学園長に請求するから気にするな。それにどうせ使う暇もない金だ。あるに越したことはないが、使うべき時に使わなければ意味がない」

 

「……わかりました、ありがとうございます」

「あざっす!!!!」

「ゴチになります!!」

 

「まぁ、飯代に使ってくれても構わんが」

「……すみません、あとで言い聞かせておきます」

「気にするな。……報酬は別で渡す。三人で山分けしてくれ」

「わかりました」

 

 

 その後、私たちはアルバレス先輩から多めの前金を貰い、準備を済ませ、学院のエミリオさんのもとに向かいました。

 

 

 

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

「よく来てくれた。アルバの手紙で用件は理解している。ふむ、よもやアルバの代わりを務めるのが君達のような見た目麗しい少女たちとは思いもしなかったが。金髪ロングかつ翠眼の爆乳ダウナー系美女。如何にも元気っ娘な茶髪ミディアム茶眼の貧乳美少女。淡い赤橙色のミディアムヘアーと同色の瞳が印象的でどこか幼さも感じる美少女。よりどりみどりではないか。貴族や冒険者が愛用するカフェーでもここまで揃えることはできんよ。今からでも新しいカフェーが開けそうだ。しかし生真面目な奴のことだ、少なくとも番付者(ランカー)かつ最低限の常識を弁えた人物であると思って間違いないだろう。間違ってもハーレム気取りで選ばれた人材でないことは確かとみた。さてお嬢さん方、改めて自己紹介をしよう。(わたし)の名はエミリオ・ソル・ラフル・オリータ。エミでもミリオでもリオでも先生でも好きなように呼んでくれてかまわんよ。親交を深めたところで本題に入ろうか。君達には色々と指示してもいいと手紙には書かれていた訳だが、安心したまえ。(わたし)はこれでも妻帯者でね、意味のないセクハラは一切しないと断言しておこう。その上で君達に指示すべきと判断していることが一つだけある。脱ぎたまえ」

 

「早口過ぎてなんて言ってるかわかんないっす!!!!」

 

「変態だー!!」

 

「……はぁぁぁ」

 

 

 学院に着いて早々件の人物に言われた言葉がこれです。

 

 奇人ではあるが悪人ではない。

 悪人ではないが奇人ではある。

 

 まるで禅問答のように答えのない現実と形容し難い感覚と脱力感を感じるこの物言いに頭を抱えそうになりますが、ひとまず言うべきことがあるとすれば……

 

 

「……なぜ脱ぐ必要が?」

 

「君達も知っているであろう【ゴブリン】の生態が問題だ。君達が依頼のために入念な準備をしてきたことは火を見るより明らかだが今のままでは君達は全滅とまでは言わずとも致命的なダメージを負いかねない。先達として流石にそれは見過ごせんよ。友人のアルバの後輩ともなれば尚のこと。さて、では何故【ゴブリン】の生態が関わっているのかと言えば奴等はとかく不潔不衛生の塊でね。奴等から受けた傷は早急に適切な対応をしなければ破傷風になるというのは知っている筈だ。そして傷を受けずとも素肌に奴等の体液が付着したまま放置するとそれだけで肌から感染症を患う可能性もあると。今回の依頼で我々は未曾有の大量発生(アウトブレイク)で数千もの数に増殖した【ゴブリン】を相手にする訳だが、そうなれば今までとは格別に衛生状態に気を遣わなければならないということだ。乱戦は必然。故に我々のとるべき対応として未然に傷を防ぐことは無論のこと体液すら可能な限り付着しないようにしなければならない。そしてその対策として有効的なのがこれだ」

 

 

 そう言って彼は矢継ぎ早に幾分か理解できなくはない言葉を並べ立てつつ、黒いナニカを取り出し、私たちに差し出しました。

 

 

「なんっすかこれ!?!?!?」

 

「ラバースーツだ」

 

「ラバースーツ????」

 

 

 それだけ言い私たちにそのラバースーツとやらを渡すと、エミリオさんは私たちに背を向け退室しようとしました。

 

 流石に意味がわからないため引き留め確認したところ、この奇妙な黒いナニカは肌着の一種であり、一度全裸にならなければ着用できない代物とのこと。

 まずはこの肌着を着用しなければ今回の依頼は危険度が跳ね上がるため着用するようにと再び言われ、いくつか感じた疑念も()()()()のまま、このラバースーツとやらを着用することに。

 

 

「すごい!!!! 動きやすい!!!!

 ぴっちりだ!!!!」

 

「……こ、これは流石に……恥ずかしいですね」

 

「でもかっこいいよエスメラ!!!!

 胸大っきいのに全身の筋肉良い感じ!!!!

 すごい!!!! 強そう!!!!」

 

「……あの、ロカ。逆に恥ずかしいです」

 

「あっ!!!! ごめんね!!!!」

 

 

 まず着るのも困難なこの肌着は普通の衣服とは素材が異なり、着心地が慣れなくて落ち着きません。

 その上、肉体の輪郭がしっかり出るため、どうしようもなく気恥ずかしさを感じます。

 

 首から下がすべて黒一色のこの衣装は要するに肌の露出を可能な限り無くすことで身体に【ゴブリン】の体液が付着するのを避ける目的で作られたのでしょうが……。

 

 

「……落ち着きませんね」

 

「自分は結構好きだな!!!!

 身体を動かしやすくて!!!!」

 

「ぼ、ボクもちょっと落ち着かないかな……」

 

「……はぁぁぁ。珍しく意見が合いますね」

 

「そ、そだね……」

 

 

 ……アキにも羞恥心はあったのですね。

 

 むしろいつもより静かなので、彼女だけはずっとこの衣装でいいのではないか、とそう考えていたその時でした。

 

 

"──コンコン"

 

 

「そろそろ着替えはできたかね?」

 

「はい、一応全員着用できました」

 

「では入るよ」

 

 

 そう言い入ってきたエミリオさんもまた、私たちに渡した物と同じラバースーツを着ていました。

 男性の身体のラインなんて早々見る機会もなく、見ているこっちも奇妙な恥ずかしさを感じますが……。

 

 

「ふむ。なかなかの壮観だね。無乳と貧乳の美少女たちがこのぴっちりスーツに身を包むというのも想像以上に趣を感じて実に良い。しかしやはり爆発的魅惑の肉体(ダイナマイトボディ)の大人びた雰囲気のあるダウナー美女がこれを着用するのは他の追随を許さない程に抜群の色気を感じさせる。まさに王道中の王道と言わざるを得ない。なんということだ、(わたし)はどうやら世界で最も嘆美な霊峰に迷い込んでしまったようだ。さて本題に、」

 

「変態だー!!!!」

 

「……はぁぁぁ。流石に一度殴ってもよろしいでしょうか? アルバレス先輩からは妻帯者で女子供をどうこうするタイプではないと聞いていたのですが、あまりにも配慮に欠けた発言が多いです。それは本当に必要な発言だったのでしょうか?」

 

「……ふむ。不快にさせたようなら謝罪しよう。君達のようなうら若く美しい乙女は外見を褒め称えられるのを至上の悦びとすると思い発言していたのだ。他意はなかったのだが……すまない」

 

「外見を褒めるつもりで出た言葉がそれな時点で!! どうしようもなく変態サケ!! 他意がなくても性質(タチ)が悪いサケ!!」

 

「では本題に入るが、」

 

「こいつッ!!」

 

「……はぁぁぁ。落ち着いてください、アキ。話が進みません」

 

「ぐぬぬ……!!」

 

 

 アキに珍しく同意しつつ、話が進まないので一度すべて話してもらってから私は苦情を入れるかどうか考えることにしました。

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