「さて、君達も知っているだろうが冒険者の多く、とりわけ放出魔法を主軸に置いた戦法をとる者たちは一定の露出が必須となる。体内の魔力を大概に放出する際に装備が邪魔になるからだ。基本的に魔力というものは【ダンジョン】から発掘可能な魔鉱石を除き無生物に透過しづらい性質がある。術式の構築自体は体外で行われるにも関わらずその過程の体外への魔力放出で躓いてしまうこということだ。つまるところ仮に露出が極端に低い状態で放出魔法を使用するとその過程で衣服、装備を強引に魔力が通り抜けようとし結果的に衣服や装備が破損する。いや破損というより小規模の爆発を起こすと言ったほうがイメージしやすいだろうか。衣服が爆発物に変換された際のダメージは無論のこと戦場で一糸纏わぬ状態で放り出される状態が如何に危険であるかなど語るまでもないだろう。この現象を起こさないために魔法使いは一定の露出をしている訳だが、察しの通りそれ故に魔法使いは【ゴブリン】と相性が悪い。何度も言った通り奴等の攻撃はすべて毒が付与されていると言って過言ではない。奴等の知性は畜生以下だが知能自体は人間と同等。飛び道具を作ることが何故かできないにも関わらず糞をつけた石ころを投げる程度の能力はある。よって無防備な魔法使いが愚かにも奴等の不意打ちを受け、生存し帰還した先で破傷風になり最悪死亡するというケースも決して少なくない。かと言って強化魔法ならば露出を下げていても大丈夫なのかと問われるとそれも否。結局のところ基本的に人間の体内に貯蓄、生成できる魔力には限界がある。多くの魔法使いがこれを克服するために空気中の魔力を取り込む過程があるのは君達も知っているだろう。つまり露出を下げるということは空気中の魔力を取り込むことが困難になることを意味しており、魔力の欠乏のリスクが露出している場合と比較して跳ね上がる。ではそもそも魔法を使わずに【ゴブリン】を討伐すればよいのではないか、そう思うかもしれないがそれもあまり現実的とは言えないね。というのも三十六種確認されている【ゴブリン】の半数が魔法使いと同等の戦闘力を持つことが確認されているからだ。もはや我々と敵対することが義務づけられた悪しき冒険者と考えたほうがよいだろう。さて、ではそんな悪しき冒険者に対し我々が幾度となく開発を繰り返しできたのがこのラバースーツという訳だ。正式名称は『魔力透過衛生服』という。これは魔鉱石から布状のものを作り出すという新技術で作られた、その名の通り魔力の透過率の高い代物だ。このラバースーツを第二の肌のように身に纏っても体外に魔力を放出する際に魔力の流れを阻害することがない、つまり装備品の爆破現象が発生しなくなるということだね。本来ならば顔を守る部分も作りたかったのだが現段階では精々マスクをつける程度だね。眼球を保護するゴーグルもいつか作りたいものだが【ダンジョン】内での活動に支障が出かねないという意見もあってまだ未完成だ。ともかく今はこの『魔力透過衛生服』通称ラバースーツが君達の美しい柔肌を醜悪な【ゴブリン】から守ってくれるだろう」
「長い長い長いサケ!!!!!!」
「あの!!!!
つまりどういうことですか????」
「……はぁぁぁ」
要約すると、つまり。
①魔法を使うには一定の露出が必要。しかしこれが原因で不衛生な【ゴブリン】と戦いには常に高いリスクが伴う。
②魔法を使わずに【ゴブリン】を討伐するのは困難。【ゴブリン】の戦闘力は魔法を使う冒険者に匹敵する。
③それを解決するために作られたのがこのラバースーツ。正式名称は『魔力透過衛生服』。この衛生服ならば着用しても問題なく魔法を使うことができる。
「……ということらしいです」
「すごい!!!! 大発明!!!!」
「……そうですね。ちなみにこの上に防具を装備しても問題はないのでしょうか?」
「無論問題ない。むしろラバースーツそのものの耐久力は多少頑丈な衣服程度だ。魔力を通せるので器用な者ならば強化魔法をかけることも可能とは言えど、流石にそれは練習する時間がないだろう。無難に防具を着用することをオススメするよ。本来ならば専用の
「……ただの変態かと思ってたサケ。
うん? そもそもなんで着てるサケ?
え、もしかしてお前も【ダンジョン】に来るつもりサケ?」
「無論そうだが? 今回のケースは
「……はぁぁぁ。
もし危険度の想定があれと同じか、それに近しいのなら、私は今すぐに学園に戻り、学園長に直談判してリリー先輩を連れてきますよ。
……メルセデス先輩さえいらっしゃれば、あの人に同行をお願いできたのですが……」
「そう自分を卑下にする必要はあるまい。件の魔窟は情報通りだったのならば、むしろマリア・メルセデス嬢やアリス・リリー嬢、グラナ・ジャーマ嬢、ネヌエル・ガト嬢……氏、そして君らの学園長ブラック・ベリー氏以外の生存は不可能だっただろう。そして流石にそこまでではないよ。あくまで我々がこれから向かう【ダンジョン】は深度Ⅱのままだ。それが確認されているからこそ、ギルドの討伐隊は今も間引きを続ける判断ができている訳だからね。ふむ、なるほど……いや、やめておこう。
「……いくつか気になる点はありますが、わかりました。それで、私たちはこれから【ダンジョン】に向かうということでよろしいのですか?」
「うむ、では行こうか」
「……普段からその話し方でお願いします」
「うん?
「さっさと行くサケ!! いつまでここにいるんだサケ!!」
「出発進行ーー!!!!」
ラバースーツの上に元々着ていた衣服や防具を着込んだ後に、私たちは
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──
すでにメルセデス先輩やリリー先輩に解体された
【ダンジョン】はまず発見者が命名権を持ち、そして政治的な理由で【ダンジョン】の解体が決まった場合、主に解体を主導した人物が改名する権利を持ちます。
本来ならば、あの【ダンジョン】の解体は第七騎士団によって進められていたので第七騎士団の騎士団長が改名する筈でしたが、騎士団長は死亡済み、生き残りのマルティンさんがメルセデス先輩とリリー先輩に改名権を譲渡、リリー先輩がメルセデス先輩に命名をお願いした結果、メルセデス先輩が改名したという経緯があります。
【ダンジョン】の名称は、その【ダンジョン】をある程度表現したものでなければなりません。『辺地の洞窟』にしても『陸海空の試練』にしても概ねどのような扱いを受けているのか、それが幾分か理解できるものになっています。
……『陸海空の試練』は当事者たち以外には伝わりづらい名称かもしれませんが。
そして、これから私たちが異変調査を行う【ダンジョン】の名称は『ゴブリンの根城』。早い段階で深度Ⅱであることが確認され、なおかつ他の【ダンジョン】と比較して【ゴブリン】の発生頻度がやや高かったことが由来らしいです。
そういう意味では、元々
私たちは、そんな【ダンジョン】に今から入る訳ですが……
「……はぁぁぁ、皆さん。【ダンジョン】に入る前から警戒を怠らないように。何が起こるかわかりません」
「わかった!!!!
でも大丈夫???? エスメラ、無理してない????」
「ウリィ・エスメラ嬢。この【ダンジョン】はギルドの討伐隊が何度も出入りしている。入った途端に青空に放り出されるなんてことはない、安心したまえ」
「突入早々墜落死なんてあるわけないサケ。そんなのがあったらシンプルに最悪サケ」
「……あったから言ってるんですよ。メルセデス先輩がいなければ全員死んでました」
「ふぁ??」
「……はぁぁぁ、すみません、では行きましょうか」
そうして私たちは、深度Ⅱの【ダンジョン】──『ゴブリンの根城』に一歩足を踏み入れ──
──次の瞬間には無数の投石に囲まれていました。
……よかった。
この【ダンジョン】が
学寮祭に向けた特訓の時に、メルセデス先輩から徹底的に不意打ち対策の訓練をつけてもらっていて。
あらかじめ、リリー先輩から貰った
本当に、よかった。
舌打ちよりも早く、私の肉体は考えるより先に自動的に迫る投擲への対象を始めます。
「魔剣解放──
ただの炎ならば投石を防ぐのは不可能に近い困難。
しかし私の振るう魔剣は『大地を焼き尽くす黒剣の落涙』とも称される地属性に対して特別効果を発揮する。
つまり──
"──業ッ"
──灰燼に帰せ、ゴミどもが。
俯瞰的な視点でそれを眺める私がいる。
自覚しながらも抑えることも留まることもできず、私の殺意は私たちを取り囲む者──【ゴブリン】どもをまとめて焼き払った。
しかしまだ終わっていない。
今のはあくまで投石に対応する過程で、事のついでに焼殺しただけであり【ゴブリン】どもはうじゃうじゃと虫のように涌いている。
ロカとアキはまだ状況を理解できていない。
エミリオさんは二人より先に状況に気づいたようですが武闘派ではなく、身体が追いついていない。
メルセデス先輩なら、リリー先輩なら、今の一瞬で周囲の【ゴブリン】どもを鏖殺できていたでしょうに。
……自分の未熟さに情けなくなりますが、反省も後悔もすべて置き去りにして、今は思考と感情を一致させることに集中します。
つまり。
「皆殺しだ」