「そういえば、ダンジョンシードって壊したら【ダンジョン】なくなるんだよね????
討伐隊の人たちがまだ【ダンジョン】の中にいた場合、その人たちってどうなるの????」
「……地中に埋もれて息絶えると思います」
「えっ!!!! あっ、ごめん(ぼそぼそ)
なら先に討伐隊の人たちを探したほうがいいんじゃないかな(ぼそぼそ)」
「ロカ嬢、生死不明の人間を探すのは困難だ。それこそ
「そんな……(ぼそぼそ)」
「……もし仮に生存者がいたとして、私の判断でその人たちを殺すことになった場合、その責任はすべて私が負います」
「エスメラ!!!! それは違うよ!!!!」
「……はぁぁぁ。ロカ、静かに。【ゴブリン】に気づかれます」
「ごめん、でもやっぱりそれは違うよ、だめだよ、エスメラだけの責任じゃない、その時は
「それも少し違うね、ロカ嬢。そもそも君達はあくまで
「……はぁぁぁ、すみません。ありがとうございます」
少しだけ、気が楽になりました。
そんな会話を挟みつつ、私たちは『深層』を目指して移動していました。
その道中のことです。
「うん?? 人間の気配がするサケ」
「ほう?」
「えっ(ぼそぼそ)」
「……本当に鋭い感覚をお持ちのようで。どうしますか、エミリオさん」
「アキ嬢の感知能力は実に興味深いね、是非とも研究してみたいものだ。……今現在、この【ダンジョン】の中にいるのは我々か討伐隊の人間くらいの筈だ。合流しよう。戦力的にもそうだが、君達としてもできる限り憂いは取り除いておきたいだろう?」
「……そうですね。アキ、お願いできますか?」
「しょうがね~サケねぇ~」
「チッ。……はぁぁぁ、お願いします」
「ふぁい、案内しましゅ……だからそんな冷たい目で見ないでくだしゃい……」
「……いえ、こちらこそすみません。改めて、お願いします」
「あい……」
私たちは、アキの案内のもと気配の主たちと合流することにしました。無事ならば戦力として期待できますし、そうでないなら助けが必要でしょう。
エミリオさんの言う通り、これは私たち自身の憂いを断つためでもあります。ですので合流しないという選択肢は私たちにはありませんでした。
しかし後に私は、自分の想定の甘さを痛感することになります。
知っていたはず。
知っていたはずなのに。
リリー先輩から貰った『人の嫌がることリスト』にも書かれていたことだったのに。
メルセデス先輩のように高潔な人が──
アルバレス先輩のように尊敬できる先達が──
ロカのように優しい人が──
──どれだけ類い稀なのか。
知っていたはずなのに。
"──エスメラはさ"
"人間の善性に期待しすぎだよ"
"なまじ自己評価が低いからさ"
"無意識に、それが他人の美化に繋がってるよ"
"求める期待値が高いって言えばいいのかな"
"まぁ、実感ないなら言っても仕方ないけどさ"
"だから、魔法の言葉を教えてあげる"
"頭の片隅に置いておくといいよ"
"──メルセデスちゃん以外は全部ごみ"
"ね?"
ね? じゃないですよ、リリー先輩。
でもそうですね、結局それはつまり自分の周りの極一部、本当に信用できる人たち以外は信用するなってことなんですね。
知りたくなかったですが。
実感したくなかったですが。
ありがとうございます。
この先で見たものを。
私は一生忘れないでしょう。
──そこにあったのは一種の共存圏でした。
そこでは人間と【ゴブリン】が共存していました。
ただし身分、役割の違いはあります。
貴族と平民、主人と奴隷、王と臣下。
この共存圏を見て私が想起した言葉は一つ。
──
そんな共存圏──地獄を、私たちは観察できるギリギリの距離から見ていました。
私もロカもアキもエミリオさんも、絶句していました。
無意識に私はロカの口を押さえていました。我に返った彼女が大声出したり、そのままあの地獄に囚われている人たちを助けようと駆け出すのを止めるためです。
そして、念入りにロカとアキに絶対に大声を出さないようにと伝えていると、エミリオさんが静かに話し始めました。
「なるほど。指名手配されている顔が幾つかあるね。それに討伐隊に参加していた顔もある。……そうか、補充のためだったのか。水面下で【ゴブリン】を管理、そして大群になった時点で
「……エミリオさん、私たちはどうすれば……」
「ウリィ・エスメラ嬢。悪いが【ダンジョン】の解体は無しだ。我々はこれから
「でもあの人たちを助けなくちゃ……(ぼそぼそ)」
「……そうです、あのまま放置すれば彼女たちの命は」
「冷静になりたまえ。ロカ嬢、ウリィ・エスメラ嬢。これは指示だ。従ってもらう、いいね?」
「しかし……」
「でも……(ぼそぼそ)」
「ウリィ・エスメラ嬢。ロカ嬢。……いいかい、我々にできることは何もないんだ。例え君が一騎当千の女傑であろうとも、【ゴブリン】のみならばいざ知らず、あそこにある悪意は間違いなく人間由来のものだ。ならば彼等には騎士団や聖騎士と戦うだけの戦力か、罠を用意している筈。地の利もなく、戦力差さえ数千倍。これでは勝ち目はない。あるいはウリィ・エスメラ嬢だけは生き残ることができるかもしれないが……
「……すみません。了解です」
「いいんだ、むしろ君達の動揺はごく自然なものだ。いかに冷静に冷酷に振る舞おうとしたところで君はまだ女学生でしかない。プロ意識を持つことはいいことだがね、ああいった悪意と戦うのは君達にはまだ早い。ダーティーな部分は大人の男にでも任せておけばいいのさ」
「……わかりました。しかしどうやって
「それについてだが、少し
「な、なんとなくでもいいのなら……」
「では『深層』以外に魔力溜まりとなっている場所はわかるかい? そしてその中で、現在進行形で魔力の変動率が高い場所はわかるかい?」
「……?? 割と大雑把な方向になってもいいなら、わかりましゅ」
「ではその方向を調べよう。【ダンジョン】の
「おお……ただの変態じゃなかったサケね。賢いサケ」
「ふふ、これでも学院出身なのでね。まぁ仮にそこに
「……わかりました、移動しましょう。アキ、案内をお願いします」
「わかったサケ、ついてくるサケ」
そして私たちは移動を開始して──
"──ザシュッ"
「男はいらねェな。女だけ残ればいい、そうは思わねェか?」
──は?
その男はいつの間にか現れていて。
ドサリと音を立ててエミリオさんは倒れ。
ゴロゴロと
それがエミリオさんの頭であると。
気づくのに。
一秒。
それは私たちにできた空白の時間でもあり。
そして致命的な隙となる時間でした。
「
一番最初に我に返ったのはアキでした。
彼女の放つ百に近い水の爆ぜる大釘が、男に向けて放たれます。
しかし、一秒。
私たちにできた空白の時間で、その男はすでにこの戦いを終わらせる準備を終えていたようです。
「もう終わってンだな、これが。面のイイ女ばかりじゃねェか、嬉しいねェ」
アキの放った攻撃はすべて軌道が逸れたのを見届け……。
そしてその光景を見たのを最後に、私は、私たちは攻撃を受けていたことを自覚できないままに、意識を失いました。