「よ゛く゛も゛ロ゛ー゛ち゛ゃ゛ん゛を゛!!
お゛前゛を゛殺゛す゛!!」
"なぁにこれぇ"
予想の斜め上の展開。
あの時──アキの話をしていたとき、私は妙な気配を地面から感じていました。
微量な震動と水の気配、そしてアキが地面の下で何かをしている気配とでも言えばいいのでしょうか。
以前リリー先輩がメルセデス先輩に言われてアキを連れ回した時、アキの
私が大地……地面や石ころ、岩を通して情報を得ることができるように、ゴブフレは風……空気の振動に敏感なのでは、そう考えたからです。
そして、アキが何らかの方法でゴブフレの気を逸らした瞬間を狙って行動するつもりだったのですが……。
……魚?
"どう見ても水棲の【ビースト】だねぇ……ところでボーッとしてていいのかな?"
……今しかないですね。
"失敗したらロカが死ぬけど、もう事ここに至って何のアクションもしなかったら、それこそ三人とも死んじゃうんじゃない?"
……メルセデス先輩なら、どうすると思いますか?
"幻聴にそれ聞く? 頭おかしいんじゃない? メルセデスちゃんだったらそもそもこんな状況に陥ってないから"
チッ。
"……でもまぁ、そうだなぁ……逆に訊きたいんだけど、手足が使えない程度で、メルセデスちゃんが無抵抗のまま、好き放題されるままでいると思う?"
……それは、思いませんが……。
"なら、メルセデスちゃんなら何をし始めると思う?"
メルセデス先輩の固有魔法『陸の王』は人外の姿を得ることができます。つまり姿、形を変えられる能力です。
ですので、おそらくメルセデス先輩は、仮に手足が無くなっても後づけで生やすことができるのではないでしょうか?
"んー……間違ってはないけどさ。でもさぁ、その前にやることあるよね?"
手足を生やすより先に、ですか?
"エスメラは口だけじゃなくて頭も悪いの? まず考える時間を無理矢理作り出すことだよ。ほら、さっさと『
……幻聴の正論とは何とも複雑な気分になりますが。
無詠唱で可能な限りの『
"なんだかんだで、魔法は使えるんだからさ。助けを呼ぶことは難しいっていうか不可能なんだし、仮に方法があっても間に合わないって前提じゃん? なら自分で何とかするしかないんだよ。せっかく思考を加速できるんだからさ、こういう時こそ使わないと。わたしと違って限界はあるけど、地属性なんだからさー、もっと強化魔法を使い倒そうよー"
……はぁぁぁ。続きをご教授ください。
"幻聴相手に教えを乞うなんて、エスメラ情けないね。……まぁ、時間もないからさっさと答えを教えてあげる。エスメラが死んだところでどうでもいいけどさ、荷物持ちがいなくなるのはツマンナイからね。先に言っておくけど、あくまでわたしは幻聴だからね。エスメラが
そうですね。
"メルセデスちゃんじゃないのは、悪意を倒すための悪意を想定しているからだね。メルセデスちゃんに悪意とかないし。
……ま、そんな話はさておき。手足を生やしたとして、次はどう
そうですね。
"で! その中でも一番凶悪なのは相手の肺の空気を操って肺を破裂させることができるってところ!
基本的に各属性の『
でも例外として風属性だけは肺の中を空気を操って殺すことができる! 勿論、相手が口と鼻を塞いでたらできないけどね。でも鼓膜とか破りたい放題だし、そもそも空気を風の刃に変えて両目をズッタズタにすれば失明確定! なんて凶悪な属性なんだ!
まぁ、メルセデスちゃんなら普通に勝つだろうけど。風から自分の身を守る方法だけあればいい。嵐だろうが竜巻だろうが、全部叩っ切っておしまい!"
……嵐や竜巻を切れたら苦労しませんよ。それに回復魔法の使えない私では手足を治せませんし、姿形を変化させる魔法なんて私には使えませんよ。
"答えを教えてあげるとは言ったけどさ、少しは自分で考えなよ……動かなくなった手足の代わりを用意する方法も、自分の身を風や空気から守る方法も、全部同じだよ。
……そうです。お願いします。
確信をください。
高潔なメルセデス先輩では言えない言葉で。
悪意に満ち満ちた言葉で。
私の心をへし折ってください。
弱い私を殺してください。
"気持ち悪いなぁ……"
"でもいいよ、メルセデスちゃんには言えない言葉で……"
"
……傍から見ればおかしな人間でしょう。
幻聴を幻聴と理解しつつ、その幻聴に教えを乞う。
頭がおかしいと言われても仕方ないと思います。
でも勝てなかった。
完全に敗北した。二度も敗北した。
何度でも挑めるなら何度でも挑もう。
でも、この戦いには限りがある。
これ以上は負けられない。
だから手段は選ばない、
ロカを、アキを地上に連れて帰るために。
"人を殺すのがそんなに怖いの?"
"嘘つき"
私を殺して、私は
"お前じゃ
"お前じゃ
リリー先輩。
貴女を勝手に定義して、妄想にしてすみません。
貴女の苦しみを識りながら。
貴女を嫌悪しておきながら。
それでも貴女に縋る私を、どうか赦さないでください。
"慟哭と怨嗟に耳を傾けろ"
"殺意に害意に敵意に悪意に呼応しろ"
"遍く悪を駆逐しろ"
後で謝罪します。ですので今は──
"偽善の時間は終わりだ"
"
──私を人殺しにしてください。
"──皆殺しだ"
……………………
…………
……
物心ついた時には魚心。
でも寄り添う気持ちに水心が応えるとは限らない。
さらさらと流れる川の水音の中で。
ボクは生まれた。
親は最初から死んでいた。
兄姉弟妹は共食いの仲だった。
周囲にいるのは天敵だけ。
弱肉強食の理。
それがボクたちの絶対の
弱者は逃げ惑い、苦しみ喘ぐ。
強者は悠々と享楽を貪り喰らう。
それが当然で、ボクも当然、それに倣った。
強者から逃げ惑い、弱者を蹂躙する。
そんな日々を過ごしていた時だった。
……それから紆余曲折あって、ボクは人間に憧れた。気づけばボク自身、人の形になっていた。
それをどこぞの胡散臭い学園長に拾われて、今では人間の真似をしながら生きている。
ボクは人間に憧れた。
でも同時に、人間が怖くて仕方なかった。
人の姿になってからも何度も襲われたから。
ボクの外見は人間の中でも可愛いとか、美しいとか言われるタイプだったみたいで、ボクを孕ませたいって雄が多かったのだ。
でも雌も怖かった。ボクの顔と態度が気に入らないって、すぐにボクを虐めるから。
だから、人間に憧れたのは間違いだったって。
そう思って、それが悲しくて、無性にやるせなくて、寂しいと想って、でもどうしようもなくて。
そんな時だった。ボクがローちゃんと出会ったのは。
ローちゃんはうるさいけど優しかった。
ボクと一緒に笑って、驚いて、怖がって、楽しんだり、喜んだりしてくれた。
それが、嬉しかった。幸せを感じた。
ローちゃんは、ボクが一番寂しい時に一緒にいてくれて、一番優しくしてほしい時に優しくしてくれる。
偶に察しが悪くても、ローちゃんの素直さには清々しさがある。
だから、好き。
番になりたいとかじゃなくて。
ああ、ボクは人間が好きなんだって。
そう思える。
だから……
……でも、これは美しい感情じゃない。
ボクはボクの幸せのためにローちゃんと一緒にいる。
ローちゃんみたいに相手に寄り添い、相手を想うなんてことはボクはできない、ボクはしらない。
だから。
「お゛前゛を゛殺゛す゛!!」
お前だけは赦さない。