「それにしても、空を内包する【ダンジョン】なんて珍しいよね」
「そうだな。……資料通りならば、よくある蟻の巣状の洞窟型の【ダンジョン】だったはずだが」
「……事前情報はすべて、あてにならないと判断したほうがよさそうですね」
どうも、リリーです。
青空ダイブからダイナミック着地をしたわたしたちですが、ようやく【ダンジョン】の『調査』を行っています。
ですが、この通りさっそく資料とは違う点が多々あり、どうしたものかと頭を抱えていました。
「そういえば……」
「どうしました?」
「いや、メルセデスちゃんがあれだけ目立つことをしたのに、全然【ビースト】が襲ってこないなーって」
「言われてみればそうですね。……案外、あの巨大化の余波で周囲の【ビースト】が全滅しただけかもしれませんが」
「それでも全域の【ビースト】が死んだわけじゃないでしょー?
むしろ、あれでわたしたちの存在を認識した【ビースト】が群がってくると思ってたんだけど」
はた迷惑な生態をしていることで有名な【ビースト】とは、その名の通り獣型のモンスターです。
そのうえ無知蒙昧で暴れ回ることしか知らず、仮にヒトの姿なんて知覚しようものなら何も考えずに襲いかかってくる、そんな怪物なのです。
その
と、思っていたのですが……。
「×××……いや、【ビースト】は基本的に自分より弱そうと判断した生き物だけ襲う。少なくとも自分より図体の大きなものを見つけた場合、よほどの飢餓状態でもない限り逃げ出す」
「え、そうだったんだ」
わたし、逢うたびに襲われていたのに。
もしかして、舐められてたってこと?
「ふぅーん……次から見つけたら苦しめて殺そー」
「やめておけ。戦場で相まみえたのならば、素直に殺してやれ」
「はぁーい。メルセデスちゃんは優しいなぁ」
だからすき。
「……しかしあの青空ダイブは、いったいなんだったのでしょうね」
「【ダンジョン】の『
「……帰りが大変そうですね」
これ超々親友メルセデスちゃんがいなかったら詰んでましたね。
というか。
「これ騎士団のヒトたちが帰ってこれないのってさぁ……」
「……解体中に『
「まぁ、そのあたりの答えは『調査』の末に
そんなこんなで、わたしたちは超々親友メルセデスちゃんの巨大化によって破壊され尽くし、最早荒野と化した平原を歩いて『調査』を続けるのでした。
それから約三〇分後。
わたしたちは、森の中を歩いていました。
「広すぎる。青空ダイブしたときにも思ったけど、この【ダンジョン】さぁ、広すぎない?」
「……今のところ、荒野……平原か森しか見えませんね。かと言って不用意にジャンプしてあたりを見渡すというのも……こんなことなら、青空ダイブのときに一帯を確認しておけばよかったですね」
「流石にあの時はねー、ちょっとそれどころじゃなかったし。……メルセデスちゃんはどう?」
わたしたちはね、ごめんね、心の準備もなしに青空に放り出されたらね、流石にちょっと他のこと考えるのはね、無理でしたね。
でも、もしかして、わたしの超々親友メルセデスちゃんならば、そう思い声をかけてみましたが……。
「……メルセデスちゃん?」
「静かに。何か聞こえる」
わたしには何も聞こえませんでしたが、きっと超感覚を持つ超々親友のメルセデスちゃんは、何かしらの音を聞き取ったのでしょう。
じっとして、わたしとエスメラがメルセデスちゃんの次の行動を待っていると……。
不意に、メルセデスちゃんが空を見上げました。
そしてすぐさま、隣に生えていた
"──轟ッ"
轟音と共に投げつけられた木を回避する術を持たなかったその鳥型の【ビースト】は、鳴き声一つあげる間もなく、その血と肉と骨を、死の残骸を撒き散らし、絶命しました。
なんとも汚ねぇ花火のできあがりです。
「ひゅー! 流石メルセデスちゃん! やることなすこと全部がダイナミック! すき! すてき! 抱いて!」
「言ってる場合ですか」
「ははっ、あはははははははははっ!!!!」
「リリー先輩……?」
愚昧まいまい無知蒙昧な獣畜生どもが、どうにもわたしの愛するメルセデスちゃんに怯える時間は終わったみたい。
なるほど、弱そうな敵に襲い掛かるとはよく言ったもので、あの連中……【ビースト】どもは、わたしたちが強かろうが弱かろうが、ヒトである限り襲い掛かってくる。そういうことらしい。
そら見ろ六羽のロクデナシ。
最初の一体が、あんなに無様に叩き潰されたにも関わらず、六羽の鳥型どもが次々に空から急降下してくるくるくるくる落ちてくる。
どっくんどっくんどきどき喜怒哀楽が止まりません。
ああーー、あああああああああーーーー。
青空ダイブが悪いのです。
死ぬかと思いました。どきどきしました。
メルセデスちゃんが悪いのです。
なんですかあの巨大化は。えっちすぎます。どきどきしました。
だから、脳漿がこんなに蜜に浸されているのです。
だから、こんなにハイになってるのです。
だから、こんなに──
「くるくるくるくる狂い
──わたしはおかしくなってしまうのです。
にやにやにまにま、わたしはそれだけ言い捨てて。
腰に差した剣を抜き、そのまま自分の首筋を切りつけました。
びゅーびゅー。
普通では考えられないほどの血が吹き出て。
雨のように降り注ぐ自分の血を浴びながら。
わたしは、へらへら嗤うのです。
「
そして、次の瞬間。
わたしの血に濡れていた周囲一帯──半径一〇〇メートル以内にあった、あらゆるものが爆発しました。