リリローグ。   作:すず夜

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第七話

「私の判断が間違っていた。悪かった、二人とも」

「メルセデスちゃんは何も悪くないよ。仮に悪かったとしてもメルセデスちゃんだから無罪だよ。みんなで納得したうえでやったことだしね。……いや、誰も思わないよ、水って爆発するんだね」

「……『防御増強』を使っていて正解でしたね。どういう原理で爆発したのか、今後のためにも、領都に戻ったら調べてみましょうか。領都の学者か錬金術師の方なら何か知っているかもしれませんね」

 

 どうも、リリーです。

 後に知る水蒸気爆発という現象に巻き込まれ、死にかけたわたしたちですが、なんだかんだで超親友メルセデスちゃんに助けてもらいました。

 水が膨張し、圧力が生まれるのを()()した超親友メルセデスちゃんが、これは巻き込まれたら例え事前に『防御増強』をしていたわたしたちでも怪我どころではすまないと直感し、わたしとエスメラを抱え、湖から離れてくれたらしいです。

 衝撃波よりも早く、速く、わたしたちを救出した行動のすべて……思考速度、反射神経、魔法行使、どれか一つをとっても超次元的だと絶賛せざるを得ないこの結果に、親友であるわたしも脳汁が止まりません。

 また暴走してメルセデスちゃんのお説教を受けるのも大いにあり、大いにあり、そんなリリーです。

 実際、胸のときめき、どきどきが止まりません。

 この鼓動、これはまさしく……!

 

「恋、だね」

「どうしましたか、リリー先輩。ついに妄想と現実の区別がつかなくなりましたか」

「酷いよエスメラー」

 

 実際、領都有数どころか国内有数の天才的上位番付者(ランカー)であるわたしは、例え地上であっても【ダンジョン】であっても、相手がヒトであってもモンスターであっても、生命の危機とは巡り早生が悪いようで、なかなかそんな機会が訪れません。

 なので、わたしがこんなにもどきどき鼓動堂々どうにもならないのはあああああああああ……ふぅ。

 

「とりあえず、湖に戻るか」

「そうだね、たぶん新しい荒野になってると思うけど」

 

 そんなこんなで、わたしたちは湖に戻りました。

 まぁ、はい。

 

「荒野だね」「荒野ですね」

 

 ……。

 

「エスメラ、いつまでわたしに被せるネタを続けるつもり?」

「……はぁぁぁ。しかしまぁ、これで深層に続く『道』に行くこと自体はできそうですが、問題は……」

「『道』が水で満たされていた以上、おそらく深層は水で満たされ、モンスターが水棲に特化している可能性が高い。迂闊には深層に向かえないが、かと言ってこのまま何もしないわけにはいかないだろう。……慎重に行動する必要があるが」

 

 慎重……ね。焼き払う提案をしてわたしたちが危険に晒されたことを気にしてるんだね。可愛いね。

 けふんけふん。

 しかし、実際わたしたちに水属性がいない以上、予め何かできるというわけでもなく、このまま深層に向かうしかありません。

 

「ひとまず、私が行って様子を確認してみるか?」

 

「反対。メルセデスちゃんだけにリスクを負わせるのは大反対だよ。それが一番、パーティー全体のリスクを下げることに繋がるのは否定できないけどさ、もし青空ダイブみたいに空間ごとの移動が大変だった場合、メルセデスちゃんが一人で過ごす時間が増えちゃう」

 

「……無属性であるにも関わらず、地属性の私たちよりもメルセデス先輩のほうが身体強化(ライズ)が得意……というよりも身体強化(ライズ)の練度が高いですからね。理屈はわかります。尊敬もしています。それに実際、私たちは、メルセデス先輩がいなければ二度は死んでいるでしょう。しかし、だからといってメルセデス先輩だけにリスクを負わせるのは私も反対です」

 

「最悪エスメラはいなくてもいいけどさ。メルセデスちゃんの下位互換だし。でもわたしは、メルセデスちゃんにはできないことができるよ。助けてもらってばかりだけど、わたしだってメルセデスちゃんの力にはなれる。特にこんなごみ【ダンジョン】では、少しでもできることは多いほうがいいでしょ?」

 

「チッ。……はぁぁぁ、まぁ、なんにしても、そもそもここまで悪意の塊のような【ダンジョン】で、単独行動は反対です。私たちも連れていってください」

 

 超親友メルセデスちゃんの提案に、反対の意志を石ころを投げるように次々に言い足すわたしとエスメラ。

 確かに身体強化(ライズ)で誰よりも超人として君臨し、類い稀なる強力な固有魔法と、最強唯一の加護を持つ超親友メルセデスちゃんは、少なくとも領内……いえ、国内最強の上位番付者(ランカー)でしょう。実際、先住民に対する先入観や差別意識さえなければ、間違いなく超親友メルセデスちゃんこそが『最強』の二つ名を持つ番付者(ランカー)だったはずです。

 何ならメルセデスちゃんだけでもこの【ダンジョン】を解体することはきっと可能で、そこにわたしたちはむしろ邪魔なだけかもしれません。

 

 でも、だめです。いやです。

 

「お願いだから、独りになろうとしないで」

「……私たちは、貴女が他人のために孤独を選び、他人のために利用されることをよしとする姿を()()()()()見たくありませんし、それに耐えたくありません」

 

 そんなわたしたちの懇願を見て聞いて、わたしの大切な親友メルセデスちゃんは、小さく、息を吐き出しました。溜息のような、そうでないような、そんな一息を。

 

「わかった。私は仲間に恵まれているな。それはそれとしてリリー、無意味にエスメラを嘲るな」

「ごめんなさーい」

「……はぁぁぁ。まぁ、いいですよ」

 

「では、この場でできることは、おそらくない。騎士団の生き残りが仮にこの層にいたとしても、ここまで広大な場所で、何の痕跡もないまま探し続ける時間はない。

 深層に、三人で行くか」

「はーい」

「わかりました」

 

 そうしてわたしたちは、三人で深層への『道』に飛び込むことにしました。

 

「いや、一つだけ思いついた」

「じゃあそれ採用で」

「……とりあえず説明は聞きましょう、リリー先輩」

 

 だってどうせわたしもエスメラも何も思いつかないじゃん。

 

「私の巨大化と獣化を併用し、お前たちを口の中に入れてから深層に入る。最悪、陸のない空か水の中に転移したとしても、即死することだけは(まぬが)れるはずだ」

「メルセデスちゃんに呑み込まれる……か」

 

 なにそれえっちじゃん。

 

「賛成! あ、エスメラは残ってていいよ」

「……はぁぁぁ。まぁ、他に案も安全策もないのであれば、その案に賛成するしかありませんね。相変わらずメルセデス先輩の負担ばかり増えて申し訳ないですが……しかし、もし深層が極端に狭く、巨大化した結果、逆に押し潰されてしまう可能性はありませんか?」

「一応、そこまで大きくするつもりもない。そもそもあの巨大化は見た目ほど中身が詰まっているわけではないからな。最悪、三人分のスペースさえ確保できるのなら、何とかなる」

「そうなんだ、まぁ、メルセデスちゃんの案に賛成! だからぁ……わたしを食べて?」

「……蕁麻疹が出ました」

 

 そんなこんなで超親友メルセデスちゃんはまたまた細長い針を取り出し、それを首に突き刺します。……ずっと思っていたのですが、それ、すごい痛そうだね。心配になる。

 

「『陸の王』、虚人の影、大蛇の顎門。

 誓約(サクラメント)──虚蛇異化(きょだいか)の儀礼」

 

 超親友メルセデスちゃんの固有魔法『陸の王』は別名『大地の怪物』とも称される陸上の獣(概ね哺乳類か爬虫類)の姿とその力を拝借し、自身の能力として振るうことができます。

 使用条件として流血を必須とすることから流血魔術とも超親友メルセデスちゃんは呼んでいますが……その能力はこの通り、怪物と怪物を組み合わせて使用することも可能。

 その結果──

 

「大きい蛇だ」

「完全な獣化は珍しいですね。いつもはなんだかんだで人型を保っていましたし」

「でもメルセデスちゃんと思うと神々しいね」

「……そうですか」

 

 完全な黒蛇の姿になった超親友メルセデスちゃん。その大きさは全長一〇〇メートル程度で、見るヒトが見れば、意識を失ってしまいそうになるほどの荘厳な雰囲気を漂わせています。

 もしこの状態の超親友メルセデスちゃんがどこかの山に顕れようものならば、神と呼ばれてもおかしくはないでしょう。

 

『では、行くか』

「話せるんだ」「話せるんですね」

 

 ……。

 

「エスメ「では、お願いします」

 

 そのままわたしの抗議の声ごと、わたしとエスメラは黒蛇になった超親友メルセデスちゃんに丸呑みにされ、そしてそのまま超親友メルセデスちゃんは、深層に続く『道』に飛び込んで行くのでした。

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