リリローグ。   作:すず夜

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第九話

 どうも、リリーです。

 先に言っておくと、わたしは別に男のヒトが嫌いってわけではありません。大抵の場合、彼らはわたしの味方になってくれますし、望めば雑用もお金も何でもわたしに施してくれます。

 

 しかしそれはそれとして、同じパーティーを組みたいか、そう聞かれると答えは"いいえ"としか言えません。

 当たり前ですよね。だって誰が好き好んで大親友メルセデスちゃんに異性が近づくことをよしとしましょうか。

 ただでさえ騎士団の保護なんてごみめんどーでしかないのに、もしメルセデスちゃんが彼らにつきまとわれようものならば……わたしは彼らを海の藻屑にしなければなりません。

 

 そんなことを考えているうちに、エスメラが騎士団の生き残りと会話を始めていました。

 

「僕は第七騎士団に所属するマルティンです。貴女たちは……」

「私たちは冒険者学園の生徒です」

「冒険者学園! 侯爵領の冒険者適性の高い子どもたちに冒険者の資格を与えるための教育機関ですね」

「はい。私たちは侯爵夫人から直接、連絡の途絶えた第七騎士団と、第七騎士団が解体中だった【ダンジョン】の調査依頼を受け、ここまできました」

「そんな……申し訳ない、まさかまだ子どもである貴女たちに、そんな迷惑をかけてしまうなんて……」

「いえ、気にしないでください。それで、情報の交換をお願いしてもよろしいでしょうか」

「はい、是非お願いします」

 

 ……随分腰の低い騎士様じゃん。

 

 普通、侯爵領の騎士は全体的に大きな態度で有名で、実力は本物で事実として街や街道を賊やモンスターから守っているにも関わらず、領民からの人気はないに等しい、そんな連中のはずです。

 しかし目の前にいる騎士様はどうにも腰が低く、一瞬、エスメラの無駄に大きな胸に視線が吸い込まれた以外は、わたしたちに対して大した無礼は働いてません。

 

 ふむ。もしこのままエスメラがその胸で男のヒトを二人とも釘づけにできるのであれば……わたしは理性を保てるかもしれませんね。

 唯一欠点があるとすれば、話し方がエスメラとそれなりに被ってるせいで、文章化するにあたってもうどっちが話しているのか、わかりづらいところでしょうか。

 

 あと、この騎士様は礼儀正しいタイプなので、そうなると下手にわたしが会話を進めるよりは、このままエスメラに任せたほうが無難でしょう。

 

 ひとまず、エスメラは自分とわたしとメルセデスちゃんがいることと、確認した【ダンジョン】の構造、あとは、まぁしょうがないけどここまでどうやってきたのか、つまり大親友メルセデスちゃんの変身魔法について(大きな蛇になれるってところだけ。全部は教えさせないよ!)の情報を渡しました。

 

 

 で、エスメラが聞いた情報をまとめ!

 

①騎士団が解体を始めて一週間くらいは普通の蟻の巣状の洞窟型の【ダンジョン】だったよ!

 

②ダンジョンシード解体中に突然、ダンジョンシードに異変が起きて【ダンジョン】の構造が嵐のような早さで変化したよ!

 

③元々いた【ゴブリン】やいなかったはずの【ビースト】の強襲を受けて、騎士団は壊滅したよ! 第七騎士団は他の騎士団と違って元冒険者が多くて実戦に強いヒトたちが多かったけど、【ダンジョン】の変異、【ゴブリン】や【ビースト】の強襲、トドメに()()()【デーモン】に壊滅させられたよ!

 

④深層から出る前に深層が水没したよ! 咄嗟の判断で地中に逃げたのはいいものの、出る方法がなくて困ってたよ!

 

⑤【ゴブリン】はたぶん溺死、【ビースト】もたぶん襲い掛かってきた分は溺死、水棲の【ビースト】は未確認、【デーモン】に関しては恐怖のあまりに認識が歪んでいる可能性があるけど、二体とも竜型だったはずだよ! ちなみに番付者(ランカー)だった団長と副団長を含む騎士団の三割が【デーモン】に瞬殺されたよ! 一撃だったよ! その一撃以降は手を出されなかったよ!

 

⑥マルティンさんは珍しい風属性だよ! 炎が中級、風が上級、水が低級、強化魔法の使用可、加護なし、武器は騎士の武装だけ! 才能あるね!

 

⑦ちなみにもう一人の男のヒトは先輩だけど、恐怖と空腹で気が狂って寝たきりなうえに衰弱した状態だよ! 地属性で、放出できるのは地の上級まで! この部屋を作ったヒトだって!

 

 以上!

 

 

「【デーモン】はさ、普通は単体で活動するはずだよ。なにせそもそも実力以上に我が強いモンスターだからね。生きた個の災害。それが二体でパーティー組んでるって? ……やっぱりこの【ダンジョン】ごみだよ、帰ろうよ」

「……はぁぁぁ。帰らないでください。もうこれは国家存続の危機です。むしろ不幸中の幸いでしょう、ここにリリー先輩とメルセデス先輩が揃っているのは」

「そうだけどさー……」

 

「僕からもお願いします。『最強』の異名を持つ最上位(トップ)番付者(ランカー)であるリリーさんと、『英雄』()()であるメルセデスさんのお力が、この国には必要なのです。何卒、ご助力をお願いします」

 

 そう言って、マルティンさんは深く、深く頭を下げました。

 高飛車な物言いで有名な騎士団にしては本当に珍しい、腰も頭の低い姿は、実に実に珍しい。

 淡々と、そう思いました。でもそれだけ。

 

 ……。…………。……………………。

 

 そんな物珍しさなんかどうでもよくなるくらい、わたしの中では胸の内に反響し続けている言葉がありました。

 

「頭を上げてください、マルティンさん。あと一つだけ、言ってもいいですかぁ?」

「はい」

「次にわたしを最上位(トップ)とか『最強』って呼んだり、メルセデスちゃんのことを『英雄』()()とか呼んだりしたら、もうわたしはこの【ダンジョン】の解体に一切協力しませんねぇ」

「えっ……それは……何故ですか……?」

「その二つ名ぁ、嫌いなんですぅ」

「そんな……貴女は四属性を最上級まで収めた三賢者の一人で、【デーモン】討伐と【ダンジョン】の解体の()()()()()()()()()()()()の──」

 

 

「──黙れ」

 

 

 怒鳴ることはしませんでした。

 ただ零れた言葉に込められた殺意が本物で。

 つまりそれ以上言葉を続けると殺すという意志。

 それだけが伝わればいい。

 

 不快。不快。不快。

 

 わたしの中を巡る赤が溢れそうになる。

 

 血が病となり毒となり全身を巡る。

 全身が病に冒されるように。

    毒に冒されるように。

 

 冷めた意思。冷めた視線。冷めた言葉。

 

 歌と音と言葉で満ち満ちたわたしの脳漿が。

 ただ一色の言葉だけを指す。

 

 黒く、黒く──

 

 どきどきとは正反対の衝動が、

 

 

『リリー。落ち着け』

 

 

「……はぁふぅ。はぁい。まぁ、とりあえずマルティンさん、わかってくれましたかぁ?」

 

 ふぅ。媚び媚び。

 

「は、はい。……不快な思いをさせて、すみませんでした」

「いえいえ、お気になさらずに。わたしの言葉を忘れないでいてくれたら、それ以上望むものはありません」

「わかりました……以後、気をつけます……」

 

 おいおい誰だい、こんな物腰柔らかなイケメンを怯えさせたのは、かわいそうに、まるで病に罹ったみたいに顔を青ざめさせちゃって。

 

 やれやれだぜ。

 いけませんね。情緒が不安定で。悲しいね。

 

「……はぁぁぁ。とりあえず、移動しませんか?」

「そうだね、でも騎士団のヒトたち、たぶん大して役に立たないだろうし、このまま待機してもらったほうがいいんじゃないかなってリリーは思うんだけど」

「……リリー先輩、【ダンジョン】の解体後はダンジョンシードの間以外はすぐに地中に埋まります。それをわかって言ってますね?」

「ふふっ、冗談だよ。半分は。だって、男のヒトをメルセデスちゃんの中に入れるのって、ねぇ?」

 

『私は気にしない。リリーも()()()()()

 

「命令形? いいねぞくぞくしちゃう、普段からそんな態度で全然良いのに。他のヒトに言われたら殺すけど、メルセデスちゃんからの命令なら悦んじゃうよ! ……まぁ、わかった。メルセデスちゃんがそう言うなら、わたしも()()()気にしない」

「……はぁぁぁ。それではメルセデス先輩、また口の中に失礼させてもらいます」

 

『ああ、騎士団の団員たちも運ぼう』

 

 結局、渋々騎士団の生き残りさんたちも、メルセデスちゃんのお口の中に入れて、わたしたちはメルセデスちゃんに深層の奥の奥まで運んでもらうのでした。

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