ムーンブルク王国異聞   作:すりーみにっつ

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 ムーンブルク王国はその昔、竜王を倒した勇者ロトがローレシア大陸に渡ったのちに作られた三か国のいわゆる「勇者三国」の一角である。
 ローレシア大陸とは海峡をへだてた中央大陸のへそにあたる部分に位置し、その国土の大半は森林に覆われている。南方には霊峰連なるロンダルキア山脈を望み、西方には島を挟んだ海峡。その先に砂漠。
 ムーンブルク王国の施政が及ぶ範囲は概ね西方海峡と南方のロンダルキア山脈に挟まれた地域である。

 ムーンブルク王家ゆかりのものが建設した都市群はその名に「ムーン」を冠している。
 ムーンペタ、ムーンコナム、ムーンセガ、ムーンクモテ、ムーンソフサントの5都市である。そのほかに無数の小町村、集落が点在し、ムーンブルク王国は隆盛を極めていた。
 
 世界は概ねの平和を保ってはいたが、いつの世も人心の乱れは尽きない。
 あるとき、邪な教えが徐々に広まっているという話が聞こえ始める。
 それから幾年か、世界中のあちこちに信者をひろめたその教団は、ハーゴンという男を教祖にし、ロンダルキア王国を攻め滅ぼした。

 これがおよそ40年前の出来事である。
 勇者三国及び、その周縁の都市国家群は連携し、ロンダルキア奪還を試みるが、ことごとく失敗する。
 峻険な地形とハーゴンの使役する魔物達は強力であった。
 
 かくて、ハーゴン教団はロンダルキアにその根拠地を構え、虎視眈々世界の制覇を狙っているという。

 しかしながらハーゴン教団の蠢動はそれ以後はぴたりとやみ、不気味な平和が訪れた。



炎上ムーンブルク城

 その日のムーンブルクは気持ちの良い快晴。

 何の変哲もない日がまた過ぎていくはずだった。

 ムーンブルク城の外砦第2望楼の見張りから報告が入るまでは。

 

「第2望楼から報告。西方海上に軍船及び、飛翔モンスター群多数。」

「どのくらいの規模だ。」

「空と海が三分、船とモンスターが七分」

 

そんな馬鹿なと兵士長が第2望楼に駆けつける。

そのころ、第5望楼では南東から攻め寄せるモンスター群を確認していた。

 

「南東方向?ムーンセガはどうなったのだ。」

ムーンセガはムーンブルク城から馬で3日の距離にある城塞都市であるが、このときすでにハーゴンの軍勢に滅ぼされていた。

ロンダルキア台地から密かに降り、集結したハーゴンの軍勢は夜半、一気呵成にムーンセガを攻め滅ぼした。平和になれきっていたムーンセガの警哨は警備を実体のないものにしており、その弛緩がハーゴンの軍勢に知られていたのだ。

 

ムーンブルク王にこの知らせが届いたころにはすでにムーンブルク城の外郭陣地が炎に包まれていた。

 

ムーンブルク王ニテンドは愛娘アイリンを連れ、脱出を画策するが、すでに城内にも魔物の尖兵が入り込んでいる始末。

歴戦の魔術家でもあるニテンドは自ら呪文を駆使し、ムーンブルク城の深奥に籠城するが、陥落は時間の問題である。

 

大臣閣僚にはすでに護衛をつけ、友邦への避難をさせている。しかし、ムーンブルクを再興させるためには王家の血が必要だ。

ニテンドはアイリンの目をまっすぐみつめ、言った。

 

「アイリンよ。余は城と運命を共にする。そうせねばならない。これが王族の定め。しかし、アイリン。そなたは逃げおおせ、ムーンブルク再興の旗頭となるのだ。」

「父上、王族の定め、理解しました。しかし。」

ニテンドがアイリンの肩越しにイオナズンを放ち、アイリンの体をかばう。

後ろの通路に大爆発がおき、乱入しようとした魔物が吹き飛んだ。

 

「父上、もうここも長くはありませぬ。母上は先ほどみまかられました。私も父上とご一緒します。」

「ならぬ。」

ムーンブルク王はそばに構える二人の男に告げた。

 

「ペセタ。アルマン。その方ら2名は、ムーンペタに行き、残余のムーンブルク勢を糾合し、ムーンブルク亡命政権を樹立するのだ。王の血筋のもの、大臣らも逃している。然るべきものを迎え、かならずやムーンブルクを奪還するのだ。」

 

ペセタは若くしてムーンブルク王家直属の武官長となった男である。ムーンペタ出身。

眉目秀麗、冷徹な判断力。秀でた武技。攻守そなえた呪文を使う戦士である。

そしてアルマン。この男こそは「勇者」と衆目言われる者である。

 

そもそもこの世界には長い歴史の中でたびたび「勇者」なるものが現れる。

特徴は、一国の軍事力に匹敵する固体戦闘能力である。

万人にひとり、いや一千万、一億に一人。この世界には尋常ならざる優秀な個体が現れる。

その多くは平和な時代に埋もれるが、乱世に巡り合った個体は「勇者」としてその時代の人類の敵を討つのだ。

 

さきほどペセタを優秀な戦士と紹介したが、それは人類平均では、の話である。

アルマンは違う。

まだ覚醒途上と見積もられているが、その膂力は10名の兵士でようやく相対する魔物をたった一人で引き裂き、邪悪な魔導士の呪文をかいくぐり、たちまちのうちに10数からなる敵を屠るのだ。

 

アルマンはペセタの腹心であり、その命令には絶対服従する。

ムーンペタの軍学校で先輩後輩だった時代からの仲である。

 

ニテンド「そなたら二人であれば単身ムーンペタにたどりつくのはたやすかろう。」

ペセタ「いえ、陛下、それとアイリン殿下をお連れしなければ。」

ニテンド「ならん。我ら二人を連れて行くならば、そなたら二人をもってしてもムーンペタにたどり着けるかどうか。」

アルマン「しかし、それでは。」

 

心配いらぬ。とニテンドはアイリンの頭をなで、ペセタの知らない呪文を唱えた。

するとどうだろうか、アイリンはたちまちのうちに犬になってしまった。

 

ペセタ「な、なんという。」

 

ニテンド「アイリンは犬にした。王家の宝物ラーの鏡に映せば元に戻るが、逆に言えばそれ以外に戻す方法はない。」

 

アルマン「アイリン殿下は、その姿で・・・」

 

ニテンドは犬の姿に身をやつしたアイリンを放ち、ムーンペタに行かせるという。

それならば王女の姿を血眼で探すハーゴン軍の目もあざむけよう。

ペセタとアルマンは、ムーンペタにてアイリンを確保し、元の姿に戻し、ムーンブルク再興政府を立ち上げるのだ。

 

兵士と魔物の喚声はどんどん近づいてくる。

 

ペセタ「かならずや、かならずや、陛下!」

ニテンド「もはや議論は許さぬ。余がここで食い止めているうちにペセタ、アルマン。アイリンを連れていくのだ。」

 

ペセタとアルマンは犬のアイリンをかかえ、男泣きに泣き、国王に、ムーンブルク国家に詫びながらムーンブルク城を脱出した。

 

城郭をみわたす通路、あちこちで小戦闘が繰り広げられている。

もはや彼らを助ける術はない。

ペセタとアルマンは犬のアイリンとともに、行く先々の魔物を斬り伏せ、あるいは呪文で焼き、吹き飛ばし、命からがら城を出た。

目指すは北東。ベルタ湖畔をぬけ、母なるルナトル川にかかるムーンペタ大橋を渡ればムーンペタ。

 

その時、アイリンを抱えていたペセタが唐突にアイリンを放った。

アルマン「ペセタ殿、どうされましたか。」

アルマンがアイリンを抱えに行こうとするのをペセタが制止する。

アルマンはその意図を察した。

 

ベリアルがいた。

 

すでに夕暮れ近い。二人は知らず、ハーゴン軍本営近くに寄ってしまっていたのだ。

 

抜刀し、距離をとる二人。

しかし以外にもベリアルは一瞥をくれてそっぽを向いた。

 

「逃してやれ。今の俺は機嫌が良い。」

ベリアルの側近たちも戦いの構えを解き、二人を放置した。

 

しばし脂汗をながし、かたまっていたが、おそるおそる後ずさり、脱兎のごとく駆けだす。

 

そしてあたりを探すが、アイリンの姿はなかった。

 

翌朝、日が昇るころ、二人はムーンペタにたどり着いた。

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