アレフガルドで竜王が覇を唱えていた時代にはすでにペタという都市国家として周囲の小町村を従える勢力であった。
時は流れ、ロトの血筋の者がムーンペタに入城する。
隆盛していたペタはこれを機に、一気にその勢力を拡大させる。
現代のムーンブルク領はこの時おおむね確定するのだが、この広大な地域を統べるにはペタは狭すぎ、また交通の便に恵まれなかった。
ペタの人々は南西の平野に城郭を築き、ペタの首邑となした。
こうして出来たのがムーンブルク王国である。
現在に伝えられる話はこうなっているが、必ずしも平和裏にことが進んだわけではない。
ロトの血統を迎えたペタ人たちはかなり手荒に勢力を拡大したという。
そしてその血塗られた古都ムーンペタは混乱の極みにあった。
ペセタはムーンペタ町長トルコールに詰め寄る。
「それではムーンペタはこれ以上、力を貸せないと。」
トルコール「やむを得ないのです。昨今ムーンペタは経済低迷、ハーゴン教団の者と思われる邪教のはびこり、治安の悪化。ムーンブルクの方々もそれは承知であったはず。」
ペセタは腕組みをしてうーんと唸る。
アルマン「しかし町長殿、一刻の猶予もないのですぞ。ムーンブルク城を攻め落とした敵が次に狙うのはここ、ムーンペタなのでは。」
ムーンペタの兵士長が説明する。
「数日前に奇襲をかけたハーゴン軍は召喚魔獣ベリアルを軍団長としたおよそ8000。
物見の報告を総合したところ、兵站が続かぬためか、すでに撤収をはじめております。」
アルマン「なに、すでに撤収を?」
兵士長「ただし、我らが手出し困難な程度の兵力は残していると思われます。」
ペセタ「だろうな。」
ペセタの脳裏にはベリアルの前で放し、行方知れずとなったアイリン姫があった。
アイリンの事は自分とアルマンしか知らない。
これをムーンペタに伝えるか否か。
伝えれば、そして信じてくれればだが、町中の犬が見分されるだろう。
各家庭で飼っているものは除くとしても、町中、周辺の野犬をとなるとかなりの数となる。
アイリン姫殿下は肩幅ほどの白犬であったが、それに限ったところで、何頭となるか。
しかも、ムーンペタにはハーゴンの眷属がなす邪教の信徒も少なからずいるという。
もしアイリン姫殿下のことが市井に知られれば、かの信徒どもは白い犬を殺してまわることであろう。
いや、捕えて交渉に使ってくるやもしれぬ。
いかにベリアルにばれぬためとはいえ、あそこで放ったのは痛恨事であった。
「町長殿、人心が問題であると。」
「さようにございます。ただでさえ麻のごとく乱れたペタの住民たちですが、ムーンブルク王家が滅んでしまったと聞き、いまや暴動寸前と言わざるを得ません。」
「実は、生きておられるのです。」
町長「はて、遠縁の方々が生き延びたとは聞いておりますが。遠縁ではいささか。」
「ムーンブルク王家第1王女アイリン姫殿下です。」
「なんと!」
アルマンが犬を連れてきた。
ペセタ「我らはムーンブルク王に最後までつき従い、最後の命令を受けました。」
ペセタは国王の元を離れ、ベリアルに会うまでの流れを説明した。
「ベリアルの追撃をなんとかかわし、私とアルマンはアイリン姫とともに命からがらムーンペタにたどり着いたというわけです。」
町長「なんと、なんと。ムーンブルク王が魔術の大家とは存じ上げていましたが、変化の魔法まで使われるとは。確か、ラ―の鏡でなければ元に戻らぬと伺いましたが。」
ペセタ「そうなのです。しかし、人望厚いトルコール町長ならば、かならずやアイリン姫殿下のことをペタ市民に納得させることができましょう。」
町長「しかし」
アルマン「町長閣下、御心配には及びませぬ。これをご覧ください。」
アルマンは犬の首輪を見せた。首輪にはムーンブルク王家の家宝である宝玉が埋め込まれていた。
町長「まさにまさに!」
ペセタ「信じていただけたようで何よりです。町長閣下。」
町長「さっそく町議会を招集し、ムーンブルク亡命政権受け入れの動議を発することにします。」
ペセタとアルマンは顔をあわせて微笑んだ。
「町長閣下、頼みます。」
町長「任せてください。ムーンブルクは我らの国です。しかしアイリン姫殿下、おいたわしや。犬にみをやつすとは。それもやせたぶち犬などに・・・」
翌日、ムーンペタ議会はムーンブルク亡命政権樹立を満場一致で採択した。