ムーンブルク王国異聞   作:すりーみにっつ

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犬は駆けていく

勇者三国連合軍は日昇とともに進軍を開始した。

第1トナガル線を進発し、ベリアル軍の小陣地を粉砕しつつ進むその陣容はあたかも巨大な粉砕機のようであった。

 

ペセタ、ザナミド達の控える本陣に次々とベリアル軍陣地攻略の報告が舞い込む。

聞きなれた地名を耳にするムーンブルク出身者たちは感無量である。

 

ふと、ペセタは不安を覚えた。

いくらなんでも抵抗が弱すぎるのではないか。

 

捷報に沸く本陣。言葉には出せない不安。士気にかかわる。

しかし嫌な予感がする。

事前に参謀将校たちと練った作戦計画の4割増しの進軍速度。

 

ザナミドも同じことは感じていた。

-罠ではないか-

それとも。ただ単に我々がベリアル軍の戦力を高く評価しすぎていたか。

 

各部隊は午後、太陽が南中したころには夕方までに到着すべき線に到達していた。

 

この推移であれば、ベリアル軍の出方次第ではあるものの、定石のうごきをとれば会戦が発生する。

ペセタとザナミドは急遽、予備隊を再編成し、魔術部隊と騎馬部隊の抽出を行った。

ベリアル軍が討って出てくるならばこの機しかない。

半端な時間に出てくれば、態勢をとるまえに陣をかまえた連合軍に粉砕されてしまうからだ。

 

ザナミド「ペセタ首班。手筈通りムーンブルク主力は中央と左翼及び魔術騎馬による迂回。我らは右翼でベリアルを抑えます。」

ペセタ「予備隊は都市連合。手筈通りですな。」

二人は固い握手を交わし、馬でそれぞれの持ち場に駆けていく。

 

ペセタ・ザナミド

-おかしい。すべてが上手くいきすぎている-

二人は一抹の不安を抱え、持ち場についた。

 

ペセタの元に伝令が入れ替わり立ち代わりやってくる。

その都度下知を飛ばし、部隊はどんどん陣容を整えていく。

「報告します、首班!犬がさらわれました。」

「犬がどうした。」

ペセタは軍扇をおとした。

「まさか、アイリン女王陛下がか!さらわれたのか!」

「ちがいます。そうではなく、軍犬訓練所にやってきた謎の若者ふたりが一匹の犬を強奪していったのです!」

ペセタは一瞬混乱した。思考を整理する。

 

俺は一昨日の夜更け、養犬所の全殺処分をアルマンに命じた。

そこから伝令を飛ばせば翌朝未明、遅くとも朝食までには到着する。

訓練所長はムーンペタの予備隊の者だ。たしか武器防具商会の役員の男だった。

当然我ら子飼いの部下ではない。何かにつけサボタージュするムーンペタの民間団体出身であるから、素直に殺処分に応じるとは思えない。まるで無視はできないだろうが、なんだかんだと理屈をつけては殺処分を遅らせていたことは予想に難くない。

 

若者二人による強奪。それはおそらくその間に起きたことだろう。

 

なぜ、どうして。

 

アルマンが言っていたラ―の鏡を見つけたとおぼしき若者。その時は人数を聞かなかったが、おそらく同一人物だろう。二人いたのだ。

 

一匹の犬を?なぜ一匹?

その若者はもしやベリアルの特殊部隊。人間に化けた魔導士あたりではないか。

 

どこかで白い犬だとばれたか。

どこで

 

ペセタはムーンブルクから脱出した日の事を思い出した。

ベリアルに捨て置かれ、九死に一生を得たあの屈辱を。

確か、あのとき俺はとっさにアイリン王女を放った。ベリアル達にばれてはならなかったから。しかし、見られていた。

きっと。

おそらくベリアルの側近。あの場にならんでいた魔導士あたりの人間型ではないか。

奴らは魔術に長ける。犬に姿を変えられた王女。なんらかの魔術を探知した可能性はある。

 

 

ペセタは結論を出した。

 

「問題ない。」

 

伝令は去って行った。

 

アルマンが耳ざとく、聞きつけたのか、駆けつけてきた。

「ペセタ首班。俺の出番か。」

「頼めるか。」

「その二人をやればいいんだな。」

 

ペセタは逡巡する。仮にもアルマンはムーンブルクの勇者である。

突破力として、いざという時の要人警護として、最終的にはハーゴン討伐の要員として。

そう期待されている男である。それを、避けえないこととはいえ、薄汚いこの殺人。そう、あえて言葉を選ばない。殺人だ、これは。

その殺人を、俺は命じていいのか。

 

いや

 

何をいまさら。その若者とやらが「このお方が真のアイリン姫です。」と真の女王を連れてきたならば躊躇せずもろとも抹殺するつもりであったではないか。

 

ニテンド王、ニテンド王。

どこにおわす。我に指示を!

ペセタは声をわずかに震わせ、アルマンに命じた。

「二人を抹殺せよ。これは勝ち戦だが、その二人を生かしておいては。いやハッキリ言おう!アルマン!「白い犬」もろとも抹殺してくれ。」

アルマンもまた逡巡していたが、応じた。

 

アルマン「ムーンブルクのために。」

ペセタ「ムーンブルクのために。」

 

刹那!

伝令が転がり込むように二人の間に割って入ってきた。

「報告!報告!緊急!」

「どうした。」ペセタはわざと悠長に構える。

 

「後背にベリアル主力!ベリアル本体も確認。後方の予備隊はすでに全滅しました。」

 

「ベリアルはロンダルキア台地に戻ったのではなかったのか。」

「そうかもしれませんが、現実に確認されました。」

 

「規模は。」

「およそ3000!その主力はガーゴイルなれど、ギガンテス、オークの有力な部隊が確認されています。」

 

ペセタは天を仰ぐ。

アルマン「私の出番ですね。」

 

ペセタ「アルマン。二人の若者は後回しだ。頼む。」

アルマン「でもアンタは大将だ。下がらなければ。」

ペセタ「命令だ。俺はここで死ぬ。生きている資格がないからな。」

 

アルマンはフンと鼻を鳴らし、踵を返すが、そこに矢が飛んできた。

ペセタとアルマンはかわせたが、伝令は顔に矢が刺さり、しばらくのたうち回り動かなくなった。

 

ペセタ「なるほど、容赦がないな。」

 

小部隊だろうが、すでに回り込まれてもいるようだ。

 

もう肉眼で見える位置にガーゴイルらの軍隊、そして巨人族や獣人族の部隊が迫るのが見える。

最後尾にいるのはベリアルだ。

 

肩と腰に矢を受けた伝令が飛び込んでくる。

「ザナミド将軍戦死!」

 

ペセタはいよいよ覚悟を決める。

 

ここまで

ここまで薄汚い真似をしながら、結末はこうか。

ムーンブルク城陥落からこのかた、どれだけ人の道を踏み外してきただろうか。

よかろう。

 

「保衛隊集合!」

ペセタら、首脳を直接守衛する部隊が集まる。

 

ペセタ

「諸君ら、見えるか。敵将ベリアルが。我らムーンブルクを土足で踏みにじり、国王、皇后を害し、ならびにアイリン女王に塗炭の苦しみをあたえた我らが仇敵だ。」

 

アルマン

「やることは一つだ。俺が斬りこむ。ベリアルまでの血路は開く。」

 

ペセタ「アルマンについていけるやつはいるか!」

保衛隊は全員が応!と叫ぶ。

 

ペセタとアルマンはそれぞれ戦力計算をした。

ガーゴイルの数、ギガンテスの数、位置。オークはどうか。

アルマンならば、とも思うが、それでもあの分厚い陣は抜けられるかどうか。

 

アルマンはまた少し違った計算をしていた。

-ペセタを逃すには-

細かい指示を出すことは、事ここに至っては不可能。

保衛隊を誘導し、斬り込む。ある程度のタイミングで昂っているペセタを、今では後背となってしまった前衛の方陣に送り返す。回り込んでいる敵は少数だ。

 

それからは乱戦だった。ガーゴイルとギガンテス、オークと斬り結ぶこと幾たびか。

刃はこぼれ、防具は粉砕され、血塗れになり。

アルマンはこれぞ勇者なるかという働きを見せるが、衆寡敵せず。

ついに包囲されてしまう。

 

せまる方陣のガーゴイルたち。空を飛ばず、台地を踏みしめ、にじりよってくる。

左右にはオークとギガンテス。

 

ペセタとアルマン、4人にまで減った保衛隊は背中合わせに小さな陣を作った。

 

一匹の犬が駆けて行った。

「アイリン女王」だ。

だれかが首輪を外し、解き放ったのだ。

ベリアル軍は誰も気にしない。

 

ペセタ達は「あはは」とだけ笑った。

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