虚飾の権能を持ってTS転生した上で英霊として召喚されましたが、マスターが可愛いので満足です 作:プラチナムウィッチ
「メイド服はどこで売っているのか知っていますか?」
「知らないわよ、そんなの。その辺りの服屋で売ってるんじゃない?」
凛がそう言うので、新都を探してみたが、ペラペラで露出多めのコスプレ用みたいなものしかなかった。まぁ、それも買ったのだが、やっぱり本格的なやつも欲しいので色んな店を回った。
そして、最後の希望として入った古着屋でしっかりとした生地の本格的なメイド服を見つけた。それも一着だけではなく、数着。
「やっと見つけたわね…………」
「ええ。早速試着させていただきましょう」
凛は随分と疲れた様子だが、メイド服のためだ。仕方ない。
「ではイリヤスフィール。どの道買いますし、大きくても後で合わせれば良いだけですが、一度着てみてください」
「……分かったわよ」
恐らく大人用なのでイリヤスフィールの身体には大きいが、大きい分には調整出来るはずなので良しとして。まぁ、俺は裁縫とか学校の授業でやった以来なのでほとんど出来ないが。自分で着る服だし、イリヤスフィールに頑張ってもらおう。
試着室で着替えたイリヤスフィールは、大きな服に着られているような状態だったが、可愛いから良し。
「では、これを買って帰りましょうか」
「やっと帰れるわ……」
「随分とお疲れの様子ですね」
「誰のせいよ! 誰の!」
古着屋を出ると、既に日は暮れていた。
今日一日、凛には学校を休んで付き合ってもらった。明日はちゃんと学校に行けるようにイリヤスフィールの面倒は私が見てあげないといけない。
イリヤスフィールが着る服なので、買い物袋は自分で持たせて、凛と話しながら屋敷へと戻る。
「あれ? こんな時間に会うなんて珍しいね、遠坂」
すると、凛の知り合いらしき女の子と遭遇した。
「あら、美綴さん。こんばんは」
「こんばんは。そっちの子たちは?」
肩の上ぐらいまでの茶髪の、可愛いというよりは美人系。
可愛い系の方が好みではあるが、美人系とは言っても凛と同年代ぐらい。可愛らしさも兼ね備えているように見える。ふとした時にギャップを見せてくれそう。
「あー……何と言えばいいのか……」
「遠い親戚のようなものです。縁あって、今は凛の家に居候をさせて頂いています」
凛が言い淀んでいたので、代わりに答えてあげた。
親戚ではないが、魂で繋がっているので親戚
「ちょっとアーチャー……」
「アーチャー? 変わった名前……に聞こえるけど、外国だと普通だったりするのかな」
どうだろう。海外には詳しくないが、アーチャーという名前の人もいるんだろうか。勝手な予想で言うと、あんまりいなさそう。
「いえ、コードネームのようなものです」
「へぇ……遠坂もそういうのするんだ」
ニヤリとした視線が凛へ向けられる。凛は頬を赤くして何か言いたげにしたものの、サーヴァントのクラス名はコードネームそのものだ。ぐぬぬ、と黙った。
「ちなみに凛のコードネームはマスターで、彼女はメイドです」
「マスターにメイドねぇ……」
ニヤニヤという効果音が聞こえてきそう。結構仲が良いのだろうか。
「日本語上手いね。アーチャーって事は弓を嗜んでたり?」
「いえ、残念ながら。日本語は頑張って勉強しましたが、弓には触れる機会がなく。気にはなっているのですが」
「そっか。ウチの高校にいたら弓道部でいくらでも触れるんだけどね」
「それは、とても魅力的ですね」
明日からは凛がちゃんと学校に行けるようにイリヤスフィールの面倒を見ておこうかと考えたが、学校に付いていきたくなってきた。というか、生徒として混ざろうかな?
「もう夜だし、長話は良くないわよね。それじゃあ、美綴さん。また明日」
「話を切り上げようとしすぎでは?」
まぁ、この身はサーヴァントという超常現象であるからして、一般人にはあまり関わらせたくないというのは分からなくはないが。
「それもそっか。じゃ、また明日。おやすみ」
と、凛に美綴さんと呼ばれた少女は手を振って違う方向へと歩いていこうとした。
……あ。
「凛、向こうから……アレの気配が」
一応サーヴァントという単語は出さずに凛に伝える。
向こうからサーヴァントの気配が近付いてきていた。目の前の女の子との会話に集中していて全然気付かなかった。
「言うのが遅いわよ……!」
小声で怒鳴るという器用な真似をする凛を横目に、その方向へと目を向ける。
「美綴さん。もう少しだけ話しませんか?」
「え?」
「あなたと仲良くなりたいのです。さあ、こちらに」
凛の友だちみたいだし、このままだとサーヴァントと正面衝突なので呼び戻す。何かあっても権能でどうにでもなるが、この方が凛の心象も良いだろうし。
「そんな事言って、遠坂に怒られない?」
「ええ。私たちはとても仲が良いですから」
さて、と近付いてくるサーヴァントの気配を見る。
今まで見た事がサーヴァントはランサーとセイバー、あとはバーサーカー。全部で7人いるらしいから、俺を除いて半分とは既に遭遇した事になるが、そのどれとも気配が違う気がする。
「……誰かと思えば。そんなに堂々と姿を現して、随分と余裕なのね。間桐慎二くん」
現れたのは凛と同年代ぐらいの男とサーヴァントの女。サーヴァントの方は目隠しみたいなものをつけていて、明らかに只者ではないというのが分かる。只者じゃないレベルで言えば、バーサーカーの方がよっぽどではあったが。
「なんだ、遠坂か。それ、お前のサーヴァントだろ? 戦わせて、どっちが上か決めようじゃないか! 安心しなよ。どうしてもって、泣いて謝るならちょっと痛い目をみるぐらいで許してあげるからさ!」
「呆れた……一般人もいる場で。アーチャー、なんとか出来る?」
「そうですね。後で、見なかった事にしてもらいましょうか」
聖杯戦争、というより魔術関係は一般人には知られてはいけない。そう決まっているらしいので、美綴さんという一般人がいるこの状況は好ましいものではない。
ただ、最終的に知られていない事にするのは容易なので、そこまで大きな問題ではない。
「一体何の話を……」
美綴さんは一人話についていけていないが、それも仕方ない。フォローしてあげたいところだが、そんな事をしている間に相手のサーヴァントが襲いかかってきそうだ。
「知り合いのようですが、前回と同じように対処しても?」
「……そうね」
前回というのはバーサーカー戦の事だ。
まぁ、同じように以外の戦い方をしろと言われてもアレなのだが。
前に出て、凛たちを庇うように立ってみる。
「やれ! ライダー!」
両手に先が尖った棒を出現させて、ライダーと呼ばれた女性が突っ込んでくる。そのまま棒立ちしてみれば、やはりというべきか攻撃方法はその杭のような棒の突き刺しらしい。
「いいぞライダー! そのまま──」
とりあえず攻撃されたのをなかった事にして、ライダーの背後、マスターの男の方に移動する。
「はぁ!? なんで、今……!」
「聖杯戦争では、マスターを狙う方が確実」
「なっ、く、来るな! ライダー! 早く殺せ!」
背後から振るわれた杭の先端がこめかみのあたりに突き刺さった。容赦がない。
再びなかった事にして、敵マスターの方へと歩みを進める。
「周りを見て攻撃しないと危ないですよ」
と、攻撃を続けているライダーに忠告して、その直後に俺と敵マスターを見間違えさせた。
まぁ、周りを見たところで意味ないんだけどね。
「は──?」
ライダーの杭は敵マスターの腹のあたりに突き刺さった。
「ああ……心配した通りになってしまいましたね」
「あ、ああ、あああ……! なん、で……ライダー……!!」
ライダーは敵マスターから杭を抜いて呆然と立っている。敵マスターはその場に崩れ落ちた。
「うぅぅ……! いぃ……! た、たすげろよぉ……!!」
ちょっと可哀想。ライダーが中途半端な攻撃をするから痛い思いをしているのだろう。
バーサーカーは一撃一撃がオーバーキルだったからイリヤスフィールもそんなに苦しまなかったかもしれないが、この様子だと長く苦しむ事になりそうだ。
「何やってるんだよ、お前ら! 大丈夫か! すぐ救急車を……!」
何も知らない美綴さんが敵マスターの方に駆け寄る。
残念ながら、救急車を呼ばれたりすると困る。
というか、俺の事は心配してくれないのね? ライダーに攻撃されて派手に血をぶちまけたりしたのに。
「少し、眠っていてくださいね」
美綴さんの耳元でつぶやき、気絶させる。
敵マスターである間桐慎二は腹部からの出血で少しすれば死んでしまうだろう。
そしてライダーはようやく正気に戻ったのか、間桐慎二の身体を抱き上げて、サーヴァントらしい超人的な跳躍力でこの場を去った。
まぁ、逃さないんだが。
『間桐慎二とライダーはこの場を去っていない』という事にしてしまえば逃げたって無駄だ。
間桐慎二を抱えた状態で目の前に出現したライダーは、俺をどうにかしなければならないと理解したのだろう。間桐慎二を地面に置いて、攻撃を仕掛けてくる。
やられては、なかった事にし。やられては、なかった事にし。
何度も繰り返して、違和感を覚えた。
「マスターが亡くなったというのに、一向に消滅する気配がありませんね」
既に間桐慎二は出血多量か何かで死んでいた。後で生き返らせてあげれば良いだけの話だから、その事自体は良いのだが。
マスターが死んでも消滅しないとなると話が変わってくる。
確かに、俺だってマスターがいなくても問題ない。丸々同じ権能を持っているのはさすがにないとしても、消滅を免れる能力を持っている可能性はある。
「どうしましょうか。前提が変わってしまいました」
「そうね。一度仕切り直すわ。元に戻して」
「了解しました。『私たちはまだ戦い始めていない』という事に。記憶は保ったままにしていますが、消した方が良いでしょうか?」
「いいわ、このままで」
つい先ほど、遭遇したばかりの瞬間のように間桐慎二とライダーが立っている。話がややこしくなるので、美綴さんは気絶させたままだ。
「は……!? はあ……!? なんなんだよ、今の……!! お、お前がやったのか!!」
「おや、何やら勘違いをしているようですね。『私がライダーに何度も殺されてしまったのも、あなたがライダーに刺されて死んでしまったのも、全て勘違い』ではありませんか」
「勘違い!? ふ、ふざけるな!!」
間桐慎二はこっちに向かってまくし立ててくる。
まぁ、俺のように権能で痛みを誤魔化すとかは出来ないだろうし、文字通り死ぬような体験をしたのだから、気持ちは分かるが。
「何をそんなに怒っているのですか? たとえその体験が本当だったとしても、あなたは今傷一つなくそこに立っているではありませんか。何を憤る事があるのでしょう。そもそも、私だって何度もライダーに殺されてしまったのですから、お相子では?」
本心から怒る理由がないと思っている訳ではないが、この方が魔女っぽいだろう。
「黙れバケモノ!! サーヴァントが死ぬなんて、聖杯戦争なんだから当然だろ!」
「ええ、確かにそうですね。聖杯戦争では、サーヴァントが死ぬなど日常茶飯事なのでしょう。ですが、それはマスターも同じこと」
そう言いながら、間桐慎二の方へと歩みを進める。
「ら、ライダー! あいつを殺せ!!」
うーん、お馬鹿ちゃん。
冷静さを失っていたイリヤスフィールの時よりもちゃんと話せているのに、結局同じような事の繰り返しになっている。
一瞬、躊躇ったように見えたが、ライダーも命令に従って攻撃を仕掛けてくる。
バーサーカーと違って理性はありそうだし、なんで自分でマスターを刺してしまう事になったのかぐらいは教えてあげても良いんじゃないかな? あの様子だと、適当に攻撃しても自分に跳ね返ってくるって分かってないんじゃないだろうか。
あんまり仲良くないのかな?
間桐慎二の方へ一歩ずつ近付いていき、適当なところでまたライダーに見間違えさせた。
「ああ、可哀想に」
今度は間桐慎二の頭に杭が突き刺さった。
痛そう……。
あ。思わずやってしまったが、マスターが死んでもライダーは消えないから意味ないんだった。
間桐慎二にライダーの攻撃が当たった事も見間違えにしつつ、頭の傷が消えた間桐慎二の目の前に立つ。
「ひっ……!」
「さて、どうしましょうか。私としては、あなたが満足するまで何度でも繰り返して構いませんが」
「ら、ライダー! 撤退! 撤退するぞ!」
ライダーが間桐慎二をひったくるように抱えて跳び去っていった。
「連れ戻しましょうか?」
「必要ないわ。腰抜けに用はないもの」
そういう事になったので、美綴さんとはライダーたちと遭遇する直前までの記憶を残して、雑談だけして帰ったという事にして、屋敷に戻った。
さっきから屋敷に戻るまでのイリヤスフィールの発言回数、なんとゼロ。もうちょっと喋ろう? こっちも凛と話すのに集中して話しかけなかったけども。
◆
翌日。
今日は学校に行くという事で、凛はイリヤスフィールが淹れた紅茶を飲んで用意をしている。
「……パンが焼けたわ」
「ええ、ありがとうございます」
凛は紅茶だけで良いと言うが、俺はそれだと物足りないのでパンを焼いてもらった。その身には調整されたメイド服を纏っている。
昨日の夜、最初はイリヤスフィールに自分でやってもらおうと思ったのだが、裁縫をした事がないらしく、不格好も不格好。仕方ないので代わりにやってあげようとしたら、家庭科で習っただけの波縫い技術では縫う事は出来てもどこをどう縫えば良いのか分からず、めちゃくちゃバランスが悪い感じになってしまった。
なので、最終的に凛がやってくれました。
で、そうそう。学校。
イリヤスフィールがいるし、日中は面倒を見ておこうかと思ったものの、よくよく考えてみるとその必要なんて全くない事に気が付いた。
もし留守にしている間に逃げても逃げた事実をなかった事にすれば良いし、イリヤスフィールにも一人で過ごせる時間はあった方が良いだろう。気遣いが出来る魔女なので、ちゃんと労働環境の事も考えているのです。
という事で、学校。
霊体化してついていくだけなのは面白くないので、わたくしも生徒として学校に行きたいと思います。
凛の制服を借りて、穂群原学園の生徒になりきって準備完了。
凛? 凛には色々と言われたけど、最終的に「どうせ止めてもやるんでしょ……好きにして」とお許しをもらったので。
「それでは行ってきます。良い子にして待っていてくださいね」
「やめ……て……」
イリヤスフィールに行ってきますのハグをして、凛と共に屋敷を出た。
「靴は?」
「凛に掛けてもらった魔術が効いていますので」
「わたしはとっくに解いてるっていうのにね。下着は?」
「絆創膏を貼っています」
「はぁ……もうそれで良いわ」
制服姿ではあるが、極限まで薄着にしている。
足元から目線を逸らさせる凛の魔術を、凛が止めてもまだ止めていないという事にして、凛側は何もしていないのに魔術が残っているという状態をキープしている。
下着は絆創膏で代用。ちょっとでも身に纏う布を少なくしている。
「じゃあ、行くわよ。プラティナ?」
さすがに名前をアーチャーで通すのもどうかとなったので、学校で使う名前も考えた。
プラティナ・ブルーホワイト。
白金、青色、白色という『虚飾の魔女』のイメージカラーをそのまま落とし込んだのだ。プラチナではなくプラティナなのは、プラチナだとプラチナ感(?)が強すぎるため。
出身はイリヤスフィールと同じドイツという事にした。ドイツ語とかを聞かれたら権能で誤魔化す。
「ええ。行きましょう、凛」
留学生という設定でいこうと思っている。権能で教師に留学生だと思わせれば、他の生徒は疑わないだろうし。
弓道部に行ってみようかな、なんて考えながら凛と二人で学校を目指した。
○パンドラ
男には興味がない。
必殺『見間違えアタック』:仮に生き残ってもマスターにサーヴァントから攻撃されたという記憶を残し、信頼関係にヒビを入れるという追加効果がある。
美綴の言葉を真に受けて弓道部に顔を出そうとしている。
○遠坂凛
普通に目の前で慎二が死んでいるが、目の前でバンバン死んでは復活するパンドラの権能のせいで感覚が麻痺しているので、取り乱す様子もない。
何でもそつなくこなすので、メイド服の裾上げもやってあげた。
○間桐慎二
遭遇したのがパンドラであったために、文字通り死ぬ経験をしてしまった。しかし、男だった事でメイド第二号にならずに済んだ。トラウマはしっかり貰ったが。
パンドラから逃げた後、ライダーに刺されたという事を思い出してひと悶着あった。
これからも一緒に戦えたらいいね。信頼関係はちゃんと築けるかな?byパンドラ