サツマッチュ転生~地元の島では嫌われている(ファンタジー要素ありIF世界の)島津の戦国四兄弟にあまみんちゅ要素あり竜人として+1されました~ 作:oosima
○皇紀2213年・天文22年(西暦1553年) 日本
「…さてと、ここなら周りの者達には聞こえぬし、けれども何かあったらすぐに見張りの者達を助けに呼べるしで、落ち着いて話せることだけでも話そうか…」
「…は、はい…」
義久の転生者という身元暴露発言より十分後、名護丸は先ほどとは別の緊張に襲われて、硝石工場の一角にある望楼の上へ彼に呼ばれて二人きりとなっていた。
「…その強張り方ー、私の
「…その言い方ー、前世ではー…平和な時とそうじゃない時のどっちも経験したようにもー…、また転生とかそういうのは一度目じゃないって感じにも聞こえますねー…」
「…やはり聡く、それでいて傲慢になりづらい子だな。今の所は良い意味で…」
緊張しつつも悪くない意味での安堵も徐々に深まっていくのを感じ合うと、二人はやがて各々の覚えている限りの記憶を自然と口にしていく。
「…まさかー、
「それで二次大戦後に東西冷戦のせいで日本分割が現実になった道での20世紀末に起きた、北の恐ろしい赤熊の国の崩壊に伴う、北海道と東北が領域の東側日本の併合に伴う混乱に巻き込まれたのう…」
「…それで家族が爆破事件で死んでそれから統一後の山盛りの復興事業の果てに過労死…。それが一度目じゃー二度目の人生にあたる前世では使える権力を何でもかんでも使って、鹿児島から今度こそ日本を良い意味で変えようって気になりますよー…」
「…その結果、そなたの前世における領内…特にその故郷である奄美などはー当時“黒糖地獄”とか“蘇鉄地獄”と呼ばれる…こちらが耳にすれば痛い時を過ごさせる羽目になったがな…」
「…いやねぇ、何処かの“小さい言うな!”が口癖な小豆みたいな錬金術師みたいに耳に痛いことを言い続ける図太さも度胸もないですよ」
数十分後、お互いの身の内を憶えている限りの範囲内で打ち明けあった義久と名護丸は大分打ち解け合うようになっていた。
「それ以上にそなたは優しいな」
「…いや、どっちかというと僕は生まれ育った時代がすごく豊かになってて、地元がめっちゃ貧しくて黒糖やら蘇鉄やら占領やらで苦しんでいたなんてのは爺さん婆さん達の話でしか知らないんでー…」
「父の顔も知らぬ後で生まれた息子に母が父の仇を教えながらその仇討ちを命じるのが美談なこの時代の者からすれば信じられんだろうな。
「まー、庶子の身の僕じゃ嫡子にして将来主君になる兄上に生意気を言える立場じゃないってのが第一なだけでー…」
「自らの弱さを認められるのはそなたが考えている以上に周りには難しいものだ」
「まあ、前の人生でそういうのを一番言ってほしくない人にめっちゃ悪い意味で言われまくったことが多いだけでー…そういうのはあまり言いたくないというか―…」
「いや、そういう賢くも自分の向き不向きや限界を冷静に見極められる人材というのは多くはいないから貴重なのだ…」
次第に会話にはお互いの身の上、前世と現世の価値観の違いも交えて砕けた会話もできるようになっていった。
「…それで兄上、僕もこれから昨日の宴会に用いられた食材のように影から島津を支えていくべく動くのが本格的になりますがー…兄上は島津をどのようにしていくおつもりですか?」
故に、次代の島津家当主となる長兄義久に名護丸がその問いを再び緊張した面持ちで投げかけるのは当然であった。
この時代、二人の前世の記憶における戦国史と細やかな違いはあれど、歴史の流れにおいては類似点も多くあったのだ。
それなら転生系チートなんぞ覆せるだろう史実系の天然チート級要注意人物も、もしくは転生系でありつつもこの時代での素養も強く持つハイブリッド型チートがいるのが自然と考えるべきである。
その状況で、義久がどのような方針を取るかで自分も含めた島津家の運命は左右されるのである。
「…そうだな。まずはそなたの前世からの故郷である奄美も含めた島津家領内を富ませるため、そなたの知識も含めて役立つそれらをなるべく多く集め研鑽していき、それで増えた力で領地も増やすことで恩恵を預かれる者達も増やしていく」
「やはり―、貴方の
「ああ、どのような大義を掲げても理由があろうとも、戦そのものは凶事だ。だが、今のこの日本の状況を思えば…今更この身を凶事と矛盾から離す術は全てを見捨てて逃げるほかないな」
「それすると僕みたいなろくな力を持たない人が弱い順に早く惨く死ぬ確率が爆増するので止めてください!」
「それはわかっているからそこまで怯えなくてよい」
「…まー弱い順に割を食わされる人が出る可能性はどうせ無くなりはしませんけど…」
「そなたは本当に根は怜悧かつ達観しているなー…」
名護丸はそのためなるべく落ち着こうとしつつも所々でビビリを隠しきれなくなるが、それが義久には清涼剤も兼ねた思考へのアクセントとなっていた。
「…逃げたらもっと酷いことになるのがわかっている以上、もう結んではいるが商いを通じてあの
「造船を盛んにして航海術も御身含めてあれだけ学んでいたのもそのためですか…」
「その天下取りを後押ししつつも並行して貿易と開発の利も生かして九州平定も進めて、あの三人の下でその政治にも関与できる確固とした地位を築いていく」
「そうするなら早めにした方が良いですね」
「日本が前や前々の生の時みたいにならないよう”開かれて歩みが留まらない国”に持って行けば、少なくとも前々や前の同じ時代よりかはマシな国へなっていくだろう…」
故に、遠くを見据えた表情で義久が述べたその結論に、名護丸は堅実さを覚えてこの人に任せても大丈夫という安堵と同時に、この人と共にその未来を見ていきたいという昂揚を覚えていく。
「…いやー、これが戦国系架空戦記の読者ならー“えー? 前世知識持ち転生系主人公なんだから天下取り目指してあの東海道の三人とやり合う場面見せるくらいしてみろよー”なんて不評が出そうですけど、思っていたよりも地に足が付いている意見で安心でしたー…」
「…いやなぁ、そんな南北朝の乱世を行き当たりばったりで招いた足利尊氏公みたいに九州から中央へ出向くことがそうそう出来るわけがなかろう…」
「兄上、将軍様から偏諱してもらった身でそのような言動はー…」
「おっと、末弟にこんな早くも諌められるとは…だが、お主はやはり必要だな…」
「…話は戻して、この硝石工場もその未来へより確実に、より早く近づくために建てたとー…」
「ああ、その通りだ」
その上で、二人はその未来に続く足掛かりの一つとして建てられたこの地を見渡す。
「…これからの戦はより技術の進歩が求められ、それで派生して生まれでる新たな技や物は国を強くして民を富ませていくのに必須なものだ」
「まあ、何だかんだで戦争は技術を進歩させますから…この時代ならなるべく上手く使ってそうせずに済む時が早く来るようにした方が現実的です…」
「その始まりにして一番大きなものが火薬だが…残念だがそれに必須な硝石はこちらの日本でも採れる場所はほとんどない…」
「それでー、僕の前世の戦国時代の日本ではー…その硝石を手にするために奴隷を輸出していたという暗い話をしていたと聞きます。特に島津ではー…」
「やはり耳に痛いなその話はー…だが、その点については少なくともここ島津の領内では何とか事前に防げたが…」
二人が時々苦いものも含めた表情を向けているこの硝石工場の地で働いている者達は、正史と呼ばれる歴史ならその硝石と引き換えに海外へ売り飛ばされていただろう者達であった。
「…一向宗の中には人工的に硝石を作り出している人々がいるというのは歴史研究で知っていて、その方法は前世の現代でも記録に残っていましたけどー…」
「まあ、私がこれを知ったのは前世の“集成館”で西洋のも含めた各所からの化学系の学術書で学んでいたおかげだがな」
「さ、さすがは前世では幕末の英主の一人だった方…ここの人選も含めて無駄がなくて最大限の効果を上げている…」
その中で名護丸が真っ先に着目したのは後家(未亡人のこと)達であった。
「…ああ、私がまず領内の農民達の仕事を少しでも楽にして他にも色々有意義な仕事が出来るようにと唐箕と千歯扱きなど農具を実用化させたのだが…」
「それであの人たちをいっぺん路頭に迷わせてその子供らを飢えさせてしまったって顔ですね…」
「…あの頃は手探りで且つ急ぎ足なのが目立ったなー…」
「特に千歯扱きなんか“後家倒し”なんてまで呼ばれたくらいですからねぇ…」
「まあ、その辺は御爺様に相談したら“お主が始めた硝石作りに加えればよい”とご助言をいただいたからな」
「さすがは御爺様」
周囲もネタにして兄弟の会話は砕けた感じも強めていく。
「幸いにもここ薩摩は米がとりづらい土地故に御爺様が始められた養蚕のおかげで材料があったからな」
「あー、それで蚕の糞を始めとした汚物集めや、その秘密を守るためにここ
「そういう軽口まではいちいち叩かなくてよろしい! こちらとて表向きは良い肥やし作りと何とか誤魔化してそういう陰口に耐え続けてきたのだ! 拳骨するぞ!」
「…じ、児童虐待反対ぃぃぃぃ…!」
「こんなので虐待になるのなら生き残れる童はこの戦国にはおらん!」
「酷い!」
こうしてこの地とそこに住まう人々も絡めて、悪態を突いたり、軽口を叩き合えるまでに兄弟二人は打ち解け合うようになった。
「…なー親父、あの望楼の上でやけに賑やかになっているお二方ってー…?」
そこから少し離れて製造された硝石を用いて火薬を調合している面子の中に、遠目だがその兄弟のやり取りに気付いて視線を向けている一人の少女がいた。
少女は肌の艶からして名護丸より数才上といったぐらいだが、背丈の伸びは早くて細身だが均整が良くて密度の高い筋骨で構成された身は白に近い灰色の素肌に包まれている。
面貌は精悍で野性的な少年を思わせる中性的なもので銀色の瞳で髪は赤く、額から伸びている一対の角が異人であることを示していた。
「あー、あのお二人はー大きい方は儂ら
「へー、あのお二人がー…」
「それよりも
「あいよー」
その少女である朱祢は、肌が青白い巨漢で同じように角を生やした父親に銃を手渡された。
それが、名護丸にとって予想外過ぎる形での初陣に繋がってしまうなど、この時点で予想できたものはいなかった。
次回、今度のお話の最後で登場した朱祢という子と主人公の付き合いが始まる予定です。