サツマッチュ転生~地元の島では嫌われている(ファンタジー要素ありIF世界の)島津の戦国四兄弟にあまみんちゅ要素あり竜人として+1されました~ 作:oosima
○皇紀2213年・天文22年(西暦1553年) 日本
名護丸が義久に連れて来られた硝石工場には幾つかの溜池があり、それらに付いている水門には水車があった。
「よーし、三番のは終わったから次は五番のを持ってきてー」
「今度は刀身を研いでみよう」
その水車からクランクや歯車に鎖などを通して運動エネルギーを伝えられている工場では、刀や銃身などを研磨したり、小麦を臼で引いたりしていた。
「兄上、これはー…」
「ああ、私が図面を引いたり、ここの皆と改良したりして生まれた水力のカラクリだ」
義久の前世のことを聞かされた名護丸はそれらの機械に驚きつつも納得した。
「それで溜池の素材は…」
「ああ、皆には東海の向こうから入手した学術書から習ったと言っている、この地ならいくらでも取れるシラスを用いたコンクリートだ」
「ああ、なるほど…」
弟の重なる問いに兄は小声でこっそりと教えて納得させていく。
名護丸の前世である21世紀でもシラスを骨材に用いたコンクリートは劣化に強い耐性があることがわかっており、義久が前世や前々世で得た知識や技術、この地の土質を考えれば最適であった。
また、シラス台地は水の浸透率が高いために河や池が少なくなる分、地下水を膨大に蓄える性質があるため、その掘りやすい崖や中腹に横穴を掘れば多くの湧き水が生じてきた。
それらが組み合わさって義久が国政に関わって以降は多くの溜池が作られ、その水力を活かした工場が建てられ、水をいかして多くの田畑が開墾されてきたのである。
「…この水を上まで上げられるようになればー、薩摩の多くを占めているシラス台地の上も田畑に出来るんですけどねぇ…」
「…その通りだ。故に何度も色々試行錯誤してきてみたが…その都度に難しさを思い知らされてきた…。この時世で戦も多いからそこばかりに時間と頭を費やし続けられも出来ん…」
故に、その効果の高さと不十分さを同時に理解できて眉が八の字になった。
「おーい、三番坑道の湧き水が強くなって止まらねぇ。ちょっと見てくれー」
「わかったー。すぐに行くぞー」
そこで彼らの悩みである水に関する問題がまた一つ割り込んできた。
「…へー、溜池が出てくる坑道の中ってこんな風になってるんですねー」
数分後、興味がわいた名護丸はその湧き水が強くなった坑道の中を進んでいた。
「昔に比べて灯りは大分ましになったがあまりきょろきょろするな。狭いから岸壁にぶつかりやすいぞ」
その名護丸と彼に付きそう義久は安全ヘルメット代わりに兜をかぶっていたが、その額には陽光を貯めて任意の照明として放てる“貯め札”の一種である“灯り札”が貼られていた。
「…よーし、これなら良さそうだなー」
数分後、坑道の中で新たな湧き水が漏れ出てきたその地点は鬼人の職人達によって速やかに問題解決されようとしていた。
「どうやら大きな問題にはなりそうには無いですね」
「ああ、けれど水量は前よりも増えるから溜池やその水門は増やした方が良いかもしれんな」
「…ええ、そうですねー…!?」
だが、その帰り道の途中の会話で名護丸は何かにハッとした顔になる。
「な、名護丸? 何だその顔は?」
「…えーーッと兄上、ここの湧き水って農業用水以外にも、溜池に貯めることで工場のカラクリの動力に変えることも出来ますよね」
「それはそうだがー…?」
「それでこの貯め札も今回の場合は陽の光を貯めてこういう暗い所で光る力に変えることが出来ますよね?」
「ああ、それがこの世界の貯め札というものだが当然であろう」
「…だったらー、水車とかの回る力を札に貯めてー、それを後で別のそれで発するということが可能じゃー…?」
「……あ!!!!」
それから弟の重なっていく問いに義久は初め戸惑いの色が強かったが、最後に闇の中の功名を見出したような驚喜が生じた。
「名護丸! すぐに城へ戻るぞ! それと他の三人も直ちに集める!!」
「ちょ!? あ、兄上ーーー!!??」
義久はすぐに名護丸を抱え上げると、工場から馬を一頭借りると大急ぎで内城へ戻ってきた。
「な、何じゃどぉ兄上ぇ?」
「わ、私はまだ帳簿の整理中で、忠平兄上は練兵中でしたぞ」
「ぼ、僕はぁ武芸の修行を終えてお昼寝したばかりで瞼が重いんですけどぉ…?」
十数分後、内城のある一室に集められた島津五兄弟のうち、城に留まっていた三人は戸惑っていた。
「忙しい所を呼び出してすまん! だが! 本当にここ薩摩の! 島津家とそれを支える民を大きく変えるものやもしれんのだ! さぁ! 名護丸よ先の坑道の中での言葉を…!?」
義久は陳謝しつつも興奮を隠せない様子で末弟を引きずり出すが、その顔は真っ青になっていた。
「…あ、兄上…あんな腹から抱えられた状態で…馬の上であれだけ揺らされると…胃、胃の中が…オオロロロロロロロロロ…」
余りにも急すぎる変化と揺れに消化器系を責められた名護丸は、兄たちの前で耐えきれず胃の中をリバースしてしまった。
「…兄上、とりあえず話は名護丸がまた話せるようになってからじゃっど…」
「…あ、すまん…」
結局、史実と同じく医術に詳しい忠平が名護丸の治療をしてから話し合いをすることになった。
「…なるほど、貯め札の技術を応用して…水流の水車を回す力を札に貯めておくことで、別の水車を回させてあの台地の上に広がる不毛な地に水を上げるというカラクリか…」
数十分後、元に戻った状態の名護丸が発案して義久がわかりやすくしたそのアイディアに、五兄弟で一番の知恵者で目利きが鋭いと祖父に評されている歳久も強く喉を唸らせた。
「…これならあの今までは山林から材木や獣を得るのがほとんどだった台地の上をいかせると思うのだが…どうだ歳久?」
「うむ…だが義久兄上、場所によっては大型の水車を用意せねばならぬ場合があるが、それほどのだと負担も大きくなりますから…」
一方で、歳久はその方策について技術的な課題も突き付けていく。
「山の中腹や崖を削って、そこに棚田のように義久兄上が考案された形式の溜池を作って、そこに普通程度の水車を設置して襷を繋ぐようにすれば?」
その歳久の懸念に名護丸が今の島津家の技術で出来る現実的な解決策を提示していく。
「だが、それだけの水車を設置して回すには、今現在の水車から多めの力を貯め札に移さねばならぬが、そうすれば工場で使える力も大幅に減るぞ」
「…う、その辺りはー別の河川敷に水車を立ててそこから力をー…」
「それだけ立てるとなると人も必要になるど。それにここ薩摩は地震も噴火も台風もあるから長持ちする保証はぼぼなか」
「それに河川敷もほとんどはもうある村が普段から使っておる。いくら島津が抱えてる工場とはいえ他所のを建てるとなると絶対にもめるぞ」
「…ぅうぅ…」
「そいに貯め札を作いがなっ陰陽師など術者達は数が限らてれておる。戦はしょっちゅう起きちょっこん状況ではそこずい仕事はさせられん」
「…うううぅ…」
だが、その都度に歳久や忠平からこの時代の技術的限界や政治的事情に基づく反論で潰されてしまう。
「…考え自体はむしろ良いのだ。だが、何よりも人手がなーー…む? 何だ又七郎よその顔は?」
そうして四人が悩みつつも未練も強く生じさせている顔で図面と睨めっこしていると、歳久は弟の一人の顔に何かを感じた。
「…あのー、歳久兄上ー…貯め札が見せているようにー、光や回す力をー貯めることは可能なのですよねー?」
「ああ、当然のことだがそれがどうした?」
「…それで貯めた水を流してでる力を、カラクリを回す力に変えるのが水車ですよね?」
「それも当然だがそれがどうした?」
「それでしたらー…日の光やそれが持つ熱をー…水車などカラクリを回す力に変えるのも可能なのではー?」
「「「「……………!!??」」」」
そうして重なっていく又七郎の問いの果てに出たその答えに、他の兄弟は初め無言だったが、やがて眼が飛び出さんばかりの勢いでクワッと見開いた。
「…そうか! 其れなら作れる場所にも人手にも困らん!」
「だ、だが義久兄上! 貯め札に貯めた力が尽きるとその交換などでも陰陽師が必要にー…」
「あ、それだったら貯め札を介するのではなく、直接に陽光とその熱を水車などで回す力に変えるようにすればー…」
「そん通いだ名護丸! そいなあ後の手間は札が摩耗して使えなくなった時に交換すれあよいだけじゃっで陰陽師の人手もそこずい使わん!」
「…い、いやー…それほどでもー…でもー、こんな時にこんな抜け道を見つけられるなんてー…子供のものを見る力と柔らかい頭って凄いなー…」
「え? いや、名護丸…? そなたも子供ー…それも僕よりも一つ下だろう? まあ、それはいいとしてだったらここはー…」
それから一気に兄弟間の意見交換は活発になり、図面は地面に移って彼らの手で色々な修正や添削が行われてより大きく細かくなっていく。
ちなみにその後、五人はそれから時間や他の仕事も忘れて夢中になってしまい、気付いた家臣にそれぞれの母や傅役を呼び出されて叱られたりもした。
次回、主人公の今の父や祖父など親御さんも含めて話が加速していきます。