何回くらい続くかな…
お待たせしましたね。午前中は地元からの陳情に来ていた皆様がいまして。初めまして保守党の海田昭一です。どうぞよろしくお願いします。
本日は取材ということでしょうか?最近は暴力団特別規制法についての取材が多いですね。私が市議会に当選してからの悲願でしたから。今国会で正式に施行となると見ています。野党の皆さんも好意的に協力いただいていますし、各省庁との調整も順調です。前職は警察官でして、赴任した所…広島だったのですが、それはもう…ご存じでしょう?
お若い様ですからリアルタイムには見ていなかったでしょうが、もう酷いもので。市民に死者が出るような抗争もありました。仕事か寝てるか、の生活を送っていましてね。それが今に繋がっていると思えば全ては勉強ですね。
戦後広島の事件を後世に詳細を残せれば…なるほど映画にも小説にもなりましたしね。いいでしょう。
知る限りのお話をしますよ。
誰の話でしょう?最近の映画ですと広能昌三、大友勝利、松村保あたりか…倉元猛、野崎弘や木村寛明も題材になってますか。
小沢?小沢って小沢夏樹ですかね。映画や小説なんかでも若衆か松永組組長程度にしか出てこない端役ですよ。あまり一般受けするとは思えませんね。
しつこいな…しつこい男はモテませんよ?
なぜ彼にこだわるのでしょう?誰かの親類縁者ではありませんよね?どの物語にも描写はありませんが、もう彼は亡くなっています。
いえ。申し訳ない。彼の稼業が稼業だけに御礼参りという可能性が頭を過ぎりまして。
変わった奴だった。僕の地元に本社がある企業のいくつかもヤクザがキッカケを作った…というのは都市伝説的に語られている。「元ヤクザが西日本の経済界を作った」という都市伝説だ。聞いたことくらいあるだろう?
それに僕のスキャンダルも。「ヤクザに担がれた国会議員」ってね。
どちらも嘘ではない。だが、双方一つだけ間違いがある。「ヤクザが西日本の経済界を作った」という事と「元ヤクザに担がれた国会議員」だな。
信じられないか。驚くのも無理はないな。そのヤクザというのが小沢夏樹だ。元ヤクザというのが彼の舎弟たちだよ。
さて、どこから話すか。出会った時、彼はもうボコボコにされた後でね。当時の取り調べはそれが罷り通った。山守組の内紛で彼のカード…暴力団員の個人情報が満載の書類をみてね。彼は海軍だったのが印象的だった。広島で江戸弁というか、標準語というかを使う珍しい奴だったよ。
「久しぶりに広島弁以外を聞いた」
というのが第一声だったな。その後も彼とは長く付き合う事になったよ。彼はヤクザというものを嫌っていた。しかし、彼の犯行は全て証拠もなく、なぜか彼は現場周辺では目撃されない。今と違って防犯カメラなんてものは無くて、拳銃を使用した現場でも薬莢一つ残さなかった。
いくつか彼の犯行と思っているものはあったし、今もそう思っている事件はあるんだ。しかし、もう時効を迎え、証拠もなければ、被疑者候補の小沢もいない。故人に疑いをかけるのは…墓を暴くに等しい。控えよう。だがね、僕は誰も知らない兄弟盃と事件の真相を知っている。彼が自供したことが一件だけあるんだ。
上田透爆殺事件
映画でも一つの見せ場になっているね。去年の映画では上田をアイドル俳優が演じていたが…全然違ったな。そして、隻腕だったんだ。なんで逮捕しなかったか?簡単な話だ。彼の遺書だよ。僕宛の遺書があったんだ。
変わった奴だよ。
上田を爆殺する前日、上田組で彼は飲んでいたそうだ。小沢は上田を可愛がっていた。警察資料の写真では常に上田と小沢、小沢と上田が一緒に写っていた。不思議だろう?
その頃の小沢は、松永組を預かる組長代行だった。警察としてはもう組長と見ていたが。
松永組はそもそも村岡組の若頭だった松永弘が揚げた看板だ。大友勝利は聞いたことあるはずだ。大友はスジを違えて、村岡組のシマで賭場を開帳し、村岡組と揉めた。その事がキッカケで大友は旅に出て博徒としての修行を積んできた。後に時森組を継承して博徒大友組を旗揚げした。
というのが一般的なあらすじだな。
笑える話だ。取材した人間の能力を疑うね。
とは言い切れない。小沢は一人では到底できそうにない事をやって退けた。彼は大友と松永と賭場の件で揉めた時に、その場にいた。それを見て割って入ったのが当時、村岡組の客分だった小沢だ。しかも、小沢はロシアンルーレットを持ちかけて本当に引き金を引いたって話だ。二課の刑事に聞いたから事実だろう。
そうだな。公になっていない話を一つしよう。「原爆スラム公営住宅用地買取計画」についてだ。
知っているか?あの土地は松永組が事実上、持っていたんだよ。
ある日、上司に呼ばれて応接室に入ると上司の久谷警部と二人の来客があった。
「海田君、県と市が原爆スラムを解体したいと言う話は聞いているだろう?」
「新聞で読みましたね。難航しているとか。」
「そうだ。こちらは県と市の担当者の方々(申し訳ないが失念してしまった)だ。」
「()と申します。どうぞよろしくお願いします。」
「どうも()です。よろしくお願い致します。」
「二課の海田昭一です。再開発絡みで何故二課の自分が呼ばれたのでしょう?」
「あそこは住民を退去させようとして反対運動が起き、かなり込み入っている。住民数も把握できなければ、戸数も正確にはわからない。果ては治安の乱れ、犯罪の苗床にも繋がりかねない。」
「スラムと言うくらいですからね…そうなるのも頷けます。」
「だが最近、突如バラックも住民も減ってきていた。ある日突然、急激にだ。」
「それはいい傾向でしょう。」
「ここからは私(県職員)からご説明いたします。急激にバラックも住民も減少しております。いくつかの居住先のハッキリしている方に聞き取りをしてきましたところ、非常に困ったことになったのです。」
「我々に相談したい困り事…でしょうか?」
「そうです。元は不法占拠された国有地です。ですが、事実上は住民の物となっています。それを買い上げている人間がいるのです。」
そう言うことか…なんの権利もないが、知らず買っている人物がいる。だが、買っている以上強引に取り上げると行政が不評を買う。そして買い上げているのは暴力団絡み…と見えた。
「暴力団…と言うことですか?」
「そうです。松永組が片端から買い漁っています。しかも困った事に松永組はどう言うことか、住む場所も仕事の周旋もしているのです。」
「私(市職員)からもよろしいでしょうか。働けない人間は役所に相談という形をつけて、生活保護を受けさせにきています。それに就職先は松永組の組員が経営する企業、転居先はほとんどが広能組の所有する物件なのです。」
「あぁ…そう言うことでしたか。」
「海田君、君は広能組と松永組をマークしているだろう?少し探りを入れては貰えないか?」
「なるほど。そう言うことですか。」
「そうだ。どうにか解決できないだろうか?」
「あの土地の再開発に国からの助成金を引き出したい。だが、暴力団相手だと厳しい目があります。県としては出来るだけ穏便に、体裁良く収めたいと言う本音がありまして。」
「わかりました。少しこちらでも調べてみましょう。」
そして、何人かの元住民に聞き込みに行くと、表向き違法性は一切なかった。むしろ違法だったのは住民の方で“国有地を自分のものとして売っていた”と言うことなのだ。とどのつまり、住民たちは一様に松永組へ詐欺を働いていたと言う形だ。実に手間で遠回しな嫌がらせの様な事をしている。
とにもかくにも、状況を聞いただけで全てを把握は出来ていない。一度スラムに足を運ぶとなるほど。買い上げた土地は更地にして、バラックは撤去、整地までしてある。ほとんどのバラックはもう無人の様だ。で、そこにおっ立つのが‘松永組管理地’の立て看板。そして少しまとめて買い取ったか、広い土地に立つ小綺麗な小屋には‘松永組土地管理所’なんて小綺麗な看板を揚げている。仕方ない。直接会ってみるか…遺憾ながら通い慣れた事務所の戸を叩いた。
「二課の海田だ。小沢はいるか?」
「お疲れさんです。呼んできますんで、応接間でお待ちつかあさい。」
「そうか。わかった。」
少し待っていると、小沢が入ってきた。何故か大量のオレンジを抱えている。どう言った拘りかは知らないが、いつも小沢は三つボタン、シングルのスーツを着ていたな。
「おう。海田君よう。今日はどうしたってんだい。」
「原爆スラムの件だ。」
「なんだよ。暴力で追っ払ってないし、家も仕事も用意してやってるさ。」
「県と市ではあそこを再開発したいんだ。知ってるだろう?」
「ああ知っている。オレンジ食うか?」
「何度聞かれても一緒だ。」
「これ、イスラエルのオレンジなんだが、なかなかイケる。」
「あの、スラムは国有地なんだ。」
「なぁにぃ〜っ?そりゃぁ聞いてねぇよ?俺ぁ、あそこの住民から買い取ってんだぜ?」
ワザとらしく顰めっ面を作り、芝居がかった様な喋り方になる。オレンジを口に突っ込みながら。少し腹立たしい。
「わかって言ってるだろう?それに元海軍だったんだ。元々あそこが陸軍第五師団が駐屯してたことくらい知ってただろ?」
「そうだな。知っている。大人しく明け渡そう。」
「そう言う取引には…え?」
「あと三月もすればあの土地は全て更地になって整地が終わる。それからだな。」
「あれだけの土地、すんなり明け渡すって言うのか?」
「役所の担当職員、三下じゃなくて決裁権を持ってる奴を呼んでこい。」
そんな肩透かしの様な事を言われ、大量のイスラエルオレンジを持たされて帰された。呆けつつ県警に戻った。
全然、全く完全に理解が追いつかない。
「海田君、なにか分かったかね‼︎」
「それがですね…小沢夏樹は三月後に明け渡すから役所の決裁権のある担当職員を連れてこいと…」
「よくやった‼︎明日にでも再開発課の人間に行ってもらおう‼︎念の為、君も同行したまえ。」
上機嫌に県庁へ連絡する警部のデスクにオレンジを袋ごとおき、この日は定時で帰宅した。何故これほどすんなりと進んでいるのか僕には理解が及んでいなかった。
翌日、県の再開発課の筒井という人間がきた。
「筒井さん、一応彼もヤクザです。警戒はお願いします。」
「やはり、警察には逆らえないものですね。」
「そう言う人間じゃないんですがね…あぁ、お茶と饅頭が出てきます。召し上がってください。ヤクザですが礼節を重んじる人間です。」
「ヤクザが礼節とは…滑稽極まりますね。」
大丈夫だろうか。まぁいい。いつもの…と言いたくはないが松永組の門戸をくぐる。応接間で待っていると、昨日同様、オレンジを齧りながら小沢が入ってきた。個人的にハマっているんだろうか?
「こんにちは。松永組の小沢です。代行、代貸、肩書きはなんでもいいです。」
「再開発課の筒井と申します。決裁権のある職員を…と言う事で本日は伺いました。」
「ええ。ご足労いただき、ありががとうございます」
「もみじ饅頭とほうじ茶、どうぞ。ついでにオレンジもツマんでください。」
筒井は躊躇なくお茶を口にし、もみじ饅頭を口にする。
「で、原爆スラムですがね、三月もすればバラックの解体、整地も済んで更地になるでしょう。その後に引き渡しましょう。」
「お話がわかる方で安心しました。我々もあの土地には苦慮していましてね。」
「そうでしょう。うちの若い連中も随分と手を焼いた様でしてね。」
「手間が省けてこちらとしても感謝するところです。」
「そう。手間です。バラックを解体し、整地、河岸なので土留め処理、解体したバラックの産廃処理。実に手間がかかった。」
「へ?」
「土地も土留めもそのまま明け渡して結構です。解体工事の人工代、整地の土砂・転圧工事代、土留め工事一式に産廃搬出と産廃処理費用。これらを面倒見てもらいたい。住民追っ払って掃除するより余程安上がりなはずだ。」
「ちなみに如何ほどの金額でしょうか?」
「野崎‼︎見積もり持ってこい‼︎」
しばらくすると若い衆が書類をいくつか持ってきた。表向き普通に土建屋の印が捺されているが全て広能組、松永組に縁のある…というか企業舎弟だ。そして凄まじい金額…ではあるが、法外ではない。少々相場より高いだろうかと言った金額だった。当時は素人で知らなかったが、今ではわかる。二割か三割増という感じだったと記憶している。と言っても再開発課の予算は今年は素寒貧、来年の予算も大方喰われるだろう。
「こっ…こんな金額、勝手に決済出来るはずがない‼︎」
「そうですか。で、あればこちらはこのままあの土地にゴルフの練習場でも建てようと思っています。川沿いで涼しい。丁度いいでしょう。」
「待ってください‼︎この見積もりは相場より高く設定されている。この金額で発注したことには出来ない…いくらか交渉の余地をいただきたい。」
「うーん…困りました。もう一部の工事はこの見積もりで進めています。では、こうしましょう。県と市の職員食堂でこのオレンジをある程度引き受けていただきたい。それを条件に一割こちらで引き受けます。あとは県と市で割ってください。」
筒井はその場で脱力した。そもそも小沢相手に県の上級職員程度が渡り合えるはずはなかった。
半年後くらいでしょうかね。工事が始まり今の公営団地が立った…という話です。そうそう。それからしばらく、県と市の職員食堂ではオレンジジュースが飲み放題になって、定食には必ずオレンジが添えられる様になり、学校給食にも毎日の様に出たそうです。職員食堂のオレンジジュースは実に美味しかった。
長々とありがとうございます。いい時間ですね。お昼食べて行かれませんか?弁当を頼んでありましてね。どうぞお召し上がりください。こののり弁の海苔は広島県産、ちくわも呉のものです。ええ、全国にある水上亭ののり弁です。あれも広島の企業です。