起きたら仁義なき転生、差し戻し。   作:函南

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仁義なき妄執-戦後の闘争-

カタギさんがなんの御用で?

おう。茶くらい出さんか。

 

最近の若い奴らはようないけんの。時代なんかのう。一から百まで言わんと解らん癖に、言うたら言うたで、プイーといなくなるけんな。

最近じゃ暴力団は締め上げられとる。暴力団特別規制法…ありゃ海田一人の頭から出たとは思えんのう。亡霊の影を見た気分じゃ。

そんな時に来られるブン屋さん言うんは、どがな御用ですかのう。しかも、もう隠居した身ですけの、聞くんやったら会長の松村か、そのあたりに取材したらええじゃありゃせんかのう?

紹介状くらい書いたってもええんじゃが…広島抗争じゃ?懐かしい話じゃ。この前の映画は傑作じゃったのう。ワシも出とったがの、あがな書かれ方するとはのう。もうちっくと暴れとったわい。

なんじゃ。誰の話聞きに来たんじゃ。

 

夏樹?小沢夏樹か。広能組若衆二代目松永組組長。以上じゃ。

 

なんじゃ映画見とらんのか。そのくらいしか言うことも見せ場もありゃせんじゃろ?

おん?この名刺…海田め…面倒ごと寄越しよって。

ヤクザも議員先生には逆らえんけぇの。小沢はのう。ワシと五分の兄弟じゃけん。

 

出会いは賭場じゃ。ワシは時森の看板借りて、村岡のシマで賭場を開いとった。あん頃はの、時森は村岡が邪魔になっとったんじゃ。松永がよう頭切れての。時森はもう、いっとき程の勢いはのうなってた。もしかして小沢の切れは松永の仕込みじゃった…ありえんの。舎弟にはなったが、それ程の時間はなかったはずじゃ。それに小沢の切れ言うんは…モノが違ったわい。松永は小沢を随分買っとったの。それこそ二代目を菅原やなくて、小沢に継がせるくらいにはの。

一言で言えば狂った奴としか言えんわい。

こんなはマヨネーズを何につける?

ほうじゃろう。野菜につけるもんじゃ。じゃがの、小沢は白米七に麦を三混ぜたもんに、ソースとマヨネーズをかけて食っとったんじゃ。

「え?だってお好み焼きみたいな味になって進むじゃん?俺、炊き込みご飯とか苦手でさぁ‼︎」

とか言うとった。今でもあの食べ方には理解を示すことは出来ん。理解に苦しいところじゃけんの。

 

今だから教えちゃるがの、礼節も仁義も侠気もあって博才にも恵まれちょった。じゃがの、究極の悪食じゃった。ピザとかいうんは知っちゅう。イタ公の食いもんらしいがの。ワシは今もって米に乗せる言う話は聞かんの。ほうじゃろ?

やっぱりそうじゃ。あん外道…

「いつか流行るって。勝利も食ってみろよ。」

なんて抜かしくさって…次、会うたらぶち殺しちゃる…もう死んどるか。

 

死んだ。死んだはずじゃ。密葬だったの。組葬くらいあるかと思ったんだが、広能の連中も松永の連中も存外、薄情じゃわい。

上田の墓前で刺されたんじゃ。間違いありゃせんわい。ワシだけが知っちゅう事があっての、やったのは矢野じゃ。

事の真相を知りたい?

あかんの。海田の暴力団特別規制法は知っちゅうじゃろう?暴力団絡みの事件は時効がない。ワシも短い余生じゃ。安寧ちゅうもんを謳歌したいけの。

 

クドいの…

 

ほうならワシが鬼籍に入るまで黙ってて貰おうかの。口外したら…仁義を欠いた言うことで、理解して貰おうかの。

 

 

 

 

 

天政会が代替わりして、しばらくじゃった。ワシは一度、松村に弓したにも関わらず、小沢のとりなしで顧問として天政会入りした。小沢は…

三代目天政会二代目広能組二代目松永組組長

ちゅうのが正しい肩書きかの。長いわな。早い話、もうワシの席からみたらチンピラ同然じゃ。

後年、そう思って松永の代紋を軽く見る天政会のガキを何人ぶち回してやったかの。まぁ、その後年の松永組は名跡こそ松永の名前じゃったが、代紋は株式会社二代目松永組が使ってて使えんかったがの。軽く見られてたまるかいな。小沢の残した名跡じゃ。まぁ元の松永の人間は誰もおらんかったがの。

 

そう。手紙が届いたんじゃ。

 

「オヤジさん松永組から手紙が来よったんですがの。」

 

「遂に小沢も引退したかのう。」

 

「それがですの、刺されて死んだので墓の場所を知らせる言うてます。」

 

「間野、おどれも面白う無い冗談言うの。ぶち回すど。」

 

「本当に書いて…」

 

「松永組に行くけん車回さんかい‼︎」

 

ワシは松永組に行った…と言うのは上品に言いすぎたのう。あれはかち込んだ言うんじゃ。

 

「おう。おどれら退かんかい‼︎小沢っ…小沢はどこじゃ‼︎」

 

「オジキ落ち着いて…落ち着いてつかあさいっ‼︎」

 

「菅原っ…小沢を出さんかワレぇっ」

 

「オヤジは…もうおらんです。忌んでもうたんです。」

 

「何が…何があったんじゃ。聞かせんかい‼︎」

 

「オヤジは上田のオジキの墓参り行く言うてたんですけ。墓参りに出て帰って来んかったんで…野崎に迎え行かせたんですけん。」

 

「それで刺されて死んどった言うんか。葬式は、組葬くらいにはせんかったんか‼︎」

 

「倉元のオジキも野崎も‘アニキが望むとは思わんです’言うて反対しよったんですけ。先代の本家のオヤジさんも同意しよったんですけん。」

 

「野崎はどこじゃ。」

 

「会社におると思いますがのう…」

 

 

そう聞いて「野崎経済研究所」にワシは向かった。ここは完全にカタギ面して仕事をしとる…人間もカタギしか居らんからの。気使ったわい。受付には女が座っとったけん。強くも言えんかったんじゃ。

 

「所長の野崎君はおるかの?」

 

「お約束はございますか?」

 

「ありゃせんのじゃ。大友が小沢の件で来た言うて貰えれば分かるはずじゃ。」

 

応接間で待たされる事数分、野崎は来た。シングルの三つボタン、これはある意味で小沢派の制服みたいなもんじゃった。小沢も野崎も倉元もそうじゃった。松永組に若い衆も何人か着とったの。誰もがダブルのスーツを着る中であの頃は珍しい部類じゃったけん、よう覚えとるわい。

 

「オジキ、来られるんでしたら、ご連絡頂ければ伺いよったんですがの…」

 

「おどれ、小沢が死んだ言うんはどういう事なら。組葬すらしとらんじゃないけ。」

 

「アニキは表に立つことを嫌っとりました。組葬なぞしたら化けて出ると思いますけぇの。控えさせて頂いた次第ですけん。」

 

「小沢タマ取りよったんは誰じゃ。そがなこと位わかっちゅうんじゃろうの?」

 

「分からんのです。槇原組は違う言うとりますけん、もう心当たりが…松永組としてはありゃせんのです。」

 

「松永組としては…のう。」

 

「天政会入りした以上、喧嘩売られる言う事は無い思うんですがの。」

 

「倉元は組に居るんかの。」

 

「本家に居る思いますがの…連絡してみますけ、お待ちつかあさい。」

 

しばらくして戻った野崎はいけしゃあしゃあと宣った。

 

「倉元の兄さんは事務所をアニキの家に移しましたけ、そちらに居てるそうです。」

 

「ほうか。最後に聞いちゃるがの。おどれら自分の親とられて黙っとるんか?」

 

「親やられて…アニキやられて悔しゅうないはずないですよ。ですがの、アニキなら‘自分で終わりなら良し’って言うと信じてますけん。」

 

腑抜け、とワシは思うたな。倉元はもっとじゃった。

「アニキの意思に逆らう様な真似する方が余程、恥ずかしいですがのう。」

とまで言われたわい。

 

この時の感情は…怒りやないの。

嫉妬よ。

極道の一分を無視できる程に、あん二人は小沢の流儀を追えたんじゃ。しかも倉元は広能組を、野崎は松永組を小沢の流儀を説く事で静めたんじゃのう。小沢を知るもんは、あの二人に嫉妬せずにはおられんかったはずじゃ。あれ程、真っ直ぐに小沢の残照を映した人間はおらんろう。

 

ワシはその晩どころが、三日三晩は嫉妬に狂ったの。

そこでワシは腹を括った。時代遅れだろうと、古臭かろうと、己の侠気を捨てる事が出来んかった。方々に子分を旅に出し、舎弟に頭を下げて話を集めた。小沢夏樹をとった言うことは、自慢せずに居られないはずじゃけんの。小沢の兄弟、舎弟、子分言うだけで界隈…少なくとも山陽では一目置かれたからの。それをとった言うたら、神和会あたりは抱えそうなもんじゃ。

 

だがの、そうも甘い話でもなかったわい。

 

一年が過ぎ、二年目の晦日を越し、三年目の盆を過ぎた。

嫉妬は情けなさに、自己嫌悪に変わりようた。小沢は、求めゆうものを、探しゆうものをあれ程簡単に見つけよったのに、ワシにはその仇の影すら見ることは出来んかった。

ワシはここで神に触れた気分を味わった。

「小沢を後ろから刺してやった」

っちゅう事を言うた酔っ払いがおる言う話を、事もあろう野崎が持ってきたんじゃ。

 

「オジキ、ワシらは手出し出来んですけ。真偽だけでも確かめてつかあさい。」

 

そう言って野崎は頭を下げての。あの時、野崎は…いや。ええわい。

ワシはその酔っ払いがおった言う賭場、飲み屋をしらみ潰しに回った。間野には随分、叱られたわい。

「オヤジ‼︎組潰れますけ、勘弁してつかあさい‼︎」

なんて言われて往生したわい。そう言えばの、盆暮正月の挨拶じゃ言うて倉元は随分な金を三年間届けてくれたの。性根はそう言うもんだったのかのう。

そして遂に、見つけたんじゃ。呉の倉庫に引き摺り込んだ奴の顔を見ての、意外な奴と思うたけ。矢野修司じゃった。

 

「おどれ、矢野か?」

 

「ほうじゃ。山守組の矢野じゃ。」

 

「山守のおやっさんは失踪しよったけん。山守組もとうにありゃせんわい。」

 

「小沢じゃ。全部小沢が仕組んだんじゃ‼︎ワシの左腕も小沢に潰されたんじゃけぇの‼︎」

 

「ほうか。ほんで小沢に仕返ししよったんか?」

 

「おうよ。あれだけは…あん外道だけはっ…」

 

その先に何を言おうとしよったんかは知らん。知りとうもない。胴体と首が生き別れになったんじゃ。

あん床の間の刀よ。矢野の血吸っとる。勲章にもならん殺しじゃ。だがの、ワシが小沢の死に騒がなくなって、誰もが気付いたはずじゃ。ほうで、憑き物がとれようた時に何があったのかもの。

 

広島極道の性根を捨てられんかったワシの、最後の侠気じゃ。

 

それからは天政会顧問、何年か前からは最高顧問。もうええ頃合いじゃ。ワシももう長くはないはずじゃ。小沢は…迎えには来んじゃろう。性分的に武田か、市岡が迎えに来るんじゃないかの。

もう疲れたわい。こんなも気付けてかえるんじゃの。

言うほどの効果はないがの。海田がやりようた様にワシの名刺もくれちゃる。まぁ…警察に呼ばれる様な使い方だけはせんようにの。

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