事件後の後始末。
あんまり書いてこなかった。
斬魄刀との会話多め。
──精神世界。
天を衝くほどの巨木が並び、常に漆黒の雷雲と翡翠の暴風が渦巻くその中心で、八神星は自身の斬魄刀たちと向き合っていた。
「……トドメを刺せなかったな、藍染の奴に。」
星がぽつりと言葉を零すと、彼の前に立つ長い緑髪をなびかせた冷徹な美女──烈風が、静かに首を振った。
『それは仕方がありません、星。あの時は大虚(メノス)の放った反膜による強引な空間隔離に加え、霊圧の収束に割く時間がコンマ数秒足りませんでした。ですが……それより、星。あなた』
『そうだよ! しんクン、あの時さ……卍解しようとしたよね?』
烈風の隣で、紫の着物を崩して着た小生意気ながらにグラマラスな美女──迅雷が、ジト目で星の顔を覗き込んできた。
「……あー、いや。つい、ね。あの顔を見てたら、
101年前の苛立ちが再燃しちゃって、
つい100%以上の出力を出そうとしちゃったというか。」
『駄目だよ、もう! ウチらの卍解がどれだけヤバいか分かってる!? あの場で『星海轟嵐(せいかいごうらん)』なんて発動してたら、藍染を殺す前に、双殛の丘どころか瀞霊廷の半分が地図から消えて、可愛い勇音ちゃんまで巻き添えになるところだったんだからね!』
『迅雷の言う通りです。あなたの魂魄の底に眠る卍解の質量は、世界そのものを変滅させかねない。
今回は、始解の風雷双龍陣で踏み止まって正解でした。
……ですが、これであなたの『力』は十三隊の知るところとなりました。ここからの日常は、少々騒がしくなりますよ。』
「……分かってるさ。まぁ、その時はその時だ。」
星は苦笑しながら、ゆっくりと意識を現実へと引き戻していった。
──現実、四番隊舎・第一救護室。
目を開ければ、そこはいつも通りの薬草の匂いが漂う四番隊の日常だった。だが、烈風の予言通り、周囲の空気は数日前とは一変していた。
「あ、あの……八神、さん。この包帯、ここに片付けても良いでしょうか……?」
「八、八神さん! こちらの薬湯の調合をお願いできますか……っ!?」
他の隊士たちが、腫れ物を触るかのような、圧倒的な敬意と恐怖の混ざった視線で星を見てくる。星が通りかかるだけで全員が直立不動になるため、以前のようにのんびりサボることも難しくなっていた。
「みんな、僕は普通の一般隊士なんだから。とにかく、いつも通りでいいからね?」
星がため息をついていると、救護室の頑丈な木扉が、ガバァン!!と地響きのような音を立てて蹴破られた。
「おいコラぁぁぁ!! 八神星はどこだァァァッ!!!」
現れたのは、眼帯を嵌め、ボロボロの羽織を羽織った十一番隊隊長──更木剣八だった。その全身から放たれる飢えた獣のような闘気が、救護室の空気をピキピキと凍りつかせる。
「あ、更木隊長。怪我の治療なら、あっちのベッドへ──」
「そんなもんどうでもいい!! てめぇ、双殛の丘でとんでもねぇ霊圧出してたなァ!? 藍染の野郎を反膜ごとブチ抜いたあの力……おい、今すぐ俺と殺し合いをしろ!! 早く刀を抜けよ!!」
嬉々として斬魄刀に手をかける剣八。だが、その狂刃が星に届くより早く、一人の長身の死神が星の前に立ちはだかった。
「──そこまでにしてください、更木隊長。
ここは四番隊の救護室です。暴れるなら、
私が代わりにお相手いたしましょうか?」
虎徹勇音だ。その顔は恐怖で少し震えていたが、
星を守ろうとする強い意志がその瞳に宿っている。
星はフッと笑うと、勇音の肩にそっと手を置き、前へ出た。
「勇音さん、ありがとう。……更木隊長、仕事中なんでお断りです。戦いたければ、僕の代わりにうちの卯ノ花隊長が喜んで相手をしてくれますよ?」
「チッ、卯ノ花かよ……。……ケッ、つまんねぇの。
だが覚えとけよ八神、てめぇとは絶対に一度、死ぬまで殺し合ってやるからな!」
剣八は不満げに舌打ちをすると、四番隊の奥にいるであろう卯ノ花の気配を察してか、渋々といった様子で去っていった。
「ふぅ……怖かった。大丈夫だった、八神くん?」
「ええ、勇音さんのおかげです。また守られちゃいましたね」
「も、もうっ、からかわないでよ……!」
顔を赤くしてドギマギする勇音。力を見せつけた後でも、二人の距離感は変わらない。星にとってはそれだけが救いだった。
だが、その日の夕方。星は一番隊舎の総隊長室へと呼び出されていた。
重々しい沈黙の中、山本元柳斎重國が、燃え盛るような眼光で星を見据える。
「八神星。お主のこれまでの『不活動』、
そして双殛の丘で見せた異質の力……
全てについて不問とはいかぬが、今や十三隊は未曾有の危機にある」
元柳斎はドスン、と杖を突いた。
「藍染、市丸、東仙の反逆により、三分の一の隊長座が空席となった。……八神星。お主に、三番隊、五番隊、あるいは九番隊の隊長職への就任を命ずる。どこか望む隊を選ぶが良い。」
護廷十三隊最高峰の勧誘。
だが、星はいつもと変わらない、のんきで気怠げな笑みを浮かべて頭を掻いた。
「──お断りします、総隊長。」
「何だと……?」
「僕には、隊長の椅子なんて重すぎますよ。……僕は、四番隊のあののんびりした空気と、僕の治療を待ってくれている優秀な副隊長(勇音)の隣が、一番落ち着くんです。ですから、僕はこれからも、ただの四番隊のサボり魔でいさせてください、」
総隊長の絶対的な威圧を正面から受け流し、星は不敵に笑ってみせた。
全死神にその最強を認めさせながらも、
最愛のヒロインとの日常を選ぶ──八神星の、
新たな『最強の隠密生活』がここから始まるのだった。
まさかの隊長就任拒否。
このまま四番隊にいられるのか?