四番隊の一般隊士、実は卍解持ちの激強死神でした   作:獅子論

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そりゃ、こうなる。

総隊長の心労溜まるお話。


一番隊舎の密談、あるいは天秤の均衡

「──お断りします、総隊長。

僕には隊長の椅子なんて重すぎますよ。

僕は、四番隊のあののんびりした空気と、

治療を待ってくれている優秀な副隊長の隣が、

一番落ち着くんです。」

 

 

 星がいつもと変わらない、のんきで気怠げな笑みを浮かべてそう言った、その瞬間。

 

 

 ドゴォォォォォン……!!!

 

 

一番隊舎の床が、激しい地鳴りを立てて震えた。

 

 

山本元柳斎重國が、握った杖を怒りに任せて床へと突き立てたのだ。その全身から放たれた怒号のような熱圧が、部屋の温度を一瞬で沸点へと引き上げる。

 

 

「ならぬ!!」

 

 

元柳斎の、地鳴りのような猛々しい声が響く。

 

 

「お主は自分の立場を理解しておらぬ。

……八神星、お主の力は強すぎるのじゃ。」

 

 

総隊長は薄く眼を開け、鋭利な刃物のような眼光で星を射抜いた。そこにあるのは、ただのスカウトではない。

数千年の歴史を背負う最高権力者としての、深い『警戒』と『恐れ』だった。

 

 

「双殛の丘で見せたあの霊圧の質量、

……あれはもはや、一死神が個として持って良い器を超えておる。

それほどのバケモノを、ただの四番隊の隊士として野放しにできると思うてか。

……この隊長職への就任は、お主を『監視体制』に置くためのものでもあるのじゃ。」

 

 

部屋を支配する、逃げ場のない圧倒的な重圧。

 

 

(これ以上拒むなら、ここで十三隊の脅威としてお前を切り伏せる)と言わんばかりの、張り詰めた殺気。

 

 

 ──だが。

 

 

八神星は、その「世界の終わり」のようなプレッシャーを正面から浴びながらも、眉一つ動かさなかった。

それどころか、フッと、どこまでも不敵な笑みを口元に浮かべてみせる。

 

 

「……なるほど。隊長の椅子に縛り付けて、総隊長の目の届くところで大人しくさせておきたい、と。」

 

 

「不遜な口を……ッ!」

 

 

「まぁ、総隊長としての判断は正しいと思いますよ。

僕だって、自分みたいなのが野良でうろついてたら

怖いですしね。……でもさ、総隊長。」

 

 

星は腰の『迅雷烈風』の柄に、そっと親指をかけた。

 

 

その瞬間、元柳斎の放っていた灼熱の霊圧が、星の周囲から霧が晴れるようにスゥと消し飛ばされた。星の放った極小の『凪』の霊圧が、総隊長の圧を力ずくで相殺したのだ。

 

 

 

「僕を無理やりその椅子に座らせて、もし僕が『やっぱりめんどくさいから辞めた』って言って、本当に暴れ出したら……誰が僕を止めるんです?」

 

 

「お主……!」

 

 

「僕は四番隊のあの場所と、僕を頼ってくれる勇音さんがいるから、大人しく十三隊(ここ)にいるんです。

僕からあの平穏を取り上げたら、

僕が今度はどこで『嵐』を吹かせるか、

分かったもんじゃないですよ?」

 

 

それは、脅迫ではなく、ただの事実。

 

 

 (僕を縛ろうとするな。大人しく四番隊でサボらせておくのが、尸魂界にとって一番安全だ)という、最強の男にしか許されない絶対的な交渉だった。

 

 

元柳斎は星の目をじっと見つめ返し、長い沈黙が部屋を支配した。星の魂魄の底に眠る、かつて藍染の反膜すら粉砕したあの底なしの深淵。それを今ここで敵に回すリスクを、老獪な総隊長が理解できないはずがなかった。

 

 

「……フウ。やれやれ、これだから力のある若者は扱いづらい。」

 

 

先に息を吐いたのは、部屋の隅の影で事の顛末を見守っていた

京楽春水だった。京楽は網代笠をくいと上げ、

苦笑しながら総隊長の前に歩み出る。

 

 

「山じい、これ以上は不毛だよ。八神くんの言う通り、彼は四番隊で勇音ちゃんに尻を叩かれてる時が一番無害さ。下手に隊長の椅子なんて与えて、ストレスで瀞霊廷を更地にされたら堪ったもんじゃないからねぇ。」

 

 

「京楽、お主……。」

 

 

「それにさ、卯ノ花隊長も『私の可愛い部下を奪わないでください』って、裏で結構怒ってたよ? 怒らせると山じいでも怖い人でしょ、あのネエさん。」

 

 

京楽の絶妙な助け舟に、元柳斎はふん、と激しく鼻を鳴らした。

 

 

そして、渋々といった様子で星から霊圧を収め、背を向ける。

 

 

 

「……ならば、八神星。隊長職が嫌と言うなら、せめて四番隊の三席、あるいは四席の座に就け。お主ほどのバケモノを、席官という最低限の枠にすら嵌めぬわけにはいかぬ。」

 

 

「え、席官ですか? めんどくさいなぁ……。」

 

 

「却下じゃ! これ以上の妥協は一歩も認めん! お主が四番隊の席官として勇音の補佐につくならば、形の上では『副隊長の監視下』にあると言い訳が立つ。……それすら拒むなら、今ここで老骨の全霊を以て、お主を縛る執務室(ここ)を墓標とするぞ。」

 

 

 

 山じい、最後の意地である。

 

 

 「勇音ちゃんの監視下(という建前)」にするから大人しく席官をやれ、という、総隊長なりの必死の折衷案だった。

 

 

 星は隣でクスクスと笑っている京楽をチラリと見てから、やれやれと両手を挙げた。

 

 

 

 

「分かりましたよ。じゃあ、上の席の人がいなくなると可哀想だから、空いてる『四番隊四席』で。それなら勇音副隊長のすぐ後ろでサボれますし。」

 

 

 

「……フン、勝手にするが良い。二度と瀞霊廷内で不穏な真似は許さぬ。下がれ、八神星。」

 

 

 

「はっ。お気遣い、痛み入ります。」

 

 

 

星は綺麗に一礼すると、今度こそ一番隊舎の重い扉を開けて退出した。

 

 

 

 ──数日後。

 

 

 

 

四番隊の隊舎には、新しく『四番隊四席』の腕章を腕に巻き、相変わらずのんびりと薬草を干している星の姿があった。

 

 

 

 

「あ、八神くん! 四席になったからって、お仕事中に日向ぼっこしちゃダメだよ! ほら、次の健診に行くよ!」

 

 

 

廊下から、少しだけ嬉しそうに、けれど相変わらずドギマギと顔を赤くした勇音が、星の腕章を見つめながら声をかけてくる。

 

 

 

「はいはい、今行きますよ、勇音副隊長。」

 

 

 

隊長の座は蹴ったものの、最愛のヒロインのすぐ後ろ

──特等席を手に入れた最強の死神。

 

 

 

護廷十三隊の誰もが彼の『規格外』を知りながらも、彼は今日もまた、四番隊ののんびりした空気の中で、愛しい日常を守るために微笑むのだった。




と、言う訳で四番隊の四席に昇進になりました。

今後の破面編の前に閑話入れるかも知れません。
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