考える事少ない回でした。
平和が一番。
すべての騒動が収まり、
黒崎一護たち現世組が空座町へと帰還する前日。
四番隊舎の中庭では、一護や茶渡泰虎、石田雨竜、
そして井上織姫が、出発前の体調チェックのために集まっていた。
「あ、八神くん。井上さんの分の書類、ここに置いておくね。」
「ありがとうございます、勇音副隊長。……って、だからなんでまだそんなに顔を赤くして一歩引いてるんですか。」
新しく四席の腕章を巻いた星が苦笑すると、
勇音は「だって、あの、その……」と指先をモジモジさせながら、相変わらずドギマギと視線を彷徨わせている。
星が全死神の前で圧倒的な力を見せ、山じいと対等に渡り合って四番隊に残ってくれたあの日から、彼女の胸の鼓動は鳴り止まないままだ。
「あ、あの……八神、さん、ですか?」
そんな二人の甘酸っぱい空気に割り込んできたのは、おどおどとした様子のオレンジ色の髪の少女──井上織姫だった。
「ん? 君が井上織姫ちゃんね。僕の治療に何か不備でもあった?」
「いえ、逆です! 黒崎くんや茶渡くんから聞いたんです。四番隊に、どんな怪我でも一瞬で治しちゃう、凄く優しくてかっこいい死神の人がいるって!」
そう言って、織姫は自身の髪飾り(盾舜六花)に触れながら、純粋な憧れの瞳を星へと向けた。
「あの……私、死神じゃないのに、変な力(事象の拒絶)でみんなの怪我を治してて……。だから、八神さんみたいな凄い『治すプロ』の人に、どうすればもっとみんなを上手く助けられるか、お話を聞いてみたくて……っ。」
星は、織姫の純粋な心根と、その髪飾りに宿る「神の領域」の力を見つめ、フッと優しく笑った。
「君の力は、僕の回道(医療)とは少し毛色が違うけど
……本質は同じだよ。
『誰も傷つけたくない』っていう強い心が、
その力を何倍も強くする。
今のままで十分、君はみんなの立派な救世主さ」
「八神さん……。はいっ! 私、もっとがんばります!」
ぱっと顔を輝かせる織姫。
そんな二人のやり取りを、少し離れた場所で見ていた一護とチャドが、ボソッと呟く。
「……なぁチャド。あの八神って四席、やっぱりどう見てもただの死神じゃねぇよな。井上ですら気づいてねぇけど、あいつが笑った瞬間、周囲の空気の重さが一瞬で変わったぞ」
「あぁ。俺の致命傷を治した時もそうだ。彼は……護廷十三隊の、どの隊長よりも底が知れない」
一護は、双殛の丘で見た。
あの冷徹な霊圧の深淵を思い出し、
未だに背筋が寒くなるのを感じていた。
「じゃあな、八神! 色々ありがとよ!」
「ああ、気をつけて帰れよ、少年たち。現世に戻ったら、ちゃんと高校生らしく勉強しろよー。」
星はひらひらと手を振り、勇音と共に現世組の背中を見送った。
サボり魔の四席と、ウブな副隊長。二人の穏やかな日常が、再び戻ってきたかのように思われた。
──だが。
彼らが現世へ戻ってから、そう時間は経っていなかった。
【虚圏(ウェコムンド)・夜虚宮(ラス・ノーチェス)】
常に白い砂漠と夜に包まれた世界。その中心に聳え立つ宮殿の玉座で、右腕と脇腹に痛々しい包帯を巻いた藍染惣右介が、静かに瞳を開いた。
その傍らには、星の『風雷双竜陣』によって同じく満身創痍となった市丸ギンと東仙要の姿もある。
「……藍染隊長。傷の具合は、いかがですか。」
東仙が苦渋に満ちた声で尋ねる。崩玉を手に入れ、完全な神になるはずだった王の肉体には、今もなお、翡翠の暴風と漆黒の雷撃の爪痕が深く刻まれていた。
「問題ない、要。肉体の損傷など、崩玉の覚醒を前にすれば些事(さじ)に過ぎん」
藍染はフッと冷酷に微笑んだが、その瞳の奥には、
かつてないほどの濃密な「怨念」と「愉悦」が渦巻いていた。
「八神星……。101年前のみならず、私の昇天の瞬間までをも汚した男。君の持つ『迅雷烈風』……実に美しい力だ。だが、私の計算を二度も狂わせた対価は、いずれその命で支払ってもらう。」
藍染は玉座の肘掛けを静かに、しかし粉々に握り潰した。
「──ウルキオラ、ヤミー。」
藍染の呼び声に応じ、闇の中から二体の異形──圧倒的な霊圧を纏った【破面(アランカル)】が姿を現す。
「現世へ赴き、黒崎一護の力を測定してきなさい。
……そして。」
藍染の口元が、歪に釣り上がる。
「瀞霊廷の四番隊四席──八神星。
あの男がどのような顔をして現世の犬どもを庇うのか、
その目で確かめてくるがいい。
私の『新世界』の始まりに、
あの男の血を以て最初の生贄とするために──」
ゴォォォォォ……ッ!!!
藍染の放った凄まじい殺意と霊圧が、
夜虚宮の全域を震撼させる。
一度は退けたはずの最悪の驚異が、
今度は『破面』という新たな牙を磨き、
再び星の愛する平穏へと狙いを定めていた。
激動の幕が、
今、現世の空を割って開かれようとしていた。
次回から破面編に入ります。
原作のどの部分に星を関わらせるか。
頑張って考えます