空座町決戦から、しばらくの時が流れた。
「──よし、これで今日のパトロールも異常なし、っと。」
夕暮れ時の空座町。
高校の制服を着た黒崎一護は、
ビルの屋上から街を見下ろして小さく息を吐いた。
あの大戦からこっち、一護は死神の力を失うどころか、
断界での修行によって「自身の霊圧を限界まで引き上げて完全制御する」という、死神代行としての至高の領域を維持し続けていた。
おかげで、街に現れる並の虚(ホロウ)くらいなら、斬魄刀を抜くまでもなく、一暼して霊圧の圧をかけるだけで霧散してしまう。文字通り、現世の絶対的な守護神だ。
「……にしても、平和すぎるな。」
一護は頭を掻きながら、ふと、あの決戦の直後に出会った、
あの「異常な四番隊員」の言葉を思い出していた。
『少年、力を欲しがるのはいいけどさ。
その力に呑まれて周りを傷つけるようなら、
次はその仮面ごと、君の魂魄を消し飛ばさなきゃいけなくなるよ。』
圧倒的な質量で世界をねじ伏せた、八神星。
あの男に比べれば、今の自分の力など、
まだまだ引き上げただけの「借り物の領域」に
過ぎないのかもしれない。
一護は無意識に、己の力をさらに洗練させようと、
日々の鍛錬を怠っていなかった。
そんな、変わり映えのしない平穏な日常の帰り道。
一護がカバンを肩にかけ、駅前の通りを歩いていた、
その時だった。
「──よう、黒崎一護。ちょっと、耳を貸してくれないか。」
不意に、物陰から声をかけられた。
振り返ると、そこには長いトレンチコートを羽織り、首元に奇妙なクロスのネックレスを下げた大柄な男──銀城空吾が立っていた。その瞳は、どこか胡散臭い光を宿している。
(……なんだ、この男?)
一護の勘が、男から微かに漂う「人間でも死神でも虚でもない、奇妙な霊圧」を敏感に察知した。
「あんた、誰だ? 俺に何か用か。」
「そんなに警戒するなよ。俺の名は銀城。
……お前と同じ、『死神代行』の肩書きを持つ男さ。」
銀城は不敵に笑い、自分のネックレスを弄んでみせた。
「俺たちの組織『XCUTION(エクスキューション)』は、お前のような特別なお人好しを歓迎する。……単刀直入に言おう。黒崎、お前のその『死神の力』について、ちょっとした取引がしたくてね。」
原作であれば、ここで銀城は「力を失った一護の絶望」に付け込み、甘い言葉で誘惑するはずだった。
──だが、今回の黒崎一護は、最初から「最強」である。
「死神代行……? 取引……?」
一護は眉をひそめ、ジト目で銀城を上から下まで眺め回した。
「悪いけど、俺の死神の力はピンピンしてるし、何の不自由もしてねぇ。怪しい宗教の勧誘なら、他を当たってくれ。」
「……は?」
銀城の笑顔が、一瞬でピキリと固まった。
(おかしい。藍染との死闘で力を使い果たし、絶望しているところを救い上げる手筈だったはずだが……この霊圧の質量は何だ? むしろ、戦う前より遥かに禍々しい圧を感じるんだが……!?)
想定外すぎる一護の「余裕」と「強さ」に、
銀城の脳内のシナリオが早くも大破し始める。
「じゃあな。俺、これから家で夕飯だから。」
一護が冷たく言い放ち、背を向けて歩き出そうとした、
まさにその時。
「──おやおや。現世のパトロール中に、
ずいぶんと珍しい『迷子』が紛れ込んでいるね。」
サァ……と、二人の間に、どこか懐かしく、そして魂の奥底まで凍りつかせるような、翡翠色の「涼やかな風」が吹き抜けた。
「──ッ!?」
銀城の背筋に、未だかつて経験したことのない全細胞が拒絶するような戦慄(恐怖)が走る。
駅前の街灯の影から、だらしなく四番隊の白衣を羽織った男
──八神星が、いつも通りの飄々としたサボり魔の
笑顔を浮かべて、静かに歩み出てきた。
「よぉ、少年。現世のラーメンを食べに来たら、なんだか面白そうな密談をしてるじゃないか。」
「八神、さん……!? なんであんたがここに……っ!」
一護が驚愕の声を上げる。
最強の死神代行の前に現れた、初代死神代行。
そして、そのすべての企みを裏から見透かして現れた、
十三隊最強の「陰の実力者」。
噛み合わない歯車が、現世の街角で、
最悪の『分からせ』のメロディを奏で始めようとしていた。
無月を会得した黒崎一護は、始解の姿で代行業務してます。
イメージとして、黒崎一護が卍解した後の『必殺技』のポジションだと思って下さい。