全然話が浮かんで来ない。
──ここが、俺たちの隠れ家(アジト)だ。」
銀城に案内され、一護と、その後ろを「現世のラーメンはやっぱり美味しいねぇ」と呑気に歩く星が足を踏み入れたのは、
薄暗いバーのような場所だった。
「遅かったじゃない、銀城。……って、
誰よそのガキと、だらしない死神は!」
真っ先に声を上げて突っかかってきたのは、
ツインテールの少女、毒ヶ峰リルカだった。
奥のソファではゲーム機をいじる雪緒や、
静かに本を読むジャッキー、
バーテンダーのギリコが一斉に視線を向ける。
「リルカ、静かにしろ。……黒崎一護だ。
そして、こっちの男は……
四番隊のパトロール死神、八神星だそうだ。」
銀城が忌々しそうに星を睨む。
「四番隊? 救護班の雑魚死神が何しにきてんのよ!
邪魔するなら私の『ドールハウス』に閉じ込めて可愛いおもちゃにするわよ!」
リルカが星を指差してキーキーと騒ぐ。
雪緒も「ふん、死神のくせに緊張感のない男だね」
と鼻で笑った。
銀城たちからすれば、星はただの「ちょっと変わった能力を持つ四番隊員」。藍染を消し炭にしたバケモノだとは夢にも思っていない。
「あはは、可愛いおもちゃか、遠慮しておくよ。
少年、僕は一度瀞霊廷に戻って仕事の報告(サボりの言い訳)をしてくるから、あとは上手くやりなよ。」
「おう、ありがとな、八神さん。ここは俺が引き受ける。」
完成された霊圧を纏う一護の余裕に、
XCUTIONの面々が気圧される中、星はひらひらと手を振って
『穿界門』の中へと消えていった。
【四番隊舎・裏手訓練場】
瀞霊廷に戻った星は、総隊長公認のサボり権(特例)を得たものの、四番隊の空気に馴染むため、珍しく訓練場に足を運んでいた。
そこにいたのは、斬魄刀を構えた副隊長・虎徹勇音。
先の戦い以来、星を見るだけで耳まで赤くなってしまう
彼女だったが、今は真剣な眼差しを星に向けている。
「八神くん……っ! お願い、私の稽古に付き合って!」
「いいですよ。でも、僕が相手だと手加減が難しいなぁ。」
「わかってる! あなたが藍染を
……あの大戦を終わらせた本物の『怪物』だってことくらい
……っ。だからこそ、私はもっと強くならなきゃいけないの。……行くよ! 『奔れ、凍雲(いてぐも)』!」
勇音が始解を唱えると、彼女の斬魄刀が三叉の美しい刃へと形を変え、訓練場一帯にキィィンと冷たい凍気が立ち込めた。
「ふふ、いい霊圧だ。じゃあ、僕も形だけね。──『吹き荒べ、迅雷烈風(じんらいれっぷう)』」
星が二本の斬魄刀を抜くと、訓練場を翡翠色の爽やかな暴風が包み込む。卍解『星海轟嵐』の狂暴な嵐とは違う、勇音を傷つけないための、優しく心地よい風。
「たあぁぁぁぁッッ!」
勇音が長い手足を活かした鋭い踏み込みで、
凍気の刃を星の胸元へと突き出す。
キィィン! と金属音が響く。星は一歩も動かず、
右手の『烈風』だけでその重い一撃を完璧に受け止めていた。
「っ……やっぱり、軽いね……!」
「そんなことないですよ。突きに迷いがなくなって、
すごく格好いい。」
「な……っ!?」
剣を交えた至近距離で、星から向けられるいつもの飄々とした、どこか甘やかすような笑顔。
さらに「格好いい」という不意打ちの褒め言葉に、
勇音の頭の凍気が一瞬で吹き飛ぶほど顔がカッと熱くなった。
「稽古中に、からかわないで……っ!」
恥ずかしさを誤魔化すように、勇音がさらに連続で剣を振るう。
星はそのすべての猛攻を、翡翠の風を纏わせたステップで、
ダンスを踊るようにひらりひらりとかわしていく。
「おっと、危ない。……ほら、足元が留守ですよ、副隊長。」
「あ──。」
星が勇音の剣を優しく受け流し、彼女の懐にスッと滑り込んだ。
気づけば、星の左腕が勇音の細い腰を後ろからそっと支え、
右手の一振りが勇音の喉元でピタリと止まっている。
まるで、勇音を後ろから深く抱きしめるような
体勢(バックハグ)。
「……っあ、八神、くん……。」
勇音の背中に、星の胸板の確かな厚みと、
心地よい風の匂いが伝わる。
心臓の音が訓練場に響いてしまいそうなほど、
二人の距離は近かった。
「はい、僕の勝ち。……でも、本当に強くなりましたね、
勇音さん。これなら僕がどれだけ現世でサボってても、
四番隊は安心だ。」
星が耳元で優しく囁きながら刀を収め、腕を解く。
勇音は三叉の刀を握りしめたまま、真っ赤な顔で
「もぅ……結局、サボる理由にしたいだけじゃない……。」と、消え入るような声で足元を見つめるのだった。
珍しく始解しての訓練シーンでした。