XCUTIONの隠れ家(アジト)。
バーのテーブルを挟んで一護と対峙した銀城空吾は、自身のネックレスから引き出した大剣を構えることすらできず、乾いた笑いを漏らしていた。
アジトの扉を開けて戻ってきた四番隊の「パトロール死神」八神星は、カウンターの端で「ここのラーメン、チャーシューが絶品だね」と現世の出前を啜っている。
だが、そのだらしのない背中から、先ほど銀城をねじ伏せた『翡翠の風』のプレッシャーが微かに漂い、リルカや雪緒たちも完全に怯えて手が出せない。
そして何より、目の前に座る黒崎一護の霊圧だ。
限界まで引き上げられ、完全に制御された黒き死神の質量。それは銀城たちがこれまでに見た、どの死神や虚(ホロウ)をも遥かに凌駕する、底なしの「深淵」だった。
「どうした、銀城。俺の力を奪う計画だったんだろ。
やらないのか?」
一護は腕を組み、静かに銀城を見据える。
「ハッ……やれるわけねぇだろ、こんなバケモノ相手に。」
銀城は大剣を消し、諦めたように両手を上げた。
「俺たちの完現術(フルブリング)ってのは、人間に宿った虚の力だ。この力があるせいで、俺たちはまともな『人間』として生きられねぇ。
だから、お前みたいな極上の死神の器にこの力を押し付けちまって、俺たちは普通の人間として余生を送るつもりだったんだよ。」
銀城は自嘲気味に笑い、ソファに深く背を預けた。
「だが、お前は最初から完成しすぎていて、奪うどころかこっちの器が焼き切れる。計画は完全に破綻だ。……さあ、どうする? 泳がせといたネズミの企みが分かったんだ、そこの四番隊の死神と一緒に、俺たちをここで始末するか?」
リルカが悔しそうに唇を噛み、雪緒がフンと目を逸らす。彼らはみな、この異質な力ゆえに孤独を生きてきた、
迷える人間たちだった。
一護はしばらく沈黙していたが、やがて、フッと口元を緩めて立ち上がった。
「なんだ、そんなことかよ。」
「……何だと?」
「お前らがその力に絶望してて、ただの『人間』に戻りてぇって言うなら──最初からそう頼めよ。俺の器がデカすぎて焼き切れるって言うなら、お前らが人間に戻れるように、俺がその力を綺麗に『引き受けて』、会得してやる」
一護の迷いのない言葉に、銀城だけでなく、リルカたちも一斉に驚愕の目を見張った。
「黒崎、お前……何を言ってるか分かってんのか!? 俺たちの完現術を引き受けるってことは、お前の死神の力に、さらに虚に近い異質な力が混ざるんだぞ!」
「関係ねぇよ。俺は死神代行だ。現世で苦しんでる人間が目の前にいて、そいつらを救うために力が必要なら、喜んでその力を分けてもらう。……銀城。お前らのその『絶望』、俺が全部引き受けてやるよ。」
ニカッと笑う一護の姿は、まさしく彼らがずっと求めていた、すべてを包み込む絶対的な「ヒーロー」そのものだった。
「……ハハ。本当、とんでもねぇお人好しだな、お前は」
銀城は片手で顔を覆い、今度は本物の、どこか救われたような笑みを漏らした。
「おい、銀城。お人好しな少年の気が変わらないうちに、さっさとその完現術の譲渡式(特訓)ってやつを始めなよ。僕のサボり時間も無限じゃないんだから」
カウンターの端から、
星がスープを飲み干して飄々と声をかける。
星の瞳には、一護の圧倒的な「主人公としての成長」に対する確かな満足感と──そして、己の中の無限に膨らみ続ける不穏な霊圧を思い、ほんの一瞬だけ、切ない影が過っていた。
(少年。君がそうやって、誰かを救うために新しい力を手に入れていくなら……いつか僕が『世界の敵(天災)』になった時、僕を止めてくれるのは──)
「八神さん、見ててくれよ! 俺、もっと強くなって、あんたの驚く顔が見たいからな!」
「はいはい、期待してるよ、少年」
一護は銀城たちと固い握手を交わし、彼らを救うため、そして自身の『完現術』を会得するための新たなる修行へと足を踏み出す。
ひねり出した感凄い。