デジタル空間が解除され、XCUTIONのアジトに現実が戻る。
銀城たち全員から力が抜け落ち、彼らがただの「人間」へと戻った安堵感の中──雪緒だけが、最後に残った自分の完現術『インビンシブル・オーダー(無敵の秩序)』の処理に困っていた。
「あ、あの! 僕の力は特殊すぎて、譲渡とか簡単に……!」
「あーもう分かった! 雪緒、お前もさっさと人間に戻れ!」
「えっ、ちょっと、いきなり……ッ!?」
一護は、銀城たちに負けないくらい力強く雪緒の肩を掴むと、
「お前の孤独も、その力に対する執着も、全部俺が受け止めてやる!」と霊圧を雪緒の魂魄へ流し込んだ。
雪緒の完現術も光の粒子となって霧散し、
一護の黒い装甲が一段と漆黒の深みを増す。
アジトの全員が人間へと戻り、そこにいたのは、
最高にスッキリした顔の銀城と、
呆然としながらも少し涙ぐむ雪緒だった。
「……ハハ。お前、本当にすげぇな。俺たち全員の荷物を、笑いながら引き受けやがった。」
銀城が心底感心したように笑う。
──だが、その心地よい余韻は、アジトの入り口に佇む男の一言によって、冷たい氷水のように断ち切られた。
「素晴らしいね。……でも、少し困るんだよね。
僕の計画(過去)が、勝手に書き換えられてしまっては。」
月島秀九郎。
彼が懐から一振りの栞のついた刀を取り出した瞬間、
アジトにいた銀城やリルカの顔色が変わる。
彼らにとって、月島は「最も恐ろしい敵」であり、
何より一護の過去を書き換えれば、
この美しい救済劇すらも彼の手の平の上で終わってしまう。
「一護、下がれッ! そいつは触れただけで、お前の過去を──」
銀城が叫ぶが、遅い。月島はすでに優雅な足取りで一護へと歩み寄っていた。
「君のその新しい力、少しだけ僕にも貸してもらおうか。……『ブック・オブ・ジ・エンド』」
月島の切っ先が、一護の眉間へと向かう。
──その時。
月島の影が、不自然に「ねじ切れた」。
「──おやおや。人の過去に勝手に土足で踏み込んで、自分好みにリフォームするなんて、随分と趣味の悪いインテリアコーディネーターだね、君は。」
いつの間にか、一護と月島の間に、
だらしなく白衣を羽織った男が立っていた。
八神星。カウンターでラーメンを食べていたはずの男が、
月島の刃を指先一本で受け止めている。
「……死神? 邪魔をしないでくれるかな。君は僕の過去の──」
月島が星に刀を入れ、その精神世界へと侵入しようとした。
──だが、次の瞬間。
月島の表情から血の気が完全に消え失せた。
「……なっ、これは……ッ!?」
月島の『ブック・オブ・ジ・エンド』が触れた星の精神世界。
そこにあったのは、星自身の過去ではない。
『烈風』が編み上げた無限の暴風の檻と、
その檻を内側から食い破らんとする、
神をも焼き切る漆黒の雷撃──『迅雷』の暴力的な奔流。
星が毎日必死に封印している
「無限に溢れ出る神の霊圧」の、ほんのわずかな漏れ。
月島がその深淵に触れた瞬間、
過去を書き換えるという生温い能力など、
その莫大な「天災の質量」によって一瞬で精神が焼き切れ、
脳がショートした。
「が、ぁ、あぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
月島は悲鳴を上げる間もなく、刀を落として膝から崩れ落ちた。泡を吹き、白目を剥いて卒倒する。
星は倒れた月島の襟元を軽く踏みつけ、
冷ややかな視線を向けた。
「人の過去を盗み見して、優越感に浸ってた報いだ。……君の脳みそ、今度から少しだけお休みしてもらうよ。二度と、他人の人生を勝手に書き換えるような真似はできないようにね。」
星が指先から放った極小の翡翠色の風が、
月島の脳に直接「静かなる嵐」を吹き込み、
彼の『ブック・オブ・ジ・エンド』の機能を完全に封印した。
「さて。これでお掃除完了。……一護、僕、本当に腹減っちゃったよ。次はラーメンじゃなくて、牛丼にしてくれない?」
いつもの飄々とした笑顔に戻った星に、
一護は月島を見ていた恐怖を忘れ、ただただ
「……あんた、一体どうなってんだよ」
と呆れ果てるしかなかった。
どーーしても雪男の完現術を譲渡する方法が思いつきませんでした。
強引すぎたかなぁって。反省しています。