「八神くーん! またお昼寝ですか!?
救護班の書類、まだ半分も終わってないんですよ!」
ぽかぽかと暖かい陽気が差し込む、四番隊舎の裏庭。
縁側でだらしなく白衣を枕にして寝転がっていた星は、
怒ったように頬を膨らませて走ってくる虎徹勇音の声に、
ゆっくりと片目を開けた。
「いいじゃないですか勇音さん。
書類なんて逃げないんだから、明日やれば……。」
「駄目です! 卯ノ花隊長も『今日は八神くんにしっかり働いてもらいましょう』って笑顔でおっしゃってました!」
「うわぁ、隊長のあの笑顔は断れないやつだ……。」
星は降参とばかりに両手を上げ、のっそりと起き上がった。
怒りながらも、お茶の入った湯呑みを差し出してくれる勇音。
その微笑ましすぎる日常。
藍染を倒し、現世の完現術者たちの因縁を精算したことで、
瀞霊廷には今、奇跡のような平穏が満ちていた。
だが──。
「……ん?」
勇音が、お茶を配るために一瞬だけ背を向けた、その刹那。
ゴキリ、と。
星の魂魄の最深部で、悍ましい「空間のきしみ」が鳴り響いた。
(──ッ、また……!)
精神世界では、
二振りの片割れたちが血を吐くような有様で悲鳴を上げていた。
『烈風』が編み上げた何千もの暴風の檻が内側から爆散し、
それを『迅雷』が漆黒の雷撃で強引にねじ伏せて、
辛うじて外界へ霊圧が漏れ出すのを防いでいる。
日々、無限に上昇し続ける神の霊圧。
星は白衣のポケットの中で、自身の右手を強く、強く握りしめた。手のひらから伝わるのは、もはや死神の領域を遥かに超越した、世界そのものを消滅させかねない「天災の残響」。
(あはは……本当に、もう猶予がないな)
星は、お茶を持って微笑む勇音の横顔を見つめながら、
誰にも聞こえない、届かない声音で、
静かに己の運命を悟るように呟いた。
「……あと1回か2回、卍解を使ったら
……もう、保たない。『さようなら』か。」
次に本気を出した時、己の器は完全に崩壊し、
三界のどこにもいられなくなる。
だけど、もしその「あと1、2回」で、この愛おしい四番隊の日常を、一護たちの生きる世界を守り切れるなら、それも悪くない──。
星がそんな、静かなる決意を翡翠の瞳に宿した、まさにその日。
──世界の『崩壊』は、あまりにも唐突に、
そして冷酷に始まった。
【技術開発局 ──緊急警報】
「報告します! 現世における『虚(ホロウ)』の消滅件数が、過去数日、異常な数値を記録! 魂魄のバランスが、現世側に大きく傾いています!」
「何だと……!? 虚を浄化(死神)しているのではない、これは……魂魄そのものの『完全消滅』だというのか!」
技術開発局のオペレーターたちの悲鳴が響き渡る。
さらに次の瞬間、一番隊舎──総隊長室の影から、漆黒の装束に身を包んだ、異様な霊圧を纏う集団が音もなく姿を現した。
「──我々は『見えざる帝国(シュテルンリッター)』。これより五日後、護廷十三隊は我が『見えざる帝国』により、完全に殲滅される。」
千年の怨恨を抱き、闇の底で牙を研ぎ続けていた滅却師(クインシー)の王──ユーハバッハ。
彼らの宣戦布告とともに、瀞霊廷は一瞬にして、未だかつてない血と絶望の渦へと叩き落とされることになる。
だが、見えざる帝国の最高統帥宮の奥底で、ユーハバッハの右腕であるハッシュヴァルトは、一つの不気味な報告書を睨みつけていた。
『特記戦力──八神星。藍染惣右介を無傷で討ち倒した、四番隊の特等遊撃戦力。その卍解の全貌、計測不能。我が帝国の計画における、最大の【不確定要素(イレギュラー)】なり』
「……八神星。お前が世界を救う『神の風』か、あるいは全てを滅ぼす『凶星』か……。見定めさせてもらうぞ。」
最強の死神代行・黒崎一護。
無限の進化の呪いを抱える四番隊員・八神星。
そして、千年の復讐を誓う滅却師の王・ユーハバッハ。
すべての因縁が交錯する、
最終決戦『千年血戦篇』が、ここに今、幕を開ける──。
この夏のアニメでBLEACHが完結する前に終わらせたいなぁ。