──ゴオオオオオオオオオ……。
一番隊舎の遥か上空。かつてない熱量で瀞霊廷を
干上がらせていた総隊長。
山本元柳斎の卍解『残火の太刀』の炎が、ユーハバッハの掲げたメダリオンによって冷酷に吸い尽くされ、消えた。
「……山本元柳斎。さらばだ。」
ユーハバッハが、光を放つ巨大な大剣を容赦なく振り下ろす。
卍解を奪われ、全霊の力を使い果たした総隊長の肉体が、無残にも一刀の下に分断されようとした──その、コンマ数秒の刹那。
「──、──、──ッッッ!!!!」
音が、消えた。
ユーハバッハの剣が山じいの肌に触れるよりも早く、灰色の戦場を翡翠の風と漆黒の雷が一本の「光の線」となって貫いた。
──『風魔雷光閃(ふうまらいこうせん)!!!』──
それは星が己の霊圧メーターを気にしながら、
卍解が暴発するギリギリエッジの閾値まで
一瞬で霊圧を跳ね上げ、始解『迅雷烈風』の出力を一つの
「点」にまで超凝縮して放った、三界最速の神速抜刀。
──ギィィィィィィィンッッッッ!!!!
凄まじい金属音が瀞霊廷の天を衝く。
ユーハバッハの大剣が、総隊長の首筋の手前で、
交差した二振りの斬魄刀──
『迅雷』と『烈風』によって完全に噛み止められていた。
「なっ……!?」
背後に控えていたハッシュヴァルトが、
初めてその端正な顔を驚愕に歪める。
あのユーハバッハの全霊の抜刀に、
正面から、しかも瞬歩の知覚すら不可能な速度で
割り込んできた死神がいたのだ。
「……がはっ……、ふぅ……。間に合っ、た……。」
総隊長の前に立ちはだかった八神星の口元から、
一筋の鮮血が流れる。
敵の攻撃によるダメージではない。
今の一撃の速度を出すために、体内(精神世界)で
『迅雷』と『烈風』の封印を一時的に限界まで緩めたせいで、
星の肉体そのものが内側からの霊圧の質量で
ミキミキと悲鳴を上げていたのだ。
(あはは……危ねぇ……。今のでメーターが跳ね上がった。
あと少しでも霊圧を込めてたら、ここで卍解が強制起動して、
僕の器は粉々だった……)
心臓が破裂しそうなほどのきしみを感じながらも、
星はユーハバッハを目の前にして、いつも通りの不敵で
気怠げな笑みを浮かべてみせた。
「……何者だ、お前は。」
ユーハバッハの燃えるような瞳が、星を捉える。
「ただの四番隊員ですよ。
……ちょっとうちの『最高齢の患者』が危なそうだったんで、
往診に来させてもらいました」
「──貴様、特記戦力・八神星か。」
ハッシュヴァルトが即座に剣を抜き、
星へと間合いを詰めようとする。
だが、星の『風魔雷光閃』が残した圧倒的な風の余波と漆黒の雷の障壁が、ユーハバッハたちの足元を強烈に爆破し、
その距離を強制的に引き離した。
星はその隙に、ボロボロになった総隊長の身体を片腕で支え、
一気に後方へと瞬歩で退避する。
「……八神、星……。お主、何故ここに……。」
息も絶え絶えの総隊長が、掠れた声で星を見上げる。
「静かにしててください、総隊長。
医者の言うことは絶対です。
……ここからは、僕の仕事(回道)の時間だ。」
星は自身の霊圧が暴発しないよう、
再び細心の注意を払って出力を絞り込みながら
翡翠色の回道を注ぎ込み始める。
山本元柳斎重國の命の灯火を、
星がその圧倒的な「速度」と「執念」で繋ぎ止めたのだ。
ユーハバッハは、退いた星の後ろ姿を見つめながら、
静かに大剣を収めた。
「……面白い死神だ。己の力を封印しながら、我が剣に割り込むか。……ハッシュヴァルト、退くぞ。これ以上の戦いは、現世の黒崎一護、そしてあの男の『暴発』を招くだけだ。」
特記戦力・八神星の、命を削った超絶技『風魔雷光閃』。
その一撃が、第一次侵攻の歴史を大きく書き換え、総隊長の命を救い出したのだった。
山本元柳斎重國生存ルート発生