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現世、夕暮れの空座町。
空を真っ二つに引き裂き、黒腔(ガルガンタ)から這い出してきた巨大な最上級虚(ギリアン級)の群れを前に、
八神夜は深く溜息をついていた。
「はぁ……。だから現世任務の補佐なんて嫌だったんですよ。十一番隊の先輩たちはさっきの爆風で気絶しちゃうし、これ、私が片付けるしかないじゃないですか。」
夜は、誰も見ていないことを確認すると、
腰の二刀一対──『烈波轟炎』に両手をかけた。
普段は四番隊として大人しくしているが、
ここでダラダラして被害が広がれば、
自分の「サボり時間」が削られる。それだけは避けたかった。
「──烈波(かぜ)吹き捲りて天を裂け、
轟炎(ほのお)猛りて地を焦がせ──」
静かに、けれど大気をビリビリと震わせる超高密度の霊圧が、
スレンダーな彼女の身体から溢れ出る。
「──『烈波轟炎』!!」
引き抜かれた二刀から、赫き炎と烈風の渦が噴き上がる。
夜が軽く地を蹴り、空中を滑るように虚の首元へと肉薄した、
まさにその瞬間だった。
──キィィィィィン!!!
強烈な「黒と赤の霊圧」が、
夜の炎の前に割り込むように上空から突撃してきた。
「──『月牙天衝(げつがてんしょう)』ッッ!!!」
凄まじい衝撃波がギリアンの頭部を叩き割り、
黒い爆煙が広がる。
「『孤天斬盾(こてんざんしゅん)』……茶渡くん!
そっち危ないよ!」
「ああ、分かっている。
──『巨人の右腕』!!」
「……やれやれ。これだけ大きな霊圧が衝突していれば、
嫌でも気づくよ」
爆煙が晴れていく中、そこに並び立ったのは、
黒崎一護、井上織姫、茶渡泰虎、そして石田雨竜の四人だった。
現世に異常発生した虚を感知して、
一足早く駆けつけていたのだ。
「大丈夫か、死神の──」
一護が、夜に向けて手を差し伸べようとし、
その瞬間、完全に言葉を失った。
黒髪ロングのポニーテール。
星のように澄んだ、翡翠色の瞳。
そして何より、彼女が纏っている、
無限に広く深い夜空のような霊圧の「容量(器)」。
「あんた……。八神、さん……なのか……?」
一護の肩が微かに震える。
かつて、自分を、そして世界を救うために「概念」となって
風に溶けた、あの八神星。
その霊圧の気配に、あまりにも酷似していた。
「え? あ、どうも、初めまして……?」
夜は慌てて『烈波轟炎』を鞘へと収め、
いつもの気の抜けた表情(サボりモード)へと戻った。
「あの、私、四番隊の新入りの八神夜って言います。
黒崎さん……ですよね? 凄いですね、
一撃で虚を倒しちゃうなんて!
さすが代行証持ってる人は違いますねぇ〜。」
パタパタと手を振りながら必死に誤魔化そうとする夜。
しかし、雨竜は眼鏡の位置を直しながら、
鋭い視線を彼女の二刀へと向けていた。
「黒崎、彼女の霊圧……。
確かに、あの男と同じ『八神』の血脈を感じる。
それに今の風と炎の斬魄刀……ただの新入りとは思えない
霊圧じゃないか?」
「織姫、チャド。ちょっと下がっててくれ」
一護はゆっくりと夜に歩み寄り、
その翡翠色の瞳を真っ直ぐに見つめた。
夜は「うわ、なんかすごい見つめられてる……。
まさか私の霊圧知ってるの?
変に戦う様になったら嫌だなあ……」
と内心不安だったが、
一護の口から出たのは、全く違う言葉だった。
「八神、夜……。そうか。同じなんだな。」
一護は、星くんが命を懸けて遺してくれた
「呪いのない、平和な日常」が、
こうして目の前の少女の中で生きていることを悟った。
一護の口元に、どこか切なく、
けれど心から嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「……悪い。人違いだ。ちょっと、昔の知り合いに似ててさ。」
「は、はぁ……。そうですか。」
「四番隊なんだろ? だったら、お前が戦う必要はねぇよ。
ここは俺たちが片付けるから、後ろで大人しくサボってな。」
一護はそう言って、ニカッと笑った。
その「サボってな」という言葉に、
夜ちゃんの翡翠の瞳がパァァァと輝く。
「えっ! 本当ですか!? ありがとうございます黒崎さん!
じゃあ私、あそこの電柱の影で先輩死神の看病(お昼寝)
してますね!」
「フッ面白い子だな、黒崎。」
「ああ、だけど……」
一護は、再び斬月を構え、虚の群れへと向き直る。
「あいつの残したこの空は、俺たちが守らなきゃな。」
「──フン。言われなくても、
僕の弓はもう引き絞られているよ。」
雨竜が銀色の光の矢を放ち、チャドが拳を握る。
夕暮れの空座町に、一護たちの闘志と、
夜ちゃんの放った『烈波轟炎』の熱風の薫りが、
心地よく混ざり合って吹き抜けていく。
星が遺した夜空の下で。
少女の「夜」は今、かつての星を知る者たちと、
確かにその運命の歯車を噛み合わせるのだった。
原作の主人公との邂逅。
残した物と残された者。
思う事も、感じる事も大きく違いますよね。