地獄の七日間を終え、ようやく勝ち取った四番隊としての平穏。
四番隊舎の静かな廊下で、夜は救護班としての通常勤務——包帯の補填と薬草の調合——を、これ以上ないほど穏やかな顔でこなしていた。
「ふふ〜ん♪ やっぱり四番隊のこの平和な空気最高……。
もう二度と更木隊長にも山じい様にも関わらないで、
このまま一生救護班として静かに暮らすんだ……」
だが、そんな夜の慎ましいサボり願望は、
緊迫した伝令神機の警報音によって一瞬で打ち砕かれた。
『──緊急伝令! 現世・三号地区にて想定を超える規模の虚の群れが出現! ただちに後方待機および救護班を編成せよ!』
「八神三席、行きますよ!」
「は、はいっ!」
四番隊の編成に従い、救護班として現場へ急行した夜。
だが、穿界門を抜けた現世の路上で、遠目にその「敵」を捕捉した瞬間──夜の翡翠色の瞳が、強い違和感に揺れた。
「何? あれ……」
そこにいたのは、通常の巨大な虚(ホロウ)とは
明らかに異なる異形の影。
体躯は人間ほどに小さく、しかしその移動速度と
鋭利な霊圧の奔流は、あり得ないほどの異常さを誇っていた。
前線に配置されていた六番隊と九番隊の混合部隊が、
一瞬のうちに散り散りへと蹴散らされていく。
その残像を目で追いながら、夜の口から自然と単語が漏れ出た。
「……破面(アランカル)……?」
「そんな筈ないわ。虚圏の破面は残り全てが、
ティア・ハリベルに統率された筈」
背後から響いた凛とした声に振り返ると、
そこには十番隊副隊長・松本乱菊が立っていた。
乱菊は豊満な胸を張り、妖艶な笑みを浮かべて
夜の肩をぽんと叩く。
「ま、お姉さんに任せておきなさい!」
茶目っ気たっぷりにウインクすると、
乱菊は風を切る瞬歩で前線へと駆け出していった。
しかし──副隊長格である乱菊が前線に立ち、
交戦を始めたというのに。
夜の胸の奥で渦巻く「強い違和感」と「不快な悪寒」は、
拭い去るどころか益々膨れ上がっていく。
(行かなければ──)
ふと、そんな考えが脳裏を過ぎった。
夜は自分自身のその思考に、
信じられないというように目を見開いた。
「……私が? サボりたいだけの私が……
戦いたいって言うの……?」
「──唸れ、『灰猫』!」
遠くで乱菊の解号が響き、煙状に変化した刃が空中を舞う。
一進一退の攻防。
だが、相手の「小ぶりな虚」の動きはあまりに異質だった。
灰猫の死角を突くような不気味な軌道、
そして放たれる白銀の熱線。
次第に乱菊の身体に痛々しい擦過傷と血が滲み始めていく。
胸の奥が、熱い。
いや──夜の体内に眠る「八神の血」が、あの虚の奥底に潜む『何か』に反応して激しく警鐘を鳴らしていた。
(違う……あれはただの虚じゃない──!)
気がついた時には、夜の手は腰の二刀の柄に伸びていた。
誰に命じられたわけでもない。
サボりたいという自分の本能すら置き去りにして、
夜は静かに二振りの斬魄刀を鞘から引き抜いていた。
「……戦るんだ。分からないけど……私が戦わなくちゃ」
何かに強力に後押しされるような、不思議な衝動。
七日間の地獄の特訓を経て、
洗練された霊圧が静かに二刀へと宿っていく。
「──烈波吹き捲りて天を裂け、轟炎猛りて地を焦がせ──
『烈波轟炎』!!」
自分の意志で、大切な誰かを護るために。
サボり魔・八神夜の「自発的な最初の戦闘」が、
今ここに幕を開けた──!
BLEACHっぽくなってますかね?
最終回をじっくり堪能してたらまた期間空いてしまって申し訳ないです。
熱量上がってきたので更新頻度あがるかも知れないです。